2003.11.26開催 アジア戦略会議 報告

2003年11月27日

031120アジア戦略会議今回は、戦略形成の方法論の第一ステップ「世界の中長期的潮流の洞察」の作業の中で、イスラムについて取り上げ、主として以下の観点から東京都立大学教授の大塚和夫氏からお話をうかがい、議論を行いました。

(1) 21世紀の世界秩序を展望するに際し、イスラムはどのような位置付けを占めるのか。
(2) イスラムの世界を我々はどう捉えていくべきなのか。
(3) 日本が将来選択に向けた戦略形成を行うに際し、イスラムはどのような関わりを持ち得るものなのか。
(4) 日本の強さを再評価するに当たり、イスラムから得られるヒントは何か。

大塚和夫氏大塚氏は、イスラム教については原則性と柔軟性の両面があるとし、唯一絶対神によって定められた規範体系の解釈者である宗教指導者は多数おり、同一事象について異なる判断がされる余地がある上に、近代以降、脱宗教的高等教育の普及とともに世俗的知識人たちが登場し、自分の力で規範体系の判断・解釈を行うようになっており、「イスラム原理主義」も数多くあるイスラム法解釈のひとつに過ぎないことを指摘しました。また、イスラムには一種の衰退史観が見られ、衰退の原因は「真正の」イスラームを我々が守らなくなったことにあるという自己批判的意識から、真の信仰者とそうでない者を峻別しようとする急進主義が台頭したことや、いわゆる「近代」が植民地経験として始まり、現在も被支配の構造は基本的に変わっていないという認識の下、パレスチナが米国による世界支配の象徴とされていること、特に、グローバル化の中で90年代以降、急進的イスラム主義が国際的ネットワークに乗った戦闘活動へと向かったことなどを指摘しました。

その上で、大塚氏は、日本とイスラム世界との関係を考える場合には、「内閉」的日本社会から脱皮し、米国一辺倒ではない真にグローバルな戦略構築という視点が重要であるとし、その際、多神教でなく一神教、来世の観念の違いなど異文化としてのイスラムへの理解とともに、「資源」としてのイスラム世界における「親日意識」の活用を考える必要があり、この観点からは、対米追随政策は短期的にはプラスでも、中長期的には深刻なマイナスであるとの見解を示しました。

加えて、大塚氏は、最近の傾向として、「イスラム復興」現象といった宗教回帰現象の一方で、イスラム社会における「世俗化」現象、現世的な消費社会化現象が進んでいることも示唆しました。

(※議事録は後日アップされます。)


今回の出席者は以下の方々でした。(敬称略)

大塚和夫(東京都立大学教授)

福川伸次(電通顧問)
入山映(笹川平和財団理事長)
林芳正(参議院議員)
谷口智彦(日経BP社編集委員室主任編集委員)
夏川和也(日立製作所特別顧問)
松田学(言論NPO理事)

今回は、戦略形成の方法論の第一ステップ「世界の中長期的潮流の洞察」の作業の中で、イスラムについて取り上げ、主として以下の観点から東京都立大学教授の大塚和夫氏からお話をうかがい、議論を行いました。