「議論の力」で強い民主主義をつくり出す
2010 / 02 / 21
[ その他 ]
工藤 では最後のテーマです。「市民社会」はどうしたら強くなれるのかということです。
NPO法が成立して11年が経ちましたが、日本の市民社会が強くなったかと言えばそうではない、という問題があります。社会に貢献したいという人は増えているのに、そういう人たちと社会をつなぐ非営利組織が脆弱だからです。日本の非営利組織を調査してみると、単なる趣味でやっているところとか、行政の下請けになったり、寄付も集めていないしボランティアもいないし、市民に向かい合ったことがないようなところがとても多いのです。
この流れを変えるためには、市民の参加に支えられた、しかも社会変革の舞台を作れるような、経営のしっかりとした非営利組織が増え、それらが競争しあうような環境が大切だと思います。言論NPOも参加して今、多くのNGO団体や専門家が集まって、望ましい非営利組織の評価基準を策定するための研究会が始まっており、「こういう非営利組織が望ましい」という評価基準を近く、公表しますが、それも強い市民社会をつくりたいからです。団体の数をただ増やしていくという段階は、もう過ぎてしまったように思います。
山本 経験から申し上げますと、市民の団体が、独立性を保つためには、企業や民間財団から寄付をもらう必要があるわけです。私たちの場合も、海外の財団から寄付をもらわなかったら大変なことになっていたと思いますし、少なくとも面白いことはできなかった。私たちは、政府からの補助金は絶対にもらわないという主義でやってきて、それはそれで正しかったと思っておりますが、ヒモのつかないパブリック・ファンディングというものはあり得ないのだろうかと考えています。アメリカなどには、"Public fund for private use"という表現がありますけれども、社会変革をもたらすようなCivil Societyにお金を流すことが日本のためにもなるということで、政府としての立場も正当づけられるのではないかと。
小倉 私は、想定する参加者の年齢をもっと下げる工夫も必要ではないかと思っています。「市民」ということで想定するのは社会人とか、せいぜい大学生くらいですけれども、高校生や中学生くらいにまで下げてもいいのでは。長野県に世界でも1、2を争うくらいの実力を持つ女性和太鼓チームがあります。女子高校生が中心になっているのですが、なぜそれが上手くいってのいるかというと、もちろん初めは「太鼓なんか叩いていないで勉強しろ」と言われるわけですが、村の人たちを徐々に説得していって、最終的には村ぐるみで素晴らしいチームをつくり上げたということです。村全体でひとつの運動をつくっているということですね。つまり、中学生や高校生といった世代から市民グループを育てていくようにしないと、社会人になって突然そういうものをつくろうとしても難しいわけです。中学生くらいからの教育を、もう少し考え直していく必要があると思います。地域のみんなが、例えばゴミ拾いなどいろんな活動に参加していくというプロセスには、もっと力を入れなければなりません。
工藤 一方で、普通に仕事をして、アフター5で社会のために何かをしたいという人たちが増えてきているようにも思います。現役で働いている人の中にも、公共のゾーンに関心を持つ人が増えてきています。社会が大きく変わりつつあるのだと思いますが、その受け皿というか、そういう人たちと社会をつなぐしくみがまだまだ弱いわけです。そういう人たちやリタイアした人たちの知識や能力も何かに役立ててもらわないと。
小林 海外などでは子どもの頃から、教会をはじめとしたコミュニティの活動が身近にありますからね。日本でもボーイスカウトなどはかなりパブリックなものでしょう。先ほど申し上げたことと重なりますが、経済や行政の世界などで、NPOやNGOがもっと見えるかたちで、意思決定の場に参加していくことが重要だと思います。見える場に出て行く人はもちろん、最初は躊躇するでしょう。裁判員制度などもひとつの市民参加であって、いろいろ議論はありますけれども、いざスタートしてみると、公の関心をかなり集めるようになってきていると思いますし。中央や地方、企業など、どこでもいいのですが、NGOやNPOが意思決定の場においてポジションを与えられているのかといえば、そういう機会は非常に少ないわけです。企業でもいきなり取締役というのではなくて諮問委員会でもいいと思いますが、そういう機会を少しでも増やして、同時に多くの人に見えるようにしていくことが重要で社会にもたらす効果も大きいのではないでしょうか。
工藤 私も最近、よくお話をするようになって驚いたのですが、NPOやNGOの現場で実際に課題解決に取り組んでいる人たちの言葉には、すごく重みがあるということです。ただ、そういう人たちはなかなか社会から見えないわけです。そういう人の中から間違いなく社会のリーダーが出てくると思うのですが、その舞台がない。話をしていて、言論NPOの役割には、そういう人の発言を表に出し、広く発信し、多くの人とつなげることもあるのではないか、と最近、痛感しています。
言論NPOがこれから進めていく「市民を強くする言論」プロジェクトには、いろんなNPO、NGOの人にも参加してもらおうと思っています。政府にただ何かを要望するのではなくて、適切な距離感は持ちながら、「自分たちの手で課題解決をしていくためにはどうすればいいのか」ということについて、一緒に考えたことを発言していけるような流れをつくっていきたいのです。
小倉 言論NPOの中に、少年少女特派員制度のようなものをつくったらいいのではないかと思います。私たちの場合は、韓国で文化行事を行う際、インターネットでボランティアの特派員を公募して、行事で体験したことをインターネットで発信してもらいました。一週間分の旅費だけ出して。数百人の応募者の中から2人だけ行っていただいたのですが、現地でインタビューなどをしてもらって「僕はこう感じた」ということを書いてもらったところ、それに対してまた若い世代の反応があって。1週間という期間限定ですが、大新聞のコレスポンデントではできない試みでした。
工藤 そうした議論参加を考えなくてはと、思っているところです。今、多くの新しいリーダーが、間違いなく社会の中で育っています。そういう人たちの活動が、議論の舞台に出ていただくことでもっと見えるようにしないといけないということです。NPO・NGOで実際に活動する人たちの姿は、まだまだ一般の人には見えていないのだと思います。見えているのは職業的にやっている、運動家のような人たちばかりなので、それでは市民はついてこない。私たちは、今、行なおうとしている市民を強くする言論は、市民社会の健全な論壇、をつくる試みだと思っています。そういう舞台に多くの人に参加していただき、、議論の力で新しいリーダーを見つけ出したいと、も思っているのです。
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