政治に向かいあう言論

「日本の知事に何が問われているのか」/井戸兵庫県知事

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080104_ido.jpg井戸敏三(兵庫県知事)
いど・としぞう
1945年生まれ。68年東京大学法学部卒業後、自治省入省。鳥取県、佐賀県、宮城県、静岡県、国土庁土地局、自治省税務局を経て、運輸省航空局、自治省行政局、財政局、大臣官房各課長を歴任。1995年自治大臣官房審議官、96年兵庫県副知事(2期5年)、01年兵庫県知事に就任。現在2期目。著書に「随筆集 一歩いっぽ」「随筆集 歩みながら」「随筆集 歩みながら続」、「地方自治総合講座」(編集代表)等。

第5話 私が目指す知事像と兵庫県像~ディマンドサイドの時代への転換と台頭する市民の力~

 知事の役割についていえば、以前、知事の役割とは何かを整理して議会で答弁したのは、一つは地域経営者だということです。経営者として地域全体をにらんでいないといけない。また、二つ目は最終責任者ということです。私が知事になったときに一番感じたのは、災害のときに逃げられないということです。危機のときに逃げられない。そういう意味で最終責任者です。副知事をやらせてもらったときは、知事に最終的に決めてもらえるだろうという面がありましたが、知事になると、もう後ろを向いても誰もいない。そこが全然違います。加えて、説明責任者です。いろいろな事情を議会に対しても県民に対しても訴えていかなければいけない。また、危機のときにリーダーシップをどう発揮できるかということは非常に大事です。

 全てを兼ね備えている人というのはそういるわけではないし、私も全部自信があるわけではありませんが、心がけなくてはならないと思っています。

 これからの時代に私がかなり心配しているのは、見えていないことに対して評価がきちっとなされない可能性があるということです。見えていないことが本当は大事なのに、それが十分に評価されないおそれがある。そういう意味では、自ら見せていかなければいけないかもしれない。ですから、リーダーとしては、情報公開や説明責任というものが非常に重要になっていくのではないかと思います。

 私の仕事のやり方は、「平常時のボトムアップ、非常時のトップダウン」です。平常時でもボトムアップを待っていると遅くなることもあるので、少し言い過ぎているのかもしれません。今、心掛けている政治姿勢は「参画と協働」です。県民の皆さんとともに課題について考え、ともに議論をして、ともに決めて、ともに進めていきましょう。これが参画と協働です。

 私たちは7年前に「21世紀兵庫長期ビジョン」をつくったのですが、これもパブリックインボルブメントという県民主体の手法で策定したものです。地域の課題を積み上げる、それで一つの県政の方向づけをしていこうということを決めたのです。そこでは、創造的市民社会、環境優先社会、しごと活性社会、多彩な交流社会、こういう4つの社会像を兵庫の地でつくり出していこうということを決めました。参画と協働というベースを持って、県民主役で、県民主体の県政を進めていこうということで、地域ビジョンも決めながら県政ビジョンを決めていった。今まででしたら上から下に行くのを、下から上にボトムアップしていったのです。そのやり方が私の基本です。

 その背景には時代認識もあります。成長社会から成熟社会に変わった。成長社会のときの社会原理は、私流に言うと、画一性や標準、スタンダードでした。今の社会原理は選択と個性です。選択と個性ということは、軸足がサプライサイドからディマンドサイドに変わったということです。ディマンドサイドの一番の主役は誰かといえば、行政から見ると県民です。財政再建も、そういう形で県民と一緒にやれればいいと思っています。ただ、なかなか難しいのは事実です。県民の皆さんからすると、ハード面、ソフト面でうまくやれるように頑張ってきたわけですから、うまく復旧、復興ができたのですが、うまくやれるようにやった結果が、財政にだけツケが回ったということです。

 さて、阪神・淡路大震災はNPO法ができるきっかけになりました。そういう意味では、日本のボランティア活動の1つの転機になったことは間違いありません。全国から延べにして130万人の方々に来ていただいて、支援を受けました。それだけではなく、幾つかの新しい形態ができました。ボランティアをボランティアする、つまり中間支援団体です。ボランティアが単純に集まっても十分に機能しない。ボランティアの皆さんの力を引き出すような組織的なコントロールをするボランティアが必要なのだということに気づくことになりました。

 また、ボランティアの範囲が非常に広がりました。従来ですと、ボランティア活動というのは、自分のしたいことを勝手にやるために集まって活動しているのだというイメージだったのが、社会の中でどんな貢献ができるのか、そういう活動をしようではないかという意味での進化がありました。

 もうひとつは、常時活動していなくても、いざというときに立ち上がるというネットワークをつくっておくことが大事だということです。それが、あの震災後の活動を通じてみんなの共通意識になりました。

 我々は10年計画で復旧、復興をしてきましたが、財政的には10年後ぐらいにツケが出てくる。起債ですと、据え置き期間がありますから。ただ、それはそれで1つのタイミングだと思っています。つまり、復旧、復興は、民の方にももちろん、独自の活動をしていただきましたし、助けてもらったのですが、今まではどちらかといえば官が一生懸命リードし、引っ張ってこなければいけない時代でした。しかし、これからは、NPOや市民団体の活動も力をつけてきていますし、もともと兵庫県は県民運動という形で地域団体、自治会や老人会、婦人会、こういう団体の活動の盛んなところなのです。そういう方々がかなり引っ張っていただける時代ですので、行政がそれについていく立場になってもいいステージを迎えているのではないかと思っています。

全5話はこちらから

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