「新政権の課題」評価会議・安全保障問題/第8回:「中国、韓国との関係はどう考えるべきか」

2006年11月17日

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言論NPOは「新政権の課題」と題して、各分野の専門家を招き、継続的に評価会議を行っています。第二回目の評価会議は、先日発足した安倍政権に問われる「安全保障」問題について、倉田秀也氏(杏林大学教授)、道下徳成氏(防衛研究所主任研究官)、深川由起子氏(早稲田大学教授)を招いて、議論を行いました。

「中国、韓国との関係はどう考えるべきか」

工藤 対中国の問題に議論を移します。例えば、中国は世界的な資源の確保で様々な資金を使っています。中国のこうした行動に神経を尖らせているのは、日本だけなのでしょうか。

深川 今、アメリカはゼーリックのステークホルダー論には支配されているので、中国にあれだけきついのは日本だけだと思います。ヨーロッパもそうだと思いますが、アメリカはしばらくあの成長が続いてくれるのは結構なことなので、どんどん太らせるという方向です。

倉田 アメリカが中国に求めているのは、国際公共財の共有者になれということで、中国が国際公共財を共有できない国を擁護するような行動はやめてくださいという意味ですね。

深川 アメリカでは、必ずペンタゴンの論理とウォールストリートの論理が2種類あるのを見落としてはならないと思います。今のアメリカのマクロバランスが悪くなって、中国にファイナンスしてもらってドルの暴落を紛らわしている状態では、アメリカのお友達でない人と手を組んで、その人たちに多少援助していたとしても、彼らの国際社会上のプレゼンスは小さいので、それより中国が成長していくメリットの方が大きい。

経常収支が6.5%の赤字というのは、あれだけの大国で基軸通貨であっても、これから何年維持できるかは誰にもわかりません。そういう倫理的なものとはまた別に、やはり中国にファイナンスをし続け、当面はとりあえず成長してもらうという損得勘定はあると思います。

工藤 例えば防衛計画の大綱はどうみるべきですか。政府は、意識的に中国の軍事的な脅威論を使っていませんか。

道下 政府はむしろ抑え気味です。大綱では、中国の今後の動向に注視するというだけです。それを脅威論と言えば脅威論ですが、非常に抑えています。

深川 防衛予算を考えていくときに、自衛隊の本務が本質的に変わってしまえば、当然必要な装備もロジスティックスも全部違うので、予算はかなり違うものをつくらざるを得ないのではないですか。

道下 対中国という意味では、そんなに状況は悪くないのです。冷戦期の自衛隊の得意分野は何かというと、洋上防空、対潜戦、掃海の3つです。この得意分野がたまたま今でも、それなりに意味がある時代になっていて、まず洋上防空は、ソ連の巡航ミサイルをアメリカの空母に向かって撃つのを撃ち落とすために、日本はイージス艦を4隻買った。しかし、ソ連がなくなったものの、幸いBMD(弾道ミサイル防衛)に使えるようになった。対潜戦の能力は、中国が潜水艦を増強しているので、そこが重要な能力になってきた。そうした能力の市場価値が再び上がってきたのです。哨戒能力も中国の台頭によって、ある意味で役に立つ。脅威が高まるのはよくないのですが、今までの防衛力が無意味になったという状態ではない。

工藤 安倍政権になって、中国との関係改善が動きました。ある意味では、それがあっあたかこそ、北朝鮮の解決で日本は中国というこれまでにはなかったカードを得ることができたかもしれない。

倉田 首脳会談の翌日でしたね。核実験は。

工藤 問題はそれを利用し、何ができるかという話ですね。それはまだ見えていない。

倉田 中国については、首脳会談がなくても危機が起きるわけでは必ずしもないし、中国との関係が悪化しても核による脅威が増す、日本に対する脅威が高まるということでは必ずしもない。私が懸念しているのは、中国に対して、靖国の問題も含めて問題をクリアしようとするその動機です。

工藤 私たちが8月に行った「北京-東京フォーラム」では、安倍さんにしても、中川さんにしても、首脳会談を意識していました。あの日の安倍発言がなかったら、日本はここまで迅速には動けなかったかもしれない。

倉田 北朝鮮の場合は、中国との関係はもちろんのですが、日米韓というコンテクストもあります。韓国側がアメリカに2012年中の作戦統制権の返還を要求したところ、アメリカは2009年に返還しようといって、韓国が慌てている状況です。韓国がこういう議論をできるのは、北朝鮮とは戦争などないと思っているからであって、北朝鮮からの軍事的脅威迫っていたら、こんな議論はできなかった。

道下 今、アメリカは、その点について、結構それなりに計算してやっています。今、韓国にとって軍事バランスが良すぎる状態になっているのです。安心しきっていて、日本、アメリカと韓国の脅威認識がズレてしまっている。アメリカが在韓米軍を削減したり、韓国に対するコミットメントを減らしたりしたら、韓国は困り始め、日米韓の間の脅威認識が接近してくると、よりやりやすくなるかもしれない。朝鮮半島で戦争が起きた場合、韓国防衛を韓国だけで確保するのは大変です。

深川 韓国はおめでたい発想でできています。自主国防は達成するが、自分たちが困ったときは、いつでもアメリカは助けに来てくれなければならない。虫がいいのです。

倉田 北も南もそうなのですが、あの人たちが言う自主というのは、特定の状況で依存することを妨げるものではありません。問題なのは、韓国の次期大統領がいわゆる保守派になったとして、2009年に作戦統制権が返ったとして、やはりまずいから、アメリカに返しますという議論はできない。2009年で返すといったって、大統領選挙は2007年末です。この議論には、ここで決めておいてという選挙対策的な面もある。

深川 アメリカはよく計算して切ったカードなんでしょうね。

道下 今、韓国は本当にへまをやって、損しています。昔、アメリカが軍隊を撤退させようとすると、韓国は「そのかわり経済援助をよこせ、最新装備を置いて帰れ」とやっていたのが、今は米軍に「帰れ」と韓国自ら言い始めた。アメリカは、それはラッキーという感じです。

工藤 こういう問題も日本政府としては考えなければいけないわけですね。

倉田 大きい流れからすればそうですね。日米間で自衛隊と在日米軍というのは一体化するベクトルが働いている。これに対して米韓間では、離れていくというベクトルが働いている。ベクトルが全く逆なところで日米韓のアライメントができるかというと、これは難しいですね。

深川 しかし、調子が悪くなったら来てくれると思っているから、韓国側からみれば、アライメントは全然壊れてない。何の問題もない。

profile

061031-michishita.jpg道下徳成(みちした・ なるしげ)
防衛庁防衛研究所 研究部第二研究室 主任研究官

1990年筑波大学第三学群国際関係学類卒業、防衛庁防衛研究所入所。1994年ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院(SAIS)修士課程修了(国際関係学修士)、2003年同大学博士課程修了(国際関係学博士)。2000年韓国慶南大学校極東問題研究所客員研究員、2004年安全保障・危機管理担当内閣官房副長官補付参事官補佐等を経て、現在は防衛研究所研究部第二研究室主任研究官。専門は、戦略論、朝鮮半島の安全保障、日本の安全保障。

061031-fukagawa.jpg深川由起子(ふかがわ・ゆきこ)
早稲田大学 政治経済学部 国際政治経済学科教授

早稲田大学大学院商学研究科博士課程修了。日本貿易振興会海外調査部、(株)長銀総合研究所主任研究員、東京大学大学院総合文化研究科教養学部教授等を経て、2006年より現職。2000年に経済産業研究所ファカルティ・フェローを兼任。米国コロンビア大学日本経済研究センター客員研究員等を務める。主な著書に『韓国のしくみ』(中経出版)、『韓国・先進国経済論』(日本経済新聞社)などがある。

061031-kurata.jpg倉田秀也 (くらた・ひでや)
杏林大学総合政策学部教授

1961年生まれ。85年慶應大学法学部卒、延世大学社会科学大学院留学、95年慶應大学大学院法学研究科博士課程単位取得。91年より常葉学園富士短大専任講師・助教授を経て2001年より現職。その間、日本国際問題研究所研究員、東京女子大学、東京大学などで非常勤講師。主著『アジア太平洋の多国間安全保障』等多数。

 言論NPOは「新政権の課題」と題して、各分野の専門家を招き、継続的に評価会議を行っています。第二回目の評価会議は、先日発足した安倍政権に問われる「安全保障」問題について議論を行いました。