4月22日放送の「工藤泰志 言論のNPO」は、ワシントンに続き北京、そして韓国を訪問する工藤が、各国を訪問するなかで感じた「アジアのなかの日本」、そして「東アジアに必要なことは何か」についての考えを述べ、議論しました。
(JFN系列「ON THE WAY ジャーナル『言論のNPO』」で2013年4月22日に放送されたものです)
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不安定化する東アジアに必要なことは何か
おはようございます。言論NPO代表の工藤泰志です。
さて、だんだん暖かくなって、東京ではもう新緑がきれいな季節になりました。みなさん、いかがお過ごしでしょうか。今日のON THE WAYジャーナルは「言論のNPO」と題して、私、工藤泰志が担当します。
前回はワシントンからの報告をお届けしました。その後私は北京を訪問して、先週帰ってきたばかりなのですが、そして今度は5月の連休明けには韓国との対話を東京で行うための準備を進めています。今日は、私が各国との対話会を通して、何を実現していこうとしているのか、ということについて皆さんにお話させていただくと同時に、外交という問題の新しい変化について皆さんと一緒に考えてみたいと思っています。
ということで、今日のON THE WAYジャーナル「言論のNPO」は「不安定化する東アジアに必要なことは何か」と題してお送りします。
課題解決に集中できない政府外交
さて、早速本題に入りますが、私が外交に市民の立場で取り組んでいるのは、政府外交に限界を感じているからです。ただ、政府外交が大事ではないと言っているのではなくて、それだけでは日本が国際社会の中で役割を発揮したり、より存在感のある国にしていくということが、かなり難しい局面であり、それが国際政治の現状になっているということを、非常に痛感しています。この限界というのが何なのか。これを考える上で、私は2つの点が重要だと思っています。1つは、現在の国際政治上、政府間の合意形成を行うことが極めて難しい状況にあるということです。私は3月に、ワシントンでアメリカの外交問題評議会が主催した、世界のトップシンクタンク20団体が集まる会議に、日本のシンクタンク代表として参加しました。その会議でも、まさにグローバルガバナンスがなかなか機能しない、ということがテーマでした。例えば地球温暖化対策、宇宙空間の利用、サイバー空間の利用などの問題で、先進国の考えと発展途上国の考えが違っていて、なかなか合意できないのが現状です。
皆さんもご存知の通り、京都議定書は今、第2約束期間に入っていますが、日本も参加していませんし、多くの排出国が参加しておらず、事実上、機能を失っています。地球の温暖化という問題は私たちみんなに関わっていながらも、政府間レベルでの合意が全くできない状況が出てきているわけです。私も、この国際会議に参加する度に感じるのですが、やはり中国、ブラジルなどの新興国の台頭がかなり大きくて、先進国のアメリカやヨーロッパの参加者と議論がやり合いになります。先進国が何かを言ったから認めるというレベルではなく、対話をすることが難しい。課題解決に対して余程の覚悟がないと、なかなか議論でできない状況にあります。特に政府外交の場合は国の利害という問題に捕らわれてしまうために、それを前提にして交渉してしまうのです。本来、様々な課題の解決に向けて、純粋に取り組んでいく、ということを考えないといけない。しかし、そうならないのです。僕は外交というよりも、民間のNPOの日本代表なのですが、どうして課題解決に集中できないのか、と思ってしまうのですが、非常に難しい状況にあるということをこの2、3年痛感しています。
課題解決のため、国境を越えた輿論形成が重要
その政府間の合意がなかなかできない状況の中で、どうすればいいのか。それに代わって浮上したのが、関係者である当事者間の対話です。これは、マルチステークホルダーという言葉をよく使います。様々な課題を解決するためには、沢山の人々が関係しています。例えば、先ほど述べた地球温暖化。異常気象の中で、風水害も非常に大きくなっています。また、飛行機のCO2排出問題。このようにいろいろな人達が関わっているのであれば、ミニラテラルの対話をつくったり、フォーラムを作るなどして対話を繰り返していく。つまり、これは課題解決型なのですね。この背景には、政府に任せれば何かができるのではなくて、国際的な課題について様々な人々が、自分の問題として考えていかないと、解決困難な状況にきているということがあります。外交の話というと、遠い存在になりがちですが、これはまさに自分たちに関わってくることですが、世界では自分たちで解決していこうという動きが出てきています。市民、企業、メディアなどが色々な形で対話を行い、課題に取り組む段階に来ていると思っています。この動きが必要なのですが、もう1つこういう動きを見ていて感じるのは、確かに当事者の議論は非常に大事なのですが、当事者だけが議論してもダメだと思っています。専門家同士がクローズドで議論をしていても、多くの人たちは誰も知らないわけです。国民や、僕たち市民にも関係する話しですから、本当は自分たちも考えないといけないのですが、誰かがやっているという構造では、結局、政府にお任せしているのと同じ構造で、自分たちは知らないという状況です。世界的な課題解決になぜ市民が取り組むのか、という事を考えた時に感じるのは、当事者として自分が関わるという問題と同時に、そういった動きを輿論というものが支えていく、という大きな動きを作っていかないと、パワーにならないということです。様々な問題を解決しなければいけないという時に、当事者が色々な形で援助をしたりするだけではなくて、国内にとどまらず、国境を越えた輿論と連動して初めてパワーを持つのだと思います。課題解決に向けた輿論形成ということが非常に大事な局面にきていると思っています。
言論NPOは12年前に誕生したのですが、まさにそういったことを目的として誕生した団体なのです。つまり、私たちは健全な輿論をつくりながら課題解決をしていくということです。私も国際社会に出て、それが当たり前の動きだということに直面し、驚きました。なので、今、私は世界を飛び回って、この議論づくりを、国境を超えて動かそうと思っています。
「東京-北京フォーラム」での対話を通じて偶発的な事故回避を
そういったことを考えてみると、私たちがこの8年間行ってきた中国との対話も、マルチステークホルダーの問題だと考えています。私は「民間外交」とよく言いますが、この中国との対話の参加者というのは、ジャーナリスト、政治家、企業経営者、学者など、アジアや日中と関わり合いのある人々が自分から参加し、真剣な議論を繰り広げます。どうしてそういった動きになったかというと、やはり2005年に今と同じ局面に遭遇しました。当時は中国の若者がデモを起こし、日本の企業に石を投げるなど日中関係が非常に荒れ、政府間関係だけでは交渉が止まってしまいました。そして、ナショナリズムがどんどん高まっていく中で、どうすればこの状況を解決できるのか、という点が僕たちの問題意識でした。こういった時に、政府だけに限らない関係者が、自由な立場で集まってこの問題を解決しなければならない、という状況で私たちが誕生させた対話というのが「東京‐北京フォーラム」だったわけです。
私は先週、北京から戻りましたが、この対話の打ち合わせに行ってきました。特に今年は領土を巡って両国間に緊張感もある状況の中で、関係者間が参加した対話の枠組みが機能しないと、政府間関係だけでは動かなくなってしまうという段階にきているわけです。以前も尖閣問題について話す中で言っていることですが、尖閣諸島は日本の領土だということを私たちも思っています。ただ、政府間の交渉では、自分たちの主権を背負うわけですから、お互いにそれを言いあうことしかできず、政府間交渉は止まってしまうわけです。そうすると、別の問題に関しても対話が全面ストップしてしまうわけです。今、私が一番気にかけていることは、偶発的な事故から軍事紛争、軍事衝突が起ってしまうのではないかということです。戦争というのは、歴史的に見ても何かの意図があって戦争するのではなく、ちょっとした事から戦争に発展してしまう事が多いのです。あまりにも緊張関係が続いて、政府間関係で交渉がなくなってしまうと、対話ができなくなり、ちょっとしたことが大きな問題になってしまう。こういう問題は、メディアではなかなか出てきませんが、尖閣諸島周辺では軍事上のホットラインがありません。何かあった場合、現場レベルでストップをかけられる機能がありません。例えば曳光弾の発射、レーダー照射など、危ない事がどんどん起きています。それは意図的にやっているというよりは、コミュニケーションが全く無いことの危険性を知らない人が意外と多い。僕が北京に行った際、この状況を知り、これはまずいと思いました。この私たちの対話で、領土問題を解決することは、あまりに難題なので民間の私たちにできないかもしれません。しかし、この対話で偶発的な事故回避の役目を果たす事ができないか、という問題意識だったわけです。
東アジアの安定化に向け、私たち市民に何ができるのか
そこで今回は、私たちの対話の実行委員長である元国連事務次長の明石康さん、元駐中国大使の宮本雄二さん、経済界からも元国際協力銀行総裁の田波耕治さん、また、安全保障の問題も議論することになると思ったので防衛大学校教授の山口昇さん、そして私の5人で北京に行ってきました。議論をしていて、領土に関しては譲ることができないのですが、しかし1点、合意ができそうな点がありました。それは軍事衝突を起こさないという点でした。中国からも、外交関係、軍関係といった色々な人が参加するのですが、色々と譲れない事がある中で、ちょっとした出来事で衝突が起こってしまうかもしれない、ということに関しては非常に危機感を持っていましたので、この点については対話をする事が可能なのではないかと思いました。
この対話は、個別にやっているわけではなくて、今回の対話の結果は日本政府に上げているわけです。こういった本音ベースの対話が両国にも不足している為に、こういった民間の対話がこれからの政府間対話の基盤づくりのひとつのきっかけになるのではないかと思っています。この対話の中身は、言論NPOのホームページでも公開していますので、是非読んでいただきたいと思います。
今回の対話を始める前に、私たちは中国側と3つの原則について合意しました。1つは、政府の立場をお互い反すうするだけの議論は止めようということ、相手を攻撃する議論は止めようということ、そして、あくまでも課題解決のために真剣に議論をするということを提案し、中国側も合意して、かなり本気の議論を行いました。この中身を詳細にお伝えする時間はないのですが、日中両国の間に誤解が沢山あると感じました。両国関係の軍の人々に関しても、認識が違うことを感じました。例えば、曳光弾ひとつをとってみても、定義や曳光弾がどういう意味を持つのかなど、お互いの認識が違っていました。日本側は世界的な認識、国際的なルールなど、かなりいろいろな経験を持っていて、中国側もこれを知りたいという話がありました。そして、お互いの認識の違いをどのように埋めていかなければならないか、という話になってきました。今後、日中関係がどのように展開していくか分かりませんが、少なくともこのような民間の対話が大事だと思いました。
今年の「北京‐東京フォーラム」は8月12日に北京で行う事を決定しました。この日は35年前の日中平和友好条約の調印式の日です。この正式な日程を、日中両国の関係者が参加し、記者会見を行い発表しました。この記者会見には、何とカメラが7台、記者もかなり来ていました。それぐらい、民間の対話に、両国のメディアも含めて関心があるということに非常に責任を感じる状況です。今、北朝鮮のミサイル問題などもありますが、アジアは世界の中でも大きく成長する地域で、アジアの世紀と言われている時に、ここまでガバナンスが不安定だということについて、誰かが本気で考えていかない限り、いつも不安定な状況で終わってしまう。私が今感じているのは、東アジアのガバナンスをどうやったら解決し、安定化できるか。そのために市民に何ができるのか、ということが私たちの最大の関心事です。
未来を切り拓くため、課題解決に取り組むのは私たち自身
今度、韓国とも対話を行います。ここでも、領土問題では譲れないところですが、国民感情がいつも爆発してしまう、という状況をもっと冷静に考えるべきではないかと考え、今、日韓両国で世論調査を実施しています。この世論調査の結果をもとに、5月の連休明けに日本で対話を行う予定です。こういった課題解決のためのパブリックディプロマシーという事を実現したいと思っています。パブリックディプロマシーというのは、国際社会の中では、自分たちの国のイメージアップさせるために、相手国の国民に直接働きかけるという形で使われます。私たちも基本的には同じで、議論を世界に伝えたいと考えています。ただ、私の言うパブリックディプロマシーは課題解決のためのパブリックディプロマシーであり、そのために輿論が非常に重要だと考えています。世界の地域の課題に取り組んでいる若者が世界には多くいます。もちろん日本の地域にも沢山いると思います。ある意味で今の時代というのは、全員参加で未来をつくり出すために取り組む局面だと私は思っています。
ということでお時間です。今日は「不安定化する東アジアに必要なことは何か」ということで、私も北京、ワシントン訪問を終え、今度は韓国との対話に向けて、私が何を考え、動いているのかということについて、皆さんに説明しながら、新しい時代の大きな展開点にきていることを伝えたいと思い、話させていただきました。ありがとうございました。
4月22日放送の「工藤泰志 言論のNPO」は、ワシントンに続き北京、そして韓国を訪問する工藤が、各国を訪問するなかで感じた「アジアのなかの日本」、そして「東アジアに必要なことは何か」についての考えを述べ、議論しました。
(JFN系列「ON THE WAY ジャーナル『言論のNPO』」で2013年4月22日に放送されたものです)