【メディア評価】加藤紘一氏 第2話「戦争の大義と情報のリーク」

2006年5月17日

0605m_kato.jpg加藤紘一(衆議院議員)
かとう・こういち

1939年生まれ。64年東京大学法学部卒、同年外務省入省。ハーバード大学修士課程修了。72年衆議院議員初当選。84年防衛庁長官(中曽根内閣)、91年内閣官房長官(宮沢内閣)、95年自民党幹事長。著書に『いま政治は何をすべきか―新世紀日本の設計図』(講談社1999年)、『新しき日本のかたち』(ダイヤモンド社2005年)。

テーマに選んだ記事 「ブッシュ大統領の機密漏えい関与」

戦争の大義と情報のリーク

 アメリカで、この半年くらいメディアで盛んに取り上げられているのが、ブッシュ政権のメディアを通じた世論操作の実態でした。

 イラクがアフリカのある国から、ウランを買うというので、本当か、と調べにやられた元外交官が調べに行ってみたけれども、(その話は、アメリカが戦争を始める根拠になった情報だけれども、)信憑性が疑わしいと発表した。ホワイトハウスがそれを怒って、その大使の発言の信憑性を崩すために、彼の奥さんはもともとCIAだったのだ、といって情報を流したというのですから、品のない話です。

 それに大統領も関与していたということです。ホワイトハウスのトップが、あの外交官の奥さんはCIAだった、というのは、国家の政府のトップとして言うべきことではない。法律的にもそうした情報のリークは憲法の権限内にあるか、大変な議論になることなのです。

 まさか、あのニクソンのウォーターゲート事件までにはならないと思いますが、私は、これは、かなり大きな話になっていくと思います。ウォーターゲートというのは、大統領になるかならないかということのために盗聴したのですが、これは、2,000人以上のアメリカの若者を死に至らしめた戦争の大儀名文の話ですから、本当だとすれば大変な話です。

 この記事は日本の社会にとっても大きな論点を提供しています。まずイラク戦争自体の大義の問題です。

 日本でも自衛隊を出す際には、大量破壊兵器があるという、自分で検証したわけではないがひたすらアメリカを信じているという話でした。そのアメリカでは戦争決断の原因とされた大量破壊兵器自体への疑惑だけではなくて世論操作の段階まできているわけです。

 これは日本のメディアも昔の話だと片付けられない話ですが、そうした深い報道はない。他の国の報道をただ伝えているという段階です。

 それから、アメリカの社会は、権力の側が世論操作をやってはいけない、という前提なのです。その辺が、日本の場合にはかなり無神経なところがあって、昨年はNHKの報道を巡ってNHKと朝日新聞が読んでいて頭が痛くなるような戦いをしていました。

 しかし、アメリカ社会では、マスコミは必ず独立していなければならないという前提ですから、こうしたアメリカの世論操作という問題はメディアの発達の中で、私たちも十分、気をつける問題だと思います。
 つまり、政権とマスコミのあり方論についても、いろいろ今後、メディア評価で取り上げるべき議論のきっかけになるかもしれない事件だと思ったわけです。

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アメリカで、この半年くらいメディアで盛んに取り上げられているのが、ブッシュ政権のメディアを通じた世論操作の実態でした。