加藤紘一(衆議院議員)
かとう・こういち
1939年生まれ。64年東京大学法学部卒、同年外務省入省。ハーバード大学修士課程修了。72年衆議院議員初当選。84年防衛庁長官(中曽根内閣)、91年内閣官房長官(宮沢内閣)、95年自民党幹事長。著書に『いま政治は何をすべきか―新世紀日本の設計図』(講談社1999年)、『新しき日本のかたち』(ダイヤモンド社2005年)。
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見失う複眼的視点
日本のメディアにカウンターバランスの役割がこれまで以上に問われているのは、日本の政治の状況と無関係ではないと私は考えます。
その一つが、野党民主党に、それを批判する能力がなくなってしまったことです。今度、代表が代わりましたが、日本の政治にカウンターバランスが崩れている状況は変わっていません。逆にいえば、野党が言わないなら、自民党の中でその役割が出来るかということです。昔は党内にもカウンターバランスはあったし、私自身はそうしなければならないと思っていますが、自民党の中でもほとんど内部で意見を言わないという、そういう現象が強まっているのです。
劇場政治だから、主演俳優以外は、観客はなかなか見ないのですね。もっとはっきり言えば、複眼的にものを考えるのが嫌になったのが今の社会なのです。様々な現象を多面的にしっかりと考えることがどうしてだめになったかは、実は重大なテーマであり、だからこそ、「言論NPO」がこの社会に誕生したのだと、私は判断しています。
こうした現象が進行して、思考力が落ちている。これはやはりOn Net On Airの責任だと思います。オンインターネット とオンエア。ネットやテレビで皆考え、画面で文字を見、絵を見る、それだけの社会になっているからです。人々が思想を持つというのは、自然と格闘したり、人間が、人間の間で付き合っていく、
その中で人間の弱さとか強さとか限界を考え、生き方やルール、感情を考えるはずです。ところが、自然にもタッチせず、暗い自分の部屋で、お父さんや家の中にいるお母さんにも接触しないで、ネットを見たり、テレビでものを考えていく。複雑に考えないで、自分の好きなものをネット・サーフィンしていくわけです。こうした社会の危うさがメディアを舞台に作られ始めている。これは、日本社会の中で進行している最も危ない病気だと私には思えます。
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日本のメディアにカウンターバランスの役割がこれまで以上に問われているのは、日本の政治の状況と無関係ではないと私は考えます。