加藤紘一(衆議院議員)
かとう・こういち
1939年生まれ。64年東京大学法学部卒、同年外務省入省。ハーバード大学修士課程修了。72年衆議院議員初当選。84年防衛庁長官(中曽根内閣)、91年内閣官房長官(宮沢内閣)、95年自民党幹事長。著書に『いま政治は何をすべきか―新世紀日本の設計図』(講談社1999年)、『新しき日本のかたち』(ダイヤモンド社2005年)。
テーマに選んだ記事 「ブッシュ大統領の機密漏えい関与」
劇場型政治と情報リーク
もう一つの論点は、情報リークの問題です。人を殺す大きな戦いの中で、有権者の合意をとらなければいけない中で、政権にとってはリークというのは大きな手法となります。情報というのはリークしてはいけないということを、大統領も公務員の職務服務規程で認めているわけですから、大統領自ら破ったとなると、これはかなり大変だと思います。
アメリカの場合はCIA工作員の名前といったらトップ・シークレットです。自らが作りだしたシナリオを否定しかねないその大使の信用を失わせるために、同じ政府組織のCIAのいかがわしいものというイメージを利用してリークしたのです。
これは、守秘義務に反するだけではなく、リークをすることによって、夫の元大使の権威を落として、イラク戦争を継続させたとすると、国益に反することにもなる。そこまでブッシュ政権は追い詰められていたのでしょう。
メディアを使った世論操作はアメリカではかなり厳しく受け取られています。日本ではまあそんなことをいっても、政権だから仕方がないのはないかという雰囲気はまだあります。しかし、情報を操作して政権が有利になるように世論を誘導するというというには民主主義の否定であり、それを問題視しなくてはならないのは、日本もアメリカと同じはずです。
ところが、日本ではむしろ劇場型政治をメディアもその主役をあるときは利用し、また利用されながら作り出しているのです。これではメディアに出される情報はコントロールされることを容認していると同じです。
私が官房副長官の頃だったと思いますが、国会に呼ばれて、ある雑誌社に官邸が圧力をかけたのではないかという質問をされたことがあります。そのときに、私は、首相官邸からとやかくいろいろ言われるだけで主義主張を変えたりするほど、日本のマスコミは脆弱ではないと思っています、なんて美しい言葉で逃げ切ったのですが、ある意味では昔は、まだこうしたことが追及されるほどのカウンターバランスは国会で働いていたわけです。
しかし、今の政治ではそうした緊張感が薄れ、メディアもその情報の管理化に置かれているといっても言い過ぎではないと思います。
たとえば、総理大臣のメディアとの毎日の定例会見の質問は全部先に官邸は質問内容を知ってからやっています。昔は、廊下で記者が追いかけて質問をし、たった今入ったニュースですけれども、こんなことがありました、どうですかなどと首相に聞くわけです。役所からの説明資料がない中で、総理大臣が一言、二言言ってしまい、それが政局になったことも何度もありました。
質問を出さないと、だったらやらないよと、首相官邸は言うわけです。しかし、それに文句を言うよりは発言してもらったほうがいい。テレビは、安全に毎日決まった時間に総理大臣が出てきてコメントをする絵が取れる。そうするとやっぱり、視聴率を稼げる。結果的に官邸は情報の出し方をコントロールすることができるわけです。
昔は佐藤栄作さんのときテレビだけしか話さないといったら、新聞記者が出ていってしまいましたが、そうした抵抗もなく、メディアをうまく使いこなせることが官邸の評価の対象になったりするのです。
日本全体が、アメリカの現在の状況まではいかないかも知れませんが、権力側に情報が管理される社会になり始め、それに抵抗する力が弱まっている。今回のアメリカの記事はそうした日本側の問題としても考える題材はいろいろあるのに、いまだに海外の話としてしか報道はされていません。
※今回の、加藤紘一さんの発言は以上です。
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※次回の発言者は岡本薫氏です。引きつづきご期待ください。
もう一つの論点は、情報リークの問題です。人を殺す大きな戦いの中で、有権者の合意をとらなければいけない中で、政権にとってはリークというのは大きな手法となります。