「日本の強さ・弱さと戦略的重要度の評価について」結果報告
(2004/3/1~3/10実施、回答数100)
特定非営利活動法人・言論NPO(代表・工藤泰志)は、「日本のパワーアセスメント」の作業に関連して、国内の各界の有識者の方々を対象に「日本の実力(強さ弱さ)」の評価と、どの分野が日本の将来を考える場合、戦略的に重要なのかのアンケートを実施しました。
言論NPOでは、戦略形成の方法論に従って、日本はどういう分野のどのような点に強さや弱さを持つのか、それらの戦略的重要度はどの程度なのかを評価し、その2つの座標軸で「日本の戦略マップ」を作成し、これを公開することとしました。今回の有識者アンケートはその作業を補完するもので、調査には100名の方々からご回答をいただいております。
このアンケート調査では、私たちの「日本の強さ弱さ」の評価作業と同様に日本の、(1) 経済、(2) 政治、(3) 大衆文化、(4) 社会・教育、(5) 科学・技術、(6) 防衛・軍事、(7) 資源(食料、エネルギー)、(8) 環境、(9) 言論・思想の9つの分野に関して、それぞれ以下の3つのポイントについて、日本が国際的に他の国々と比較してみて「圧倒的に強いか」「他国と同等か強いか」「弱い」かどうかを選択していただきました。3つのポイントは、以下の通りです。
B.「強靭性」 層の厚み、試行錯誤の蓄積度、自己革新力、雑種度、F.M.(フォース・マジョール:地震やテロといった大きな災害)に対する耐力などに鑑みて、日本の当該分野にはどれだけの強靭性があるのか。
C.「影響力」 先進課題発見解決力、ブランド力、日本が国際社会で「お墨付き」を与える力、流行創造発信力などに鑑みて、日本は当該分野でどれだけの国際的な影響力を持っているか。
さらにアンケート調査では、言論NPOが各分野の専門家などから行ったヒアリングなどをもとに、前記の9つの各分野について、その分野の日本にとっての戦略的重要度を巡る論点をいくつか選択肢として提示し、そこから、最も重要と思われる論点を回答者に選択していただきました。私たちは、その結果を踏まえ、独自の採点基準で回答者がどの程度の戦略的重要度をそれぞれの分野の先進度、強靭性、影響力について置いているかを推定しました。
以上の結果を、私たちが行った日本の「パワーアセスメント」の作業と同じ形で一目でわかるようにしたのが、別添の「日本の強さ、弱さの戦略的重要度評価・戦略マップ」【MAP】です。これら9つの分野の中の資源については、その中でも大きく性格を異にするエネルギーと食料とを別々に分けて評価しました。このため、10分野が評価の対象となり、さらにそれぞれについて3つのポイントに分けて評価を求めたため、結果的に30項目がマッピングの対象になりました。この結果、日本の将来にとって戦略的な重要度が高いにもかかわらず、その分野が弱いと感じている分野は右下部分に集中し、3分の1の9項目に及びました。
本アンケートで浮かび上がった日本の有識者の意識を総括すれば、次の点に集約されると考えられます。
- 日本の圧倒的な強さは、環境、経済、科学・技術、大衆文化の4分野における「先進度」でした。これらの分野については日本は自信を持つことができると認識されており、またこの中でもっとも戦略的に重要と考えられている分野は経済、環境の先進度でした。
- また戦略的に重要と考えられながら、世界の各国と比べても弱いと考えられている分野は食料(先進度、強靭性、影響力)、エネルギー(強靭性、影響力)、政治(先進度)、言論・思想(先進度、強靭性)、軍事(強靭性)でした。食料やエネルギーがこの右下に並んだのは、自給率の低さの問題ではなく、もともと弱みとなっているこの資源分野の戦略的な位置づけや対応が明確化されておらず、食料外交の交渉力の低さ、資源課題へのリーダーシップの欠如に不満がある一方、輸入に頼らない生産性の高い日本農業の立て直しへの期待があるものといえます。
- 特に、環境分野では、今後の日本の戦略分野であり、地球環境問題の解決や、持続可能な循環型社会の実現に向けて、日本はこの分野での強さを活用することにより、世界の中で主導的な立場に立つべきとの考えが多かった。
- 政治の分野は、先進度、強靭性、影響力とももっとも弱いとの認識でしたが、戦略的な重要性では先進度がもっとも重要との位置づけでしたが、強靭性、影響度はそう重要ではないとの味方に割れました。これは日本の政治、つまり政治家や政党にはあきらめの気持ちを抱きながら、他方でそれを変えられるものは有権者であり、国民の政治意識や政治の参加度合いの現状には不満でありながらそこに期待をするしかないとの意識が浮き彫りになりました。
- 防衛・軍事の問題では先進度や影響度は戦略的に低いと認識をしながらも、強靭性を戦略的な重要度が高いとし、その強靭性はもっとも弱いと判断しているのは、日本の防衛が機動的に動けないという制度面の制約を意識した回答が多かったためで、そこでは憲法改正について取り組の、一人前の国家になることが戦略的に重要という認識が影響をしました。
- もっとも多くの回答がよせられたのが言論・思想の弱さと戦略的な重要性でした。官民の政策論争が不活発であり、ジャーナリズムの政策論争への貢献の薄さなど、まさに私たち言論NPOが誕生した理由である「言論不況」への不満の認識は高く、多様な情報伝達手段の活用、ジャーナリズムの質の向上に加え、知的ネットワークの多様・多層な形成こそが必要との見方に共感する回答は半数近くとなった。
以下、本アンケート結果から浮かび上がった有識者による日本の「自己像」、セルフイメージについて、言論NPOが作成した戦略マップ【MAP】とも対比させながら、何点か特徴を挙げてみたいと思います。
1. 日本の戦略分野は何か
戦略マップの作業について特に着目すべきなのは、「圧倒的に強い」分野でありかつ「戦略的重要度の大きい」項目は何かです。そこに入った項目を活かし、日本の「限りなく理想に近く現実的な」アイデンティティーは何かを議論することが、この作業の大きな目的だからです。言論NPOの作業結果では、大衆文化の影響力、科学・技術の先進度、経済の強靭性の3つがこれに該当したのに対し、アンケート結果では、環境の先進度、経済の先進度の2つがここに入りました。
また、同じく「戦略的重要度が大きい」が、「同等か強い」項目については、日本がそれをさらに強化し、上記のような状態に持っていくことが戦略の柱の一つになることになりえます。言論NPOの作業結果では、経済の先進度、科学・技術の強靭性、軍事の先進度、言論・思想の強靭性の4つがここに入りましたが、アンケート結果では、環境の強靭性、環境の影響力、エネルギー資源の先進度の3つがここに入りました。
全体として、科学・技術や経済、大衆文化を重視することになった言論NPOの結果に対し、アンケート結果は、環境分野を日本の戦略分野と考えている人が多いことが分かりました。
言論NPOの評価作業では、環境の戦略的重要度は否定しないものの、「魅力的な日本の創出」の文脈の下では高いプライオリティーが置かれなかったのに対し、アンケート調査では、「地球環境問題は世界が最優先で取り組まなければならない、それ自体が戦略的重要度の高い課題である。日本は、公害問題の中で環境問題にいち早く取り組んだ「課題先進国」として、人類や地球全体の立場から、この分野を主導することを国家戦略の中軸に据えるべきである。」という論点が重視されました(37%の方が選択)。また、「自然との共生と調和を保ちつつ美と感性を高めることは、日本の持つ力の一つの特質であり、環境というコンセプトは、日本がアイデンティティーを確立していく上で極めて重要な要素となる。」という視点も回答を集めました(同22%)。
多くの有識者の方々が、地球環境問題を深刻な危機と受け止めていること、そこに日本が有する環境分野での強さを活用していくことに戦略的重要度を見出していることがうかがわれます。
他方、アンケート結果で日本が「圧倒的に強い」とされた項目には、先に挙げた環境の先進度と経済の先進度に加え、戦略的重要度は中ではあるものの、大衆文化の先進度と科学・技術の先進度が挙がりました。これら4項目はいずれも先進度の視点であり、多くの方々が、日本の経済や環境、大衆文化や科学・技術の分野の先進性に自信を持っていることが示されました。
2. 強い問題意識が寄せられている分野は何か
アンケート結果では、マップの右下に9項目が集中しましたが、これらは、戦略的に重要度が大きいものの弱い分野として、有識者の方々が不安にせよ不満にせよ、何らかの強い問題意識を持っている項目であると考えられます。それは、食料、エネルギー資源、言論・思想、そして政治の4つの分野に見られました。
(1) 食料(先進度、強靭性、影響力の全て)
アンケートでは、戦略的な重要度を巡る次の2つの論点に回答が集中しました。これらの視点に対する有識者の関心の高さが示されたものと考えられます。
一つは、「単に日本の食料自給率が約40%まで低下しているという意味ではなく、食料自給率に対する明確な視点(先進度)の欠如、食料外交の交渉力(強靭性)の低さ、食料分野での資源課題に対するリーダーシップ(影響力)の欠如などの観点から見て、食料は日本にとっては弱みであり、食料の安定的な確保は国家として安全保障の基盤をなすものであることに鑑みれば、より一層の戦略的重要度を置いた対応が必要。」(35%)です。
もう一つは、「日本農業の生産性の低さの問題は、農業保護政策がもたらす高い食料品価格を通じて、消費者に負担を負わせる形となって現われている。また、消費者にとって何よりも重要なのは食料の安全性である。株式会社などの参入や大規模農業の導入などにより農業の生産性を高め、日本が食料を輸入に頼らず、安全な食料、優れた食材を国内でより低価格で供給できるようにすることこそが、消費者の視点に立った政策である。より低コストな社会を実現して日本の魅力を高める上でも、食料分野の戦略的重要度は大きい。」(27%)でした。
(2) エネルギー資源(強靭性と影響力)
アンケートでは、戦略的な重要度を巡る論点として、「日本のエネルギー問題の原点が、石油などの海外(とりわけ中東)への依存度が極めて高く、自給体制が脆弱であることである限り、日本にとってこの分野の戦略的重要度は常に高い。」という論点が回答を集めた(26%)ように、この分野については、有識者の方々の不安の大きさが反映されました。
強靭性については、「今後、国家間での地下資源の争奪戦が激しくなっていく中で、輸入先の多角化、掘削の段階からの開発輸入、日本での収益機会の中東諸国資本への提供、さらには外交面でのタクティクスなどエネルギー確保への戦略的対応を強化していく必要がある。」(26%)という、国際市場における日本の資源交渉力に対する不安が反映されました。
影響力については、こうした国際市場での日本の力の強化とともに、「日本にとって戦略的に重要なのは、省エネへの要請が高まるアメリカなどに対しては日本の強みである世界最高水準の省エネ技術力をカードとして用いる」ことが重要であるとの認識も反映していると考えられます。
なお、エネルギーの先進度については、「同等か強い」と判定されましたが、戦略的重要度が大きいとされた背景には、「日本は、その高い技術力で代替エネルギーへの転換への取組みを強化し、環境立国を推進して世界に先駆けて循環型エネルギーへのシステム転換を実現することである。そのためには、こうした国家の基本路線について国民的コンセンサスを形成し、当面のエネルギーコストの上昇は甘受するという犠牲を払ってでも、これを推進すべきである。」(26%)との考え方が支持を得ていることを反映していると考えられます。
言論NPOの評価作業では、エネルギー資源の戦略的重要度は否定しないものの、「魅力ある日本の創出」の観点からは必ずしも高いプライオリティーが置かれませんでした。また、「需給が大きく逼迫すれば、エネルギー価格の上昇がコスト面で代替エネルギーへの転換を促進するのであり、日本が優れた技術力を有する限り、市場メカニズムの下でエネルギー確保には問題はない。」という考え方を重視しましたが、アンケートでは、この見方は支持を集めませんでした(5%)。
(3) 言論・思想(先進度と強靭性)
アンケートでは、次の論点に半数近い回答(45%)が集まりました。日本の有識者が、日本の言論・思想の弱さと、その強化の重要性について強い問題意識を持っていることがうかがわれます。
すなわち、「大きな時代の変革期にあって国全体のシステム再設計に向け改革を推し進め、世界の潮流変化の中で存在感を回復しなければならない日本に求められるのは、言語で表現された明確な理念や思想である。そのためには、より質の高い言論とその厚みが必要であるが、現実を見ると、日本では政党内、政党間、あるいは官民などの間でも政策論争が不活発であり、シンクタンクの未成熟やNPOなど市民団体の政策への関与の少なさ、ジャーナリズムの政策論争への貢献の薄さが認められ、まさに私たち言論NPOが誕生した理由である「言論不況」、「声なき日本」の様相を呈している。多様な情報伝達手段の活用、ジャーナリズムの質の向上に加え、知的ネットワークの多様・多層な形成こそが、今、日本には最も問われている。」です。
やはり、「言語による表現や発信力が弱く、アジアなど国際社会の中で的確なコミュニケーションと相互理解を求められている日本にとって、この分野を強化する戦略的重要度は大きい。」(20%)といえるでしょう。言論・思想の分野については、言論NPOの作業結果との大きな違いはありませんでした。
3. 政治への評価が示唆するもの
政治については、先進度、強靭性、影響力のどの点から見ても、「弱い」という評価になりました。アンケートで過半数(51%)の関心を集めたのが、政治そのものよりも市民や有権者の側の意識の問題です。すなわち、「政治の力を決めるのは、政治家や政府などの質というよりは、むしろ、市民や有権者、国民の政治意識や市民意識、その政治への参画度合いなどであり、とりわけ、日本が明治維新以来とも言われる大変革を遂げなければならない現在においては、国民の側の意識や覚悟が最も問われている。」というのが、多くの有識者の方々の見方です。
この論点は、政治の先進度の弱さとその戦略的重要度を表すもの(マップの右下)といえますが、他方で、政治の強靭性や影響力については、「弱く、かつ戦略的重要度が低い」(マップの左下)に入りました。これは、日本の政治の弱さを問題視しつつも、その前にまず、こうした国民や市民の側の問題に関心が集中した結果だと考えられます。政治家や政党など政治そのものに対しては「あきらめ」の気持ちを抱きつつも、他方で、それを変えられるのは有権者であるとして、国民意識に対する有識者たちの不満や期待が表されていると受け止めることができます。
4. 社会・教育への評価が示すもの
社会・教育については、先進度や強靭性については「同等か強い」ものの、先進度についての戦略的重要度は小さく、強靭性も必ずしも重要度は大きいとは評価されませんでした。特に、影響力については、「弱く、かつ戦略的重要度は小さい」(マップの左下)との評価になりました。
従来の日本の強さを支えてきたのは、集団における協調性や高い水準での均一性、人と人との信頼関係を大切にする傾向や高い平均的な教育水準といった、この分野での日本の強さでした。しかし、グローバル化の中でそれら強さを支えていた「閉鎖社会」が崩れていかざるを得ないこと、国内で所得の二極分化が進む傾向にあること、労働に対する価値観の揺らぎなどモラル面での変化が進んでいること、教育機能の低下現象などから、従来の日本の強さが崩壊し、逆にそれが弱さになりかねないと広く認識されるようになっていることが、本アンケートでも確認されました。上記の評価結果は、その中で、社会・教育の分野をどう評価して戦略的に位置付けていくべきか、多くの有識者の間に逡巡やとまどいがあることを反映しているのではないかと考えられます。アンケートでは、論点の選択にばらつきが見られ、一つの方向感を見出すことができませんでした。
影響力がマップの左下に入ったのは、こうしたとまどいの中で、世界における日本社会の全体的な魅力度を高めることについてのイメージがなかなか形成されにくいという認識を反映したものと考えられます。
ちなみに、言論NPOの評価作業では、影響力の戦略的重要度をこの文脈の下で高く評価しています。特に、幅広く人材が活躍できる社会への変革に私たちは高い重要度を置きました。しかし、従来型の日本社会の強さについては、依然として「圧倒的に強い」としつつも、その活用の戦略的なプライオリティーは低いというのが私たちの評価でした。
5. 科学・技術分野に対する評価の違い
日本の科学技術分野は、その先進度では「圧倒的な強さ」を誇るなど総じて強いが、その戦略的重要度は必ずしも大きくないというのが、多くの有識者の方々の見方でした。この点では、いずれのポイントについても戦略的重要度が大きいとした言論NPOの評価結果との違いが出ました。
言論NPOの作業では、日本は科学・技術分野での先進度や強靭性に見られる強さを活かしていきつつ、その過程で先進課題の世界初の解決実績を積み重ね、世界から研究者を引きつけるなど影響力を獲得していけば、日本はこの分野で永続的な優位を確立し、名実ともに「科学・技術立国」としての「魅力ある日本」の形成につなげることができるとの判断が行われました。特に、その前提として、日本が90年代の停滞の時期に仕込んできた新しい技術が2010年頃から花開くなど、「追いつき型」のフェーズから「発明と創造のフェーズ」に入りつつあるという判断がなされています。
これに対し、多くの有識者の方々は、科学・技術分野そのものよりも、それを支える人材の劣化やモチベーションの低下に着目し、「重要なのはむしろ、人的資本の維持・確保に向けた社会・教育面での戦略である。」(34%)、あるいは、技術を利益につなげるマネージメント系の弱さに着目し、「戦略的に重要なのは、むしろ、科学・技術分野の外側にある企業経営や経営システムの問題をどう克服していくかである。」(22%)という見方が大勢を占めたことが、言論NPOの評価との違いとなって現われました。
6. 経済の分野に対する評価
経済については、言論NPOも本アンケートも、程度の差はあれ、いずれのポイントについても、比較的強く戦略的重要度も小さくない分野と見ている点では共通の結果となりました。ただ、強さ弱さの軸に関して、言論NPOが経済の強靭性を「圧倒的に強い」とし、先進度を「同等か強い」としたのに対し、本アンケートがその逆となった点に違いが出ました。これは、日本経済が潜在的な力を有しているとしても、90年代以降の経済停滞や構造改革の遅れは強靭性の面での弱さとして認識されやすいのに対し、言論NPOの評価作業では、政策や企業経営面に起因する強さ弱さは課題解決の実績との観点から「先進度」と評価し、それら戦略の対象となる日本経済の潜在力を強靭性として評価することにより、あえて日本経済の潜在力の強さの戦略的な意味合いを浮き彫りにしようとしたことによって生じた違いだと考えられます。
本アンケートでは回答者の選択は分かれましたが、比較的多くの有識者の方々が、「今後、少子高齢化と人口減少に直面する日本経済は、不断のイノベーションによる生産性の上昇、あるいは、日本の魅力を高め海外から生産活動を呼び込む形で、長期的な停滞要因を克服していかなければならず、そのためには、より競争的で魅力的な経済社会への変革や、日本の真の開国などに向けて構造改革を進める必要がある。」(24%)という見方をしていることが判明しました。また、経済の二極分化が、これまで日本経済の強さを支えてきた平等で均一な社会や厚い中間層が崩壊させ、経済面での日本の強さは失われることへの懸念から、「社会のあり方全体についてのビジョンやコンセンサスをどう形成するかという点こそが問われている。」(22%)という問題意識が高いことも判明しました。
7. 防衛・軍事に対する評価
日本の防衛・軍事については、先進度は「同等か強い」ものの、強靭性、影響力ともに「弱い」という点で、また、強靭性の戦略的重要度が大きいという点で、本アンケートも言論NPOの評価も同じ結果となりました。異なったのは、言論NPOが軍事の先進度の重要度が高いと評価したのに対し、本アンケートでは小さいとされたことです。
これは、言論NPOが、防衛・軍事の分野については、アジア全体の安全保障の構築の中に位置付け、日本という国を分かりやすい国にしていくという点を重視し、これを先進度の面から評価したのに対し、アンケートでは、「日本の防衛力の問題は、専守防衛であるがゆえに機動的に動けないという制度面の制約である。それが脅威に対する抑止力を不十分なものとしていることが、日本の外交政策や経済運営などを日米同盟の枠内に制約し、対米追随路線から脱皮できないことが日本の国益を損なっている。この状況から脱却するために、問題の根本にある憲法を改正し、自らの力で自国を守れる一人前の国家に向けて、防衛力を強化することが戦略的に重要である。」という論点に3割近くの回答が集まったことによるものと考えられます。これは、防衛力の強靭性に関する論点とみなしました。
先のアンケート調査でも、有識者の方々の憲法問題に対する関心の高さが浮き彫りとなりましたが、ここでもそれが反映される結果となりました。
8. 大衆文化に対する評価
日本が大衆文化に強みを有する点では、本アンケートも言論NPOによる評価もほぼ同様の見方となりましたが、アンケートでは、日本の有識者の多くが大衆文化にあまり大きな戦略的な価値を見出していないことが判明しました。それは、次の2つの論点が多くの支持を集めたことからうかがわれた傾向です。
一つは、「自然発生的な大衆文化よりも、その継承発展に政策としての支援が必要なのは、芸術(音楽、美術、演劇など)のように、文化的な価値が高いもののマーケットが小さく、コマーシャルベースには乗りにくい分野である。日本の強みであるアートの要素も、その基本は高い芸術性や技術性にあり、日本があえて戦略的な重要性を見出すべきなのは、文化のこのような側面においてである。」(27%)です。
もう一つは、「日本に影響力の強い大衆文化が生み出されたのは、それが自然発生的に生成発展してきたからである。文化というものは本来、国の戦略として位置付けるべき分野ではない。」(22%)です。
言論NPOの評価作業では、大衆文化に対して国の戦略として政策介入すべきではないという点では一致していますが、大衆文化の影響力については、圧倒的な強さを誇ると評価した上で、「魅力ある日本の創出」という点で、そこに大きな戦略的な活用の可能性を認め、あえて高い戦略的重要度を置きました。そこに新しさを打ち出そうとしています。
私たちは、言論NPOの評価作業と今回のアンケート調査結果という、2つの「戦略マップ」を公開することにより、日本のパワーアセスメントを巡る議論を活性化させたいと考えています。そして、それを日本のアイデンティティーの議論へとつなげ、それを私たちの作業にもフィードバックさせていきながら、日本の将来選択に向けた議論へと発展させていきたいと考えています。
今後ともご協力を賜わりますよう、よろしくお願い申し上げます。
特定非営利活動法人・言論NPO(代表・工藤泰志)は、「日本のパワーアセスメント」の作業に関連して、国内の各界の有識者の方々を対象に「日本の実力(強さ弱さ)」の評価と、どの分野が日本の将来を考える場合、戦略的に重要なのかのアンケートを実施しました。