2007.12.27開催 アジア戦略会議 / テーマ「アジアの潮流」

2007年12月27日

071227アジア戦略会議

 12月27日のアジア戦略会議は、ゲストスピーカーとしてアジア開発銀行総裁の黒田東彦氏(元財務省財務官)をお招きして開催しました。黒田氏からは、同銀行の総裁としてのお立場やご経験からアジアをどう見ているか、現在のアジアの潮流や、そこから日本に問われる課題は何かといった点などについてスピーチが行われ、出席者の間で今後日本がアジアにおいて果たしていくべき役割などを中心に活発な議論が行われました。

黒田東彦氏スピーカー:黒田東彦氏(アジア開発銀行総裁)

 黒田氏は、アジア各国首脳などアジアとの頻繁な接触を通じても得られる実感として、アジアは今、歴史的な勃興期にあり、不良債権処理から立ち直った日本がアジア経済の成長力を戦略的に生かしていくことが、日本にとってもアジアにとってもチャンスであるとの認識の下に、アジアの潮流把握の上で参考になるいくつかの視点を提示しました。

 すなわち、これまで日本は「雁行形態論」のとおり、経済発展モデルをアジアに提供すると同時に、それを各国に組み込んでいくという形で、日本→Nies→ASEAN→中国という流れがそこには見られました。しかし、例えば、同じNies諸国でも、日本の政府主導を究極まで追及した韓国もあれば、中小企業を中心に自立的な発展を目指した台湾、全体的な経済発展と政府規制の道を歩んだシンガポール、徹底した自由放任の香港といったように、アジア各国の発展モデルも多様です。しかし、それぞれが日本のモデルを借用し、そこで最も経済発展に寄与したのが日本との貿易や投資であったという関係がそこには共通してみられました。ところが、いまや日本ではなく、アジア各国にとって最大の貿易・投資相手国は中国になりつつあり、日本モデルを参考にするパターンは消えているという潮流変化が指摘されます。

 黒田氏はさらに、ASEAN、中国やインド、西アジアや中央アジアのそれぞれの特徴へと話を進め、日本やASEANにとっての課題は中国とインドをどう取り込むかであり、金融で進められてきたASEAN+3(日中韓)から今後は、インド、豪州、NZを加えたASEAN+6がベースになっていくことなどを指摘しました。

 その上で、黒田氏は、日本の課題として、第一に、安全保障面で宿命的な関係にあるアメリカとの関係と、経済のネットワークとしてのアジア(特に中国)との関係の両者の間で、どのようにバランスを図っていくのか、第二に、日本との共通性(政治的ヘゲモニーを求めない)と補完性(経済面)を有する最も自然なパートナーであるASEANとの連携をいかに強化していくか、第三に、能力は高いものの付き合いの難しいインドとの協力関係をいかに深化させていくか、第四に、西アジアの国との関係に日本のスコープをどう広げていくかの4点であることを指摘しました。

 
 その後、黒田氏とメンバーとの間で様々な意見交換がなされ、そこでは例えば、これからのアジアの趨勢を左右する中国やインドなどの動向、中国が国際経済秩序と調和していく上で指摘される問題点、日本のFTA戦略のあり方など、様々な論点に焦点に当たりました。

 この中で黒田氏が特に強調したのは、現在は購買力平価で世界の25%であるアジア経済の比重が2030年頃には世界の半分にまで高まるという時期をアジアが迎えている中で、それは日本にとってのチャレンジであるとともにオポチュニティー(チャンス)でもあること、そのことは同時にアジアにとってもプラスであり、それは日本が依然として世界第二の経済大国として圧倒的に発展し、高い技術水準なども有している国だからだということです。

 そして黒田氏は、バブル崩壊後に国内問題に忙殺されて内向きになった日本は、今の経済再生の動きをアジアの勃興期に結びつけるべく、自らのアイデアや戦略を外に開示し、発信していくべきであり、とりわけ今後は日本と中国とインドとの協力がキーとなっていま中で、日本の各界の指導者たちは意図的に、この3国間の協力関係構築に意を砕いていくべきであるとしました。

 なお、2008年の日本に問われる課題についての黒田氏のご発言は、新年に言論NPOのウェブサイトに公開する予定です。

 アジア戦略会議では、新年以降も引き続き、アジアや世界の潮流を論じながら、その中で日本に問われる課題について、議論を発展させていきたいと考えています。


今回の出席者は以下の方々でした。(敬称略)

福川伸次(機械産業記念事業団会長 元通産省次官)
会田弘継(共同通信社編集委員 論説委員)
安斎隆(セブン銀行社長 元日銀理事)
黒川清(内閣特別顧問、政策研究大学院大学教授)
小島明(日本経済研究センター会長、日本経済新聞社顧問)
進和久(ANA総合研究所顧問)
平野英治(トヨタファイナンシャルサービス株式会社 取締役、前日本銀行国際担当理事)
松田学(財務省〔東京医科歯科大学教授〕、言論NPO理事)
工藤泰志(言論NPO代表)

 12月27日のアジア戦略会議は、ゲストスピーカーとしてアジア開発銀行総裁の黒田東彦氏(元財務省財務官)をお招きして開催しました。黒田氏からは、同銀行の総裁としてのお立場やご経験からアジアをどう見ているか、現在のアジアの潮流や、そこから日本に問われる課題は何か