斉藤惇 (株式会社産業再生機構代表取締役社長)
さいとう・あつし
1939年生まれ。63年慶應義塾大学商学部卒業後、野村證券株式会社入社。同社副社長、スミセイ投資顧問顧問を経て、99年住友ライフ・インベストメント社長兼CEOに就任。2003年より現職。主な著書に『兜町からウォール街─汗と涙のグローバリゼーション』 『夢を託す』等。
「地方は本当に自立を求めているのか(2)」
今の国と地方の議論はまだ学者の遊びのように思えます。だから、地方や庶民からどんどん乖離している。観念論だけ降りてきて、税源は絞る、地方で住民税を上げるのが自治で、その分勝手にしろと聞こえてくる。国としては、800~1000兆円の国と地方を合わせた借金をどうするのか、その中で歳出カットのターゲットは今度は地方だ、交付金は地方へのばら撒きだ、それが1000兆円の借金の大きな理由だということになっているが、証明がなされていない。中央で何が間違ったのか、それに対する検証もない。
他方、地方の側も、本当に自立を求めているところは少ない。口では言うが、勝手にやるから金をくれ、規制はしないでくれ、ということです。自立するということは、自分で痛みもとらなければいけないのですが、それはしたくない。痛みは国に押し付けたい。地方が自ら経営することが大事だとしても、それに目覚める地域の指導者がどのくらいいるのかということになる。
国と地方の財政は、全体的にみると85兆円のうち、交付金と補助金で33兆円が地方に配分され、その33兆が大きすぎるので、国としてはできるだけ縮小したい。そこで、地方税や健康保険料を上げ、自分の地域でそれをやりなさいということになる。こうした考えを中央では学者が中心となって考えても、ほとんど実効性がない。いまの国と地方の議論はその程度の段階だと思う。企業で例えるなら、営業企画部が社長の影響力をバックに現場を知らずに企画だけ立てても、フロントの連中は、何を言っているのか、現場に降りてきて仕事をしてみろということになる。
地方の側に努力する意志がないという問題は確かにあります。が、それだけで片付けられるものでもない。努力しても耐えられないということもあるからです。ある自治体では中央官庁などよりもよほど給与をカットし、ギリギリのところでやっていても、さらに何か大きな削減要請が来る。「俺たちに死ねと言うのか」というようなレベルのことがもうすでに起きているようです。
今の国と地方の議論はまだ学者の遊びのように思えます。だから、地方や庶民からどんどん乖離している。観念論だけ降りてきて、税源は絞る、地方で住民税を上げるのが自治で、その分勝手にしろと聞こえてくる。国としては、800~1000兆円の国と地方を合わせた借金をどうするのか...