【国と地方】斉藤惇氏 第7話:「中心市街地の衰退とまちづくり3法」

2006年5月14日

saito.jpg斉藤惇 (株式会社産業再生機構代表取締役社長)
さいとう・あつし
profile
1939年生まれ。63年慶應義塾大学商学部卒業後、野村證券株式会社入社。同社副社長、スミセイ投資顧問顧問を経て、99年住友ライフ・インベストメント社長兼CEOに就任。2003年より現職。主な著書に『兜町からウォール街─汗と涙のグローバリゼーション』 『夢を託す』等。

中心市街地の衰退とまちづくり3法

 まちづくり3法について言えば、私は畑をどんどん潰して大きなショッピング・センターを作るということには反対です。

 しかし、そこには農家が老齢化して米を作る人がいなくなってきて、土地を貸して土地代をとれば現金収入が入る、農業は誰も引き継がないから、草ペンペンの畑よりも、それを埋めてしまってショッピング・センターができた方がいいという背景があります。

 ですから、私は、農業の株式会社化をどんどんやるべきだと思います。大型農業をやって、棚田をつくり、きれいな農村をつくるべきだと思います。

 しかし、それと中心市街地の惨状は分けて考えるべきです。中心市街地は閑古鳥が鳴いていると言いますが、真ん中はすでに死に掛かっていても、郊外に行くと生きています。それはなぜなのかということです。消費者はどう言っているのか。消費者が中心市街地はいやだと言うのであれば、そこは魅力がないわけです。街の真ん中は自分で活性化すべきなのに、商店街の人は政治運動を起こして大型店の進出をブロックしてしまう。

 私はこうした構造がある限り、このようなことは地方分権で行政との距離がもっと近ければ、もっとひどく起こるように見えるわけです。

 中心市街地には競争という発想はありません。地方の人からみると、郊外へ行くのは中央の進出者という理解なのです。ここで、地方対中央という図になります。大型店が進出すれば金融機関も、3メガバンクがついてきます。大型ですから社債を発行したりします。地銀、信金、信組を始め、これは典型的な中央集権進出だとみるわけです。

 彼らからみると、自分のところのメリットはないように見えます。メリットを受けるのは、たいていは消費者だけです。それで東京へ地方の富を吸い上げているという見方になる。だから、大型店舗の進出に反対して、まちづくり三法が通るわけです。違うと言っているのは、イオンとかイトーヨーカ堂ぐらいです。

 日本で欠けているのは、第三者が合理的にクールにデーター分析して情報を公開するということです。アメリカなどは、研究機関や大学はそういうことをしていますが、日本の大学は何もしません。タレント的な先生が、勝手なことを勉強もしないで話している。熊本なら、なぜ熊本大学や九州大学などが徹底的にその地方への出店についてのネガティブ・ポジティブな効果を分析しないのか。あるのは感情論だけです。

 「町の真ん中はシャッターが降りたままでいいと思いますか、このままどんどん中央へいってしまいます、地方はますますさびれます、郊外に大型店が来て全部顧客を吸収してしまいます」、と言われれば、多くの人は、これはいけないと言うのです。

 地方では人口40万都市でもひとつの百貨店を維持することも難しくなっています。つまり、購買力がないのです。人口はどんどん減っています。地方は老齢化しているから、所得、購買力もどんどん落ちていくし、商業なども進出してもあまり儲からないから出ない。地方の知事の皆さんは本当に頭が痛いと思います。その結果、中央から大型店は来ないでくれということになるというのも、わからないではないです。

 しかし、地方には矛盾もあって、例えば、市街地にあるダイエーが引き揚げようとすると、行かないでくれという声もあります。来るときは、来るなと言われ、ここが儲からないから引き揚げると言うと、引き揚げるなと言うわけです。常にそういう問題は、庶民がメリットを受けるのか受けないのかということを市場ベースで考えるべきだというのが本当のところでしょう。


※第8話は5/16(火)に掲載します。

まちづくり3法について言えば、私は畑をどんどん潰して大きなショッピング・センターを作るということには反対です。