今回の「工藤泰志 言論のNPO」は、ギリシャに端を発したヨーロッパの財政危機。この影響を日本はどのくらい受けるのか?日本の財政問題は今後どうなるのか?について、財務副大臣の藤田幸久氏へのインタビューを交えて議論しました。
(JFN系列「ON THE WAY ジャーナル『言論のNPO』」で2011年12月7日に放送されたものです)
ラジオ番組詳細は、こちらをご覧ください。
日本の財政問題について
工藤:おはようございます、言論NPO代表の工藤泰志です。毎朝、様々なジャンルで活躍するパーソナリティが、自分たちの視点で世の中を語る「ON THE WAY ジャーナル」。
今日は、「言論のNPO」と題して、私、工藤泰志が担当します。
さて、今年も残すところ1カ月となり、かなり寒くなってきました。皆さん、風邪など引いてないでしょうか。私も皆さんとは3週間ぶりになりますが、特に、12月になって私が気になっているのはヨーロッパの財政危機の問題です。みなさんもご存知だと思いますが、ギリシャの危機がイタリアに進み、ヨーロッパ各国の財政が厳しいということで、マーケットの攻撃も受けているという状況です。
EUよりも厳しい日本の財政状況
この状況は、一言で言えば、3年前のリーマンショックを境に国際的な金融危機が起こったのですが、それをなんとか政府が財政の力で立て直そうとしました。それが上手くいかず、今度は政府そのものの信頼を脅かすまでに発展してきているという状況です。EUの問題はこれだけではなくて、EUの制度的な問題、例えば、財政政策が共同で行われないとか、今、金融分野でモラルハザードが起きていて、危ない国の国債をわざと買ってまた売り抜けるとか、色々な問題があり、かなり根が深い問題です。
イギリスの新聞を見ても、EUと制度自体、もうダメなのではないかという、かなり厳しい論調まで出ているわけです。
ただ、これを見ていて、私は、日本のことが気になっています。今日は、久しぶりに頭を取り戻すために「日本の財政問題について」、皆さんと一緒に考えてみたいと思っております。
日本は、このEUの国よりも財政的に厳しく、1000兆円を超える国の借金があるという状況です。ただ、国民の資産があるので、金利が上がらない状況なのですが、これもいつまで持つのか、という問題があります。
野田政権は今、まさに予算編成に取り組んでいまして、その中で日本の国の財政をどう進めていくか、ということが1つの大きなポイントになっていて、消費税の問題が大きな争点になっているわけです。今回は、この問題を財務副大臣で来年度の予算を担当している藤田先生にこの前インタビューしてきましたので、その話を交えて、皆さんと考えてみたいと思っております。
ON THE WAY ジャーナル「言論のNPO」、今日は、三次補正予算は成立し、来年度の予算編成も年末にかけて大詰めを向える中で、財務副大臣で予算を担当している藤田幸久さんとの対談をもとに、「日本の財政は大丈夫なのか」をテーマに、みなさんと一緒に考えてみたいと思います。
では早速、藤田さんとの話をお聞きください。
野田政権の目標は恒常的な歳入基盤の実現と
2020年までにプライマリー赤字をゼロにすること
工藤:まず、野田政権は日本の財政破綻を回避するために、今、何を目標にして政策を進めているのでしょうか。
藤田:ギリシャの財政破綻から、イタリア、フランスという形で財政危機が大きく広がってきていますが、今まではある意味で、財政規律か成長かという話がありましたが、安住大臣が大臣なってから、2カ月間に5回、国際会議に出ています。その際に彼がってことは、財政問題というのは政治問題だな、と思うようになりましたということです。例えば、スロバキアという国の内政事情でもって、選挙でギリシャ支援をどうするかということが、ギリシャ、EU全体に影響し、EUで起こることは色々な保証をしているアメリカに金融機関も関係しますし、各国の中央銀行がどう支えるかということになっており、財政問題というものが世界全体の危機の共通項になっています。ある意味では、今まで先送りにしてきた問題を、どこかで決着をしなければ、今後の日本の在り方はないし、それは復興需要があるとは言っても、大震災の後で日本も脆弱な状況の中で、財政の恒常的な歳入の基盤をつくるということが、経済成長にとっても重要だと。それに真正面から取り組んでいこうというのが、今の野田さんの考え方だと思います。
工藤:先送りという発想からガラリと変えて、解決するという流れに変わろうとしているということですよね。その目標なのですが、2015年までにプライマリー赤字を半減する。これは前政権からずっとその目標がありましたよね。
藤田:6月に決めました。
工藤:それから、2020年にプライマリー赤字をゼロにする。これも、前政権が世界で公約しましたよね。この2つの目標は野田政権の目標になっていますか。
藤田:最大の目標だろうと思います。次の通常国会の最大の法案になるので、年内にその案をまとめなければ通常国会に提出できません。12月の末までに、税制の問題と合わせて12月に何とか党内で成案が得られて、提出できるところまで持って行けるかどうか、ということがTPP以上に一番大きな政治課題になっています。
工藤:つまり、それは消費税の問題ですよね。野田さん自身は、消費税の問題を年内に、引き上げる時期とか規模について明らかにしたいとおっしゃっているわけですよね。今は、その流れで動いているということですね。
藤田:社会保障と税、とりわけ今年は、診療報酬と介護報酬の同時改定というのがあります。それが決まらないと予算編成ができません。最終的に予算編成が決着をする、少なくとも2、3日前までには同時改定を決めなければいけない。ですから、同時改定と社会保障と税、つまり消費税をどういう形で来年の法案に持っていくか、ということが12月末の最大の課題だと思います。
財政が破綻するということはどういうことなのか
工藤:その予算の中身に入る前に、一般的な人たちがわかりにくい2つについて基本的なことをお聞きしたいと思います。1つは財政が破綻するということはどういうことなのか、ということです。今、イタリアやギリシャよりもGDP対比の債務規模というのは大きなわけで、とてつもない規模の債務を抱えていて、それが自己増殖しているような状況です。これを放っておいたら、どういう風な状況になっていくという風に見ればよろしいでしょうか。
藤田:一番最近の例で言いますと、イタリア国債の金利が7%とかになってきました。金利が上がるということは、結局、引き受け手が少なくなってくるということですから、債務超過状態という流れになるわけです。その国債の値上がりというか、金利が上がるのがある日突然、急に上がってくる可能性があるわけです。今、日本はGDP比率においても大きな債務になっているわけです。
工藤:200%近くになっていますよね。
藤田:ただ、他の国と違うのは、国債を買う人のほとんどが、国内の人たちなのですね。ですから、国内で誰が誰に貸しているかということです。また、日本は他の国と違って、個人資産とか金融資産が沢山ありますから、そういう意味では、他の国よりはるかに安定しています。だから、結果的に安定通貨ということで、相対的に高くなっているということがあります。ただ、国内で賄っているから大丈夫ということだけでは通用しない局面が起こりうるので、やはり警戒しなければならない、ということだと思います。
財政再建へのキーポイントは社会保障制度の改革
工藤:この前のIMFの報告でも、日本は金利が突発的に上がってしまうような可能性があるということが書かれていました。そういうことを考えると、一般的にもう1つの疑問が出てきます。日本はそれから見ると、国債の金利は低いので、まだ大丈夫なのですが、2015年、2020年という時期が、長すぎるのではないか。この世界的な金融不安の中で、もっと前倒ししないと、世界は待ってくれないのではないか、という意見も一部あるのですが、それに対してはどうでしょうか。
藤田:IMFなどの分析によりましても、早めに消費税を上げていった方が、結果的に対応がよかったという色々な数字が出てきています。これは、イギリスにしてもドイツにしても、早めに消費税を上げていったことによって、早めに対応ができた。先送りすればするほど、問題は大きくなるよ、ということが1つです。一方で、日本の場合は3月に震災が起こりました。今、消費税を上げるということが、いわゆる成長そのものの腰をおってしまう可能性があるという、そのバランスの問題だろうと思います。やはり、夏以降のギリシャに端を発するユーロの問題を見ていると、やはり早めに対応が必要なのだろうと思います。ただその場合に、社会保障と税、あるいは税と社会保障といっていますけれど、社会保障の中身をしっかりよくした上で、目的税として消費税を上げていかなければ国民の理解が得られないのだろうと思います。増税の話だけが先に出てしまって、社会保障の中身をどう変えるか、という部分が遅れているので、私は、この12月に社会保障の中身をどうするのか、ということをしっかりと改善し、削れる部分は削る。これについても色々な分析がありまして、増税する前に歳出削減、特に社会保障について対応した国の方が財政赤字問題についての解決が早かった、という事例もあります。
工藤:今の話を聞いていると「プライマリー赤字」という言葉が何回も出たので、一言勉強のために解説しますと、国は国債を発行して、その国債などの借金の返済などがあるのですが、この際それらを一切考えないで、税収とその時の支出のバランスがどのように取れているかと。実は、今、日本は30兆円ぐらいの赤字です。つまり、税収では間に合わないので、自転車操業でやっているという日本の財政状況があるわけです。これをプライマリー赤字と言っています。今、藤田さんの話を聞いていると、財政再建を先送りはしない、という覚悟で臨んでいることは分かります。しかし、話を聞いていて2つの疑問が湧いてきました。それは、藤田さんも言っていたのですが、社会保障関係費が毎年1兆円ずつ増えていっています。その中で、今、政府が5%の消費税の増税をしようと言っていますが、それでは2015年までの目標を達成できるかもしれませんが、それ以降についての目処が立っていない。それから、社会保障がどんどん増えていくという仕組みそのものをどうすればいいか、という本格的な議論はまだでていません。やっているのだけど、それが先送りになっている。その中で、消費税を上げるかどうかだけが大きな問題になってきている。
そういう状況で、来年度の予算編成に突入している。この辺りをどのように考えればよいのか、もう少し聞いてみたいと思います。
恒常的な歳入増に向け、身を切る形での予算編成に取り組む
工藤:最後に、予算と今後の財政再建のことをくっつけてお聞きしたいのですが、予算をかなり引き締めようとしてやっていて、その規律を2015年までは効かせようと。2014年までですか。
藤田:中期財政フレームですね。
工藤:それはあると。ただ、これをやっていても、借金はどんどん膨らんでいきますよね。それから、この前、内閣府のシミュレーションを見ていましたら、仮に年金改革などができても難しい。やはり2025年にはプライマリー赤字が残ってしまうというのが出ていました。そもそも、リーマンショックが起きた麻生政権時の異常な状態が更に膨らんでいるという状況ですよね。これと財政再建ということが、一般的に見ると非常にチェンジしているような予算になっているのか、ということを思う方がいらっしゃると思うのですが、
藤田:結局、3年前から国債に頼らざるを得ない部分がより増えているわけです。更に、今回は東日本大震災がありました。それから、財政そのものが国の信任のバロメーターになっている。冒頭のお話しにもありましたが、国債金利がいつ上がるかも分からないという可能性は、日本に限って言えば、夏まではなかったのだと思います。ただ、ギリシャを支えるためのイタリア、そのイタリアを支えたのがフランス、そしてヨーロッパ中央銀行が支えているわけですが、そのヨーロッパ中央銀行を支えるのはアメリカの連銀(FRB)です。そして、保証している部分がアメリカも日本の金融機関も多いですから、そうなると世界的に連動してしまっている。そういう中では、日本の国債金利が急に上がる可能性もまるで排除できなくなってきている。となると、やはり成長につなげるためにも、また、社会保障を維持するためにも恒常的な歳入というものを確保しなければいけない。したがって、それこそ予算の部分を鬼になって削るということも含めて、やっていくしかないということだろうと思います。近々、公務員宿舎問題についても回答することになっていますけれども、そういう観点から削れるところは役所も政府、あるいは国会の方も本当に絞り込んでいくという風にして、予算編成をしていかなければいけないと思っています。
年金・医療を充実させるために、国民との信頼関係を築いていく
工藤:社会保障の自然増への対応が、民主党政権と自民党政権で違うところなのですが、民主党政権は毎年1兆円以上が増えるものを、認めるという予算編成ですよね。一方、昔の自民党政権は、そこを2200億円ずつ減らしていきました。
藤田:一昨年、それをやっとプラスにしました。
工藤:この考え方を持っている意味と、この考え方は持続可能なのか、ということなのです。つまり、この高齢化はずっと続きます。今の仕組みのままでいくと、毎年1.2兆円から1.3兆円ぐらい膨らむということは、理論上、20年後には20兆円以上膨らむということですよね。そうなると、予算の中身のほとんどが社会保障だけになってしまう、ということを思ってしまうのですが、ここ辺りはどのような理念なり、考え方をなさっているのでしょうか。
藤田:多分、社会保障の中身を充実させて、社会保障のためにはこれだけ必要だ、ということが国民の方に分かれば、みんなで一緒に負担を増やさなければいけない、ということを理解していただけるのだろうと思います。その社会保障の部分が、納めた分だけ自分達にしっかり戻ってくるという信頼性がなかったことが、最大の問題だろうと思います。
やはり、日本においては、年金制度について本当は一元化した方がいいのですが、色々な問題がある。医療に関しても、後期高齢者医療制度などがあって、信頼関係が十分ではないので、私は、年金と医療制度の信頼関係を、国と国民との間に確率することによって、年金・医療を充実させるためには、応分の税負担が必要だという信頼関係ができるかどうか、ということが一番の勝負だと思います。
工藤:すると、社会保障・年金一体改革というのは、当面の消費税の増税は1つの手段なのですが、仕組みのチェンジと連動していかないと、本当の答えにはならないということですね。
藤田:先に増税のイメージが出てきてしまって、復興の補正予算等についても、復興会議の議論にしても、まず増税から先に出てきたというイメージがあるので、これはやはり改善の余地があったのではないかな、という気がしています。
社会保障や財政の全体像と道筋を、政治は国民に語るべき
工藤:今回、藤田さんはかなり率直に話をしていただいたので、何となく、日本の財政が持っている色々な問題点に、みなさんも気付いたのではないかと思います。つまり、高齢化が急速に進み、今は若者3人で1人のお年寄りを支えていますが、いずれ若者1人でお年寄り1人を支える状況になるでしょう。そうして、社会保障の経費が毎年1兆円ずつ膨らんでいる。こういう異常な状況が進んでいる中で、社会保障という問題をどのように変えていかなければいけないか、ということが問われている。民主党政権は、そういうことに対して案があったのですが、それが今、残念ながら止まっている状況です。それ以上に、この社会保障費の急増により、財政が肥大し、借金が膨らんでいる。震災の問題については、やむを得ない状況があるのですが、この先、財政がどうなるのだろう、ということが見えない。
実は、この状況の中で、僕たちが期待しないといけないことは、その全体像や道筋を、政治が国民に語ることなのですね。その全体像や道筋がわからない状況の中で、消費税を上げる議論をしていますが、何か、国会の中だけで闘っている状況です。しかし、そんな状況ではないと思うのですね。増税はするかしないか、という段階ではなくて、増税か財政破綻か、それぐらいまで日本は追い詰められているのではないかと思っています。ただ、もしくはそこまで追い詰められているのだ、ということを認めるためにも、状況をきちんと説明して、そのプランを国民に示していくような段階に持っていかないと、EUを含めた世界の経済が、ここまで大きな不安材料になってきている状況の中で、いつか日本にもそれが飛び火してしまうのではないか、と思ってしまいます。
政治が国民に信を問わないのなら、国民側から政治に提案し迫っていく
この財政という問題については、非常に難しいので、私たちには何となく遠い話なのですが、家計簿に例えると、借金がどんどん膨らんで、毎月の収入と支出がやりくりできていないという状況、そして支出がどんどん膨らんでいるという状況です。この状況は何とかしないといけない。自分達の家計でもダメだなということが、日本の国の財政でも起こっているわけです。私は、来年、こういう問題について政治は国民に信を問うべきだと思っていますが、できなければ、僕たち国民側から、「どうするのか」とか、「こういう形がいいのではないか」という逆提案をしていく、というぐらい思い始めています。つまり、この財政問題、社会保障の問題というのは、僕たちの未来の話なので、自分達の未来をきちんと考えるために、そして、特に若い人達が未来を考えるためにも、国の財布の問題、今の社会保障という問題を、皆さんでこれから考えていただければな、と思っております。
ということで、お時間です。今日は、「日本の財政問題について」財務副大臣のインタビューを元に考えてみました。ありがとうございました。
今回の「工藤泰志 言論のNPO」は、ギリシャに端を発したヨーロッパの財政危機。この影響を日本はどのくらい受けるのか?日本の財政問題は今後どうなるのか?について、財務副大臣の藤田幸久氏へのインタビューを交えて議論しました。
(JFN系列「ON THE WAY ジャーナル『言論のNPO』」で2011年12月7日に放送されたものです)
ラジオ番組詳細は、こちらをご覧ください。