「日本の知事に何が問われているのか」/古田岐阜県知事

2007年12月30日

 「日本の知事に何が問われているのか」をテーマに、全国の知事にインタビューを続行中です。
 現在の発言者は古田岐阜県知事です。

第1話 日々の暮らしの中に県政の課題がある

 私は、地方行政については、経済産業省にいても余りかかわることはなくて、自治体への出向もありません。そういう意味では、知事として、更地で、これからどうしたらお役に立つのかという、本当に白紙からのスタートでした。

 私は岐阜市の生まれ育ちですが、高等学校を卒業してから40年間離れていました。盆、暮れにはもちろん実家に帰ったりしていましたが、岐阜県や岐阜県政にそう大きな関心を持って見ていたわけではありません。ただ、梶原県政になって以降、闘う知事会というスローガンのもとでの全国知事会のリーダーシップとか、岐阜県からの発信というか、発信力というか、そういうものには注目していました。その意味では、私個人としては、知事として、余り肩に力を入れないで、最初から何をやるのだとか、何をやらなければいけないのだとか決めつけないで、虚心坦懐に見ていこうというのが出発点です。

 一方で、まさに闘う知事会ということも含めて、地方分権こそが日本の生きる道というか、あるいは今の我々の生活にしても社会にしても何にしても、国からの一律的なやり方ではなく、むしろ地方から変えていくという声が非常に高まった時期でしたから、さて、地方から声を上げるところの改革とは一体何なのだろうか。そういう改革に私自身も知事としてお役に立てるのかどうか。こういう思いでスタートしました。

 私自身は選挙の公約もそうですけれども、実際に県政の総点検をまず前面に掲げて、就任してからも、かなり大規模に、さまざまなミニ集会あり、いろいろな委員会あり、1年かけて3000項目を超える県政のほぼすべての案件について議論し、整理もし、そして大まかに言えば、「発展」、「継続」、「縮小」、「廃止」、「民間への移管」と、カテゴリー別に整理しました。それに則って私の最初の予算を組んで政策を組みました。1年かけてほぼそれを終えたわけです。それに沿って前に進んでいこうというのがこれからの課題の1つです。

 そういう総点検作業の中で、想像以上に、県政に対する率直なというか、全く忌憚のない批判が次から次へと出てきました。いろいろな場でいろいろな機会に率直に意見を伺いますということで始めたのですが、私が予想していた以上に批判がものすごく多い。例えば、あの政策、あの施設、このプロジェクト、どこが地域の発展につながっているんだ、空回りしていないかとか、もう批判の連続です。私も冗談半分に、あら、もう不信任ですかと言うぐらいです。ただ、私はそうやってあけすけに言える風土といいますか、その雰囲気はいいのではないかと思います。そういう意味で、この総点検を通じて、県内各地のいろいろな方々の声と県政との接点というものをこれからより深いものにしていくのが1つの課題だなということを感じたわけです。

 就任して最初に非常に驚いたことがあります。講堂で職員にどうぞよろしくというあいさつをしたあと、すぐ幹部会をやりました。あいさつを始めたら、副知事、局長、部長の全員がバタバタバタと、何事かなと思ったら、胸ポケットから手帳を取り出して、一言一句私の言うことを書いている。これは何だ、と驚き、「ちょっと待ってください。私はよろしくお願いしますというあいさつをしているのですから、ノートをとっていただくようなことは何もない」ということを言いました。そうしたら、今度の知事はノートをとるなと言っているよという話が伝わる。別にそうは言っていないのに。

 これは何か変です。つまり、知事語録というものがものすごく重きをなしているのだなと感じました。その後もいろいろな会で、いろいろな職員が来るけれど、皆、必死になってメモをとる、冗談までとるわけです。そこで、一緒に議論をして、一緒に考えていくということで政策は練るべきものだから、議論をしようじゃないかと言っています。まず、皆が肩に力を入れないで、気楽に議論しながら練っていくという雰囲気をどういうふうにつくり出していくか。自由に濶達に議論できるような風土づくりをしながら、皆が自分で考えて、自分で提案をする。このボトムアップの流れと最終的な知事の決断にいたる間の往復運動をもっと組織としてやろうということを感じました。どちらかというと、トップダウン型から、私としては意識的にボトムアップの流れをつくっていきたいなということを最初の頃に感じました。
 
 もちろん、大事なことについては、知事みずから決断をしなければいけないし、自分で全責任を持ってやっていくことは当然あります。しかし、何でもかんでもトップダウンというのはいかがなものかと思います。

 知事という人間に焦点を当てて、その人が何を言ったか、何をやっているか、何をやろうとしているかということを追求していくのが本当に地方分権の時代なのか。マスコミも、知事がどう言った、こう言った、どこへ行った、何をしたと一生懸命書く。しかし、私が当時、マスコミの方に申し上げたことですが、県政というのは、まず県民の日々の暮らしがある。その暮らしの中でうまくいっていること、いかないことがある。そういう日々の暮らしの中から起こっているいろいろな問題を、だれが、どういう格好でつかまえて、どういうふうに答えを出していくか。その地域のいろいろな課題に対するいろいろなレベルでの答えが用意されたり、うまくいったりいかなかったりということの総体が県政です。

 地方分権の時代というと、マスメディアには、知事やその他の有名な首長が登場する。トップリーダーの言動を見て、地方分権の流れが右へ行っている、左へ行っているとか、闘う知事会はどこへいったとか何とか言っている。しかし、私は、ちょっと違うのではないか、地方分権というのは人々の生活のところまで下りていって、そこで起こってくる問題についてこつこつと取り組む、すごく地道なものではないか。そういうものをこつこつとやっていくのが地方行政ではないか。そんな感じがしています。

全6話はこちらから

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