「日本の知事に何が問われているのか」をテーマに、全国の知事にインタビューを続行中です。
現在の発言者は井戸兵庫県知事です。
第5話:私が目指す知事像と兵庫県像 ―ディマンドサイドの時代への転換と台頭する市民の力
第4話:道州制よりもまず、都道府県に権限と財源を与えよ
第3話:創造的復興の次は「元気」と「生活の質」と「交流」がキーワード
第2話:財政再建に向けた兵庫県の創意工夫
第1話:震災からの創造的復興と国から突きつけられた厳しい前提の下での財政運営
第1話 震災からの創造的復興と国から突きつけられた厳しい前提の下での財政運営
いま、兵庫県では新行財政構造改革推進方策(新行革プラン)を作成中です。その背景からお話します。我々は12年前に阪神・淡路大震災という非常に大きな災害、史上かつてないほどの大都市における直下型地震に遭いました。死者だけで6434人にのぼりました。30万人の人たちが家を壊されて避難しなければいけないという状況でした。直接被害、つまり、住宅、道路、鉄道、港湾といった物理的被害だけで10兆円に達した。交通基盤や産業活動が止まったことに伴う間接被害や機会費用はここには全く入れていません。
それだけの大被害を受けた中で、どう立ち直っていくかというときに、「創造的復興」ということを目指したのです。それは、単にもとに戻すだけではなく、これから予想される少子高齢社会という厳しい社会を迎えようとしている中での復興を考えるという意味で、21世紀の課題に対応できる県の体力をきちっと養成しながら復興するということです。
そのために、復興計画、「フェニックス計画」をつくり、復興を進めてきましたが、30年分ぐらいの仕事を10年ぐらいでやったわけですから、借金と貯金の取り崩しでやらざるを得なかった。一般的な財政制度だけではなく、国もいろんな特別措置をつくってくれましたが、それだけでは間に合いません。そういう中で、私たちが発行した地方債が復興関連だけで1兆3000億円ありました。それが現在まだ、8500億円残っている。また、地方債の償還に充てる基金を取り崩したお金が累積で3500億円ほどあり、まだ戻しかねている。いわば引当金の積立不足分がまだ2700億円残っている状態です。
それは、これだけの大きな復興事業をなし遂げた当然の結果なのですが、それに対して1999年から、財政的にきちっとしておかなければいけないということで、行財政構造改革の財政フレームをつくり、その枠組みで運営してきたつもりでした。その目安は、起債制限比率で、一般財源に対する公債費の比率を15%台以下にしておこうということです。財政運営をうまくやりくりしながら、震災復興によって生じた県債の残高を少しずつ減らしていこうという発想でした。そういう形で、これまでの実績は13%台でうまくいっていました。それも、財政収支の不足分に国がそれなりに弾力的に対応してくれていたからです。
ところが、状況が一変した。第一に、夕張市の破綻以来、ストックの問題、地方債残高の問題をやはり見なければいけないという話になって、実質公債費比率という新しい基準をとりいれ、自治体の財政構造を改善していこうという方向になってきた。それですと、我々のように残高をたくさん持っているところは一挙に悪いということになってしまいます。また、地方債の発行自体が非常に窮屈になってきました。
第二に、国、地方それぞれの歳出削減が強く求められるようになった。2006年の骨太の方針にあるように、2011年に国、地方を通じてプライマリーバランスを回復しようということで、地方は、地方財政計画で2001年から2007年にかけて一般歳出が7.9兆円も減らされた。それで地方はプライマリーバランスが黒になったと言われていますが、私は、これは強制的な押しつけられた黒字化、地域の実情を無視した黒字化だと言っています。7.9兆円というのは消費税の3%分です。歳出のほうを締めると一方で、歳入もギューッと締められた。例えば交付税の削減や、地方債の弾力運用を規制するといったことです。
第三に、直に効いてきたものとして交付税の削減です。三位一体改革で5.1兆円も交付税が減った。ちなみに、税プラス交付税で東京都と他地域との格差を見ると、2003年から2006年にかけて広がっています。交付税の地域間格差の是正機能が落ちてしまっているからですが、その原因はやはり、三位一体改革での5.1兆円の交付税削減です。税の格差をカバーし切れる規模が無くなった。
こういうことを背景に、兵庫県では、ほかの県にはない阪神・淡路大震災の復旧、復興に伴う財政負担が顕在化してきました。毎年毎年の適正な財政運営をしながら切り抜けていこうとしていた前提が崩れてしまったというわけです。
これまで過去2回、財政フレームをつくり、その枠の中で運営してきましたが、結果として厳しい状況に置かれてしまったことについては責任を感じています。
ただ、今やろうとしている行財政改革の枠組みは、3度目の正直ではありませんが、見込み違いをすることは許されない。これから経済がどんどんよくなる、あるいは国が地方に対してどんどん支援するということは期待できない。今、格差問題で若干見直そうという動きはありますが、流れは大幅に変わるはずはないし、国、地方を通ずる2011年のプライマリーバランスという目標は撤回されない。したがって、自己努力をできる限りしていく必要があるという意味で、背水の陣で臨んでいます。
「日本の知事に何が問われているのか」をテーマに、全国の知事にインタビューを続行中です。
現在の発言者は井戸兵庫県知事です。