小林陽太郎 (富士ゼロックス株式会社代表取締役会長、 言論NPOアドバイザリーボード)
こばやし・ようたろう
1933年生まれ。56年慶應義塾大学経済学部卒業。58年ペンシルバニア大学ウォートンスクール修了後、富士写真フイルム入社。68年富士ゼロックス取締役販売部長、78年取締役社長を経て、92年代表取締役会長に就任、現在に至る。その他、科学技術・学術審議会委員、日本ユネスコ国内委員会委員、社団法人経済同友会終身幹事、三極委員会アジア太平洋委員会委員長、学校法人慶應義塾評議員、学校法人国際大学理事長等を兼任。
山崎正和 (劇作家・評論家、言論NPOアドバイザリーボード)
やまざき・まさかず
1934年生まれ。56年京都大学文学部哲学科卒業。京都大学大学院美学美術史学博士課程修了。関西大学、大阪大学教授を経て、現在東亜大学学長。劇作から文芸評論、社会論まで活動領域は広範囲。主な著書に『柔らかい個人主義の誕生』『大分裂の時代』『歴史の真実と政治の正義』等。
司会:
福川伸次 (株式会社電通顧問、アジア戦略会議座長)
ふくかわ・しんじ
1932年生まれ。55年東京大学法学部卒。同年通産省(現経済産業省)入省。ジェトロ・アムステルダム駐在員、太平首相秘書官等を経て、通産省事務次官に。88年、退官。神戸製鋼副社長を経て、94年、電通顧問兼電通総研代表取締役社長兼研究所長に就任。現在、総合資源エネルギー調査会(経済産業省)、政府審議会委員などを務める。主な著書は『21世紀・日本の選択』『IT 時代・成功者の発想』『日本への警告』等。
概要
座談会は、福川伸次氏(司会)が小林陽太郎、山崎正和の両氏に、先のシンポジウムを総括する幅広い論点から議論を求める形で進められた。アジアには共通の文明や文化はないとする山崎氏は、グローバル時代における個人の観点や、日本が国際的な道義性の形成に寄与することなどの重要性を強調し、日本の閉鎖性は国民性に根付くものではなく、変えることができると主張する。小林氏は、経済面以外の幅広い発信力、アジアとの意味ある対話、企業の社会的責任や教育の問題の重要性などを強調する。
要約
座談会は、福川伸次氏(司会)が小林陽太郎、山崎正和の両氏に、先のシンポジウムを総括する幅広い論点から議論を求める形で進められた。ここでは、アジアをどう見るか、日本は開かれた国づくりをどう進めていけるのか、日本はアジアに対してどのような形で関係を築くのかという3つの論点が提示された。
山崎氏は、アジアには共通の文明や文化はなく、アジアというまとまりは第二次大戦後の近代化の流れの中でひとつになってきたのであり、グローバル化の時代においては世界の中の個人という観点こそが重要と指摘した。小林氏は、戦後の日本が経済に偏り過ぎたことが発信のトータリティを損なっているとの認識の下で、多様なアジアの国々との意味あるコミュニケーション、対話の重要性を指摘した。
日本が変われるかどうかについては、小林氏が、今変えることのメリットを広く説いていく努力とともに、日本人の無意識的な閉鎖性、排他性に自ら気がつくことの重要性を指摘したのに対し、山崎氏は、日本の特殊性、閉鎖性とされるものは日本の国民性や文化伝統ではなく、100年で形成された工業化社会の特性と、戦後50年の「分断国家時代」の体制の結果に過ぎず、変えることは可能であるとし、現に戦後体制の恩恵に浴さなかった日本人が世界に大衆文化を伝播し国威を発揚していることを指摘した。
今後の企業経営の在り方については、小林氏は、経済性以外の社会的・人間的な側面を取り入れ、社会的責任の方向に企業が進み、アジアや世界の信頼を得ることが日本の大きなブレークスルーにつながるとした。山崎氏は、愛され尊敬されるためのソフトパワーや、それを作り出すクリエイティビティなどに加え、日本が世界のさまざまな問題に対して国際的な世論を形成する働き手となることの必要性を強調し、そのためには過去の問題の清算が必要であるとした。
最後に、議論は教育の問題の重要性に及び、小林氏は、今の教育改革における基本的な方向性を支持していくべきだとした。
「言論NPOアジア戦略会議・シンポジウム セッション3」報告 「開かれた日本づくりをどう進めるか」