2月18日のアジア戦略会議は、ゲストスピーカーとして渡邊幸治氏(財団法人日本国際交流センターシニア・フェロー、元駐ロシア特命全権大使)をお招きして開催しました。渡邊氏からは、日本が米中両国との関係の中で取るべき外交戦略について問題提起をしていただき、会議出席者の間で今後日本が中国や米国、さらにはアジアとの連携でとるべき独自の外交戦略に焦点を当てた議論が行われました。
スピーカー:渡邊幸治氏(財団法人日本国際交流センターシニア・フェロー、元駐ロシア特命全権大使)
渡邊氏は、日米中の三者関係をめぐる最近の潮流を概観し、今後日本が戦略的外交を展開する上で、日本のとるべき選択肢について様々な視点から問題提起を行いました。
まず、渡邊氏は米中関係について、米国は貿易摩擦や人権問題などで中国に懸念を抱いているものの、次期政権も依然、中東問題に力を傾注せざるを得ない状況下では中国との安定的な関係を構築する方向に向かわざるを得ないと語り、その例として、米中の各シンクタンク間の交流の広さと深さが相当なものとなっている問題を指摘しました。さらにこれに関連して米中の民間レベルにおける関係が深みを増しており、日本の対中国関係構築の努力が出遅れ気味であると、語りました。
次に日中関係については、安倍政権以降改善が見られ、福田政権の訪中も好評を博すなど、両国首相関係が非常に好転したことを評価すると同時に、安倍首相訪中の契機となった言論NPOによる民間レベルでの対話活動も高く評価しました。しかし、両国の国民レベルでは、依然として過去の歴史問題にもとづく反発が根強くあるとし、特に両国の民間レベルでの交流を強めていく必要性を強調しました。
さらに日米関係については、これまで以上に日本は米国との同盟関係を一層重視すべき必要性を痛感するものの、米国では、世代交代の進展とともに今や知日=親日の図式が成立しがたくなっており、中東問題もあって、日本の重要性が相対的に低下を見せるなど、両国の相互認識にギャップがあることを指摘しました。その上で、目下の問題は日米同盟をどう位置づけるかにあり、米国に協調して日本の平和主義的方針を薄めるか、あるいは、米国の影に隠れることなく独自の外交を展開するかという、2つの選択肢がある、と語りました。
最後に渡邊氏は東アジア地域共同体についても言及。大陸諸国と島嶼部諸国の不和でASEAN自体の結束が弱まっていること、中東問題の比重の高まりで米国のASEANに対するプライオリティが低下していることなどから、物理的にも米国のASEAN参加が困難となりつつあること、そのため、日本がリーダーシップを発揮してバランスをとっていく必要があり、ASEANは、日本が独自外交を展開する要にして格好の舞台であるとの指摘がされました。
その後、渡邊氏と出席者の間で、日本が今後取るべき方向に関して意見交換が行われました。
まず今後日本は日米関係やASEANとの関係などでどの点にプライオリティを置いていくべきかというと質問に対して、渡邊氏は、日本は米国の影に隠れているという、東南アジアひいては世界における現状認識に挑むためにも、日本は独自の外交を展開する必要がある、そのためにはミャンマーや台湾問題への取り組みなど、シンボリックな行動を起こすことも検討すべきと語りました。このミャンマーに関しては白石隆氏から、Asian Highwayに活路を見出すのが得策ではないかという意見も出されました。
さらに出席者からはアジアの提携や交流に関しては多面的に行っている民間に比べて遅れているのは政治であり、日本政府としてFTAやそのために日本の開放などリーダーシップが重要などの指摘が続きました。これに対し、渡邊氏は、中国や米国の強固なインテリジェンスのメカニズムについて言及し、日本が独自の外交戦略をとる上でこうしたメカニズムを整備することは不可欠であるとし、また、特に歴史問題などが国民間に残存する日中間においては、言論NPOのような民間有識者間の対話は必要と強調しました。
アジア戦略会議では、引き続き、アジアや世界で進む潮流を論じながら、その中で日本に問われる課題について、議論を発展させていきたいと考えています。
文責:インターン 富永華子 (東京大学)
今回の出席者は以下の方々でした。(敬称略)
福川 伸次
機械産業記念事業団会長 |
白石 隆 政策研究大学院大学副学長 |
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平野 英治 トヨタファイナンシャルサービス株式会社取締役 |
松田 学 財務省(東京医科歯科大学教授) |
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工藤 泰志 認定NPO法人 言論NPO代表 |
2月18日のアジア戦略会議は、ゲストスピーカーとして渡邊幸治氏(財団法人日本国際交流センターシニア・フェロー、元駐ロシア特命全権大使)をお招きして開催しました。渡邊氏からは、日本が米中両国との関係の中で取るべき外交戦略について問題提起をしていただき、会議出席者の間で今後日本が中国や米国、さらにはアジアとの連携でとるべき独自の外交戦略に焦点を当てた議論が行われました。