「議論の力」で強い民主主義をつくり出す
具体的には、住民が自らを医療の受益者と考え、「病院・医療は完璧でなければならない」という、行政に対する過度な期待を挙げました。さらにそれに追随するかのような、マスコミの医療に対するバッシングも好ましいものではないと述べました。
こうした医療制度・市民社会双方の側の問題点が解消されない限り、日本の医療制度は完全に崩壊してしまう、と危機感をあらわしたうえで、喜多氏は2つの対応策を提示しました。
第一は、「病気」と「健康」を区別し、病院は病気の治療に特化し、地域社会が健康を担うということです。喜多氏のいう「病気」とは、病院での治療が必要なものを指し、「健康」とは、病気に至らない段階の「未病」や、病気にならないための「予防」・「公衆衛生」、病院での医療よりもマイルドな対応が望ましい「看護」・「介護」を指します。
具体的には、メタボリックシンドロームの人に対し、成人病予防の治療を行なう際、栄養士やスポーツインストラクターといった医師以外の職業の人に担ってもらう、あるいは、これまでの病院中心の医療から、在宅介護・看護へ方向転換をはかることが挙げられます。そして、ここに非営利組織が関与できる局面もありうるのではないか、と喜多氏は述べました。そのためには、病院で病気を「治す」ことが収入につながる仕組みから、病気に「ならないための予防をする」、病気になっても「在宅で治療をうける」ことが収入になるような医療制度の再設計も必要になります。
第二は、病気と健康との区別を念頭に、どこまでを医師に任せるか、住民自身が考え直すべきだということです。その際には、住民に対する医療情報の提供や健康教育が望まれ、ここにも非営利組織の役割があります。非営利組織には、住民が受益者であるばかりではなく、自らの健康をどう守るかという責任感を持てるよう喚起していく役割を担っていく必要があると喜多氏は述べました。
その上で喜多氏は、民間の具体的な取り組みの一例として、福岡の限界集落での実験的なプロジェクトを紹介しました。その集落から病院までは車を使わないと行くことができませんが、自家用車を持たない多くの高齢者は不安を抱えています。しかし、高齢者すべてに病院での医療が必要なわけではありません。そこで、そうした集落に有償ボランティアの看護師を配置し、地域に安心をとりもどすというプロジェクトを試行してみたいと準備中とのことです。
言論NPOでは2009年、日本の市民社会をどう考えるかについて継続的に議論を行っていくことになりました。当フォーラムは今後も月に約1回のペースで開催していきます。その他にも政治家や有識者、NPO関係者などへのインタビューや座談会を行い、議論の内容は言論NPOのホームページ上やブックレットで公表していく予定です。
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