「日本の知事に何が問われているのか」/松沢神奈川県知事

2007年11月24日

 「日本の知事に何が問われているのか」をテーマに、全国の知事にインタビューを続行中です。
 現在の発言者は松沢神奈川県知事です。

第1話 都市と地方の財政格差論議には誤解がある

 都市と地方の格差が大きくなって大変だと言うけれども、これはもう少し冷静にみた方がいいと思います。人口1人当たりの税収額の偏在度を都道府県ごとにみると、平成元年度の時点では、1人当たりの税収の一番多い東京都と最小の沖縄県とは5倍の差があった。それがどんどん縮小してきて、平成15年度には2.7倍にまで下がり、その後、やや拡大しましたが、それでも17年度は3.2倍です。平成に入って以降、中期的には税収格差は縮小しているのです。

 夕張市のようなこともありましたから、地方が大変で、都市が裕福で、この格差はどうするんだという話になっている。でも、1人当たりの税収の格差をよくみると、傾向としては縮小している。格差が大きくなっているというよりも、実態は小さくなっているのです。

 もう1つ指摘したいのは、確かに1人当たりの都道府県税収(平成17年度)を比べると、東京都が一番多くて、沖縄県が一番少ない。神奈川県は12 位です。多いのは、大体大都市圏ですね。大阪府とか、愛知県とか。でも、地方交付税を配分した後の1人当たりの一般財源(地方税+地方交付税)で見ると、一番多いのは島根県で、次いで鳥取県、高知県、福井県の順番です。そして、一番少ないのが神奈川県なんです。

1人当たりの地方税の額で比べたら、住民が多くて、企業が集積している都会が多いに決まっている。でも、その後、都市と地方の税収格差を調整するために、政府が地方交付税を配分するわけですから、一般財源として使える額で見ると、一番少ないのは神奈川県であり、埼玉県、千葉県なんです。

 だから、格差が大きくなっている、問題だ、問題だと言うけれども、数字をよく見ると、むしろ都市の方が使えるお金の1人当たりの額は少なくて、こっちを助けてくれよと言いたいぐらいの部分もあります。

ふるさと納税は地方税の原則に反する

 ふるさと納税の議論でも、地方で子供を育ててきて教育でお金がかかっているのに、成人したら、みんな都会へ出ていっちゃうという。でも、その人たちを受け入れて福祉や医療でお金を使うのは都市部の自治体です。それは大変な負担です。教育論を言うのであれば、こっちの福祉論はどうなるんだという話です。私は、格差が大きくなっていると言うこと自体を懐疑的に見ています。

 では、なぜ地方が困っているのかというと、2つ理由があると思います。1つは、小泉政権で公共事業を減らしてきた。それで仕事がどんどんなくなり、建設業者などが倒産して、失業者があふれるという事態になったわけです。

 もう1つは、地方交付税をこの3年間で5.1兆円も急激に減らしたことです。みんなの税金を財政力の弱い自治体に配ることによって、必要な財源を保障し、地方自治体間の財政力を均衡させるのが地方交付税なわけです。それを、国の財政が厳しいからと言って、一方的に5.1兆円も減らしてしまった。交付税が減ったので、ますます地方は使える金がなくなって困ってしまった。

 国の財政運営の失敗で地方の財政が厳しくなってしまったのに、国は財政が厳しいから、ふるさと納税によって自治体同士で調整しろなんていうのは本末転倒です。そもそも、住民税というのは、地域の住民がその地域の自治体から行政サービスを受ける対価として払う会費です。それをよその自治体に回そうというのは、税理論としておかしいわけです。

 また、同じ県民で、同じ所得なのに、片や私はこの県に10割納税します、片や私は9割で、1割は他の県に納税しますということになったら、同じような収入があり、同じ行政サービスを受けているのに、税金を10割払っている人と9割しか払わない人が生じてしまい、公平性の面でも問題があります。それから、ふるさとの自治体に納税したときに、その自治体の行政をチェックするために議員を選べるかといったら選べません。「代表権なきところに課税なし」というのは民主政治の原則ですから、こうした点でも問題があるわけです。

 また、経費の面でも問題があります。ふるさとへの納税の可能性としては、1800の基礎自治体と47都道府県にお金を送る可能性があるわけです。どうやって税の移転を管理するのか、コンピューターシステムをつくるだけだって相当なお金がかかりますが、だれが出すのか、国がやれと言うなら国が出してくれるのか。これも地方の負担になるわけでしょう。税理論上おかしいし、公平性も損なわれる。そして、経費もかかってしまう。だから、ふるさと納税には絶対反対です。

 ただ、ふるさとを思う気持ちを大事にしてあげたい、夕張がかわいそうだ、という人に何らかの選択肢はあってもいい。それには、寄附金税制を活用すればいい。落としどころは寄附金控除を充実させようということだと思います。

全4話はこちらから

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