【国と地方】斉藤惇氏 第5話:「地方活性化のトータルデザイン(1)」

2006年5月10日

saito.jpg斉藤惇 (株式会社産業再生機構代表取締役社長)
さいとう・あつし
profile
1939年生まれ。63年慶應義塾大学商学部卒業後、野村證券株式会社入社。同社副社長、スミセイ投資顧問顧問を経て、99年住友ライフ・インベストメント社長兼CEOに就任。2003年より現職。主な著書に『兜町からウォール街─汗と涙のグローバリゼーション』 『夢を託す』等。

地方活性化のトータルデザイン(1)

  産業再生機構は、200件以上の持ち込みの中から41件、支援決定をしましたが、その8割程度は地方の案件です。そこで、地方の関係者を回って感じたのは、地方の活性化という言葉の意味が漠としていて、地方にある会社を再生するということイコール地方の活性化とは必ずしも言えないということでした。

 一言で地方の活性化をどうするか、と言って何をもって活性化というのかは議論はあると思いますが、中央で考えている活性化は地方で直面している状況とかなり離れているし、少し現実離れしているような感覚がします。

 例えば、ショッピングストア的なものが全国にこの間、大規模で出店しました。この場合、中央の3~4つのメガバンクが資金をつけ、建設関係も最初から東京でパックになって、それが地方に出て行きます。郊外の畑をブルドーザーでつぶして、何百台も車がとまるセンターをつくる。それが全国で今起きていますが、地元ではこれを「中央集権化」と言っています。

 農家が畑を提供してブルドーザーでつぶされても、消費者はそこへ車で行って楽しんでいる。中心街と言われるところはほとんど空っぽ状態になり、最近までは中心街ならば何とか利益が出ていたという老舗のデパートが赤字に転落する。

 そういう現象を地元の消費者は決してけしからんとは思ってはいません。しかし、商工会議所を中心に商業者は、とんでもない政策だと言い、地銀は優良貸出先は地元にはなく、中央から来る。良いものには貸し出しに参加ができないと言っています。

 このままでは日本はだめだとか、人口が減ると言う問題意識は皆さん共有しています。しかし、問題は、様々な提言はあっても、それをどのように進めるのかの戦略がきちんとできていないことです。例えば、行政や地方の商工会議所の会頭と話すと、どの地方へ行っても郊外化の話しかでてきません。例えば熊本ではイオンが郊外に出る。広島も郊外に大型店が出て、真ん中でドーナツ現象が起こっている。福島もそうです。郊外に何があるかというと、映画館や喫茶店があって、ショッピングができるというわけです。

 従来、地方都市の真ん中には映画館も喫茶店もあるし、大きなデパートもある。市民が郊外へ行かなくても済むような楽しい町にすればいいと言うと、市街地の中は競争しているからできない、お互いにつぶし合っていると言うわけです。デパートも2つあれば、お互いに相手はつぶれろと思っているので、連携して客を呼ぶという構想がない。つまり、デザイニングできる人やきちんと鳥瞰図を大きく描ける人がいない。地方というのはそうした小さな利権の代表みたいな人の集団なのです。


※第6話は5/12(金)に掲載します。

産業再生機構は、200件以上の持ち込みの中から41件、支援決定をしましたが、その8割程度は地方の案件です。そこで、地方の関係者を回って感じたのは、地方の活性化という言葉の意味が漠としていて、地方にある会社を再生するということイコール地方の活性化とは必ずしも...