5月7日(火)、東京・有楽町の日本外国特派員協会にて、言論NPOが韓国のシンクタンクである東アジア研究院(EAI)と共同で実施した「第1回日韓共同世論調査」に関する記者会見が行われました。
記者会見には、日本側から代表工藤のほか、5月11日(土)に開催される「第1回日韓未来対話」で日本側座長を務める、元駐韓国大使の小倉和夫氏が出席し、韓国側はEAIシニアフェローの鄭源七氏、同事務局長の金楨氏が出席しました。会場には7台のテレビカメラが設置され、日本と韓国のメディアに加え、中国の通信社などを含む約50名の報道関係者が集まりました。
この共同世論調査は、日韓両国の相互理解や相互認識の状況やその変化を今後継続的に把握することを目的に、今年初めて実施されたもので、サンプル数は日本が1000人、韓国は1004人です。また両国で有識者調査も実施されました。調査形式や質問内容は、言論NPOが過去8年にわたり行い、今年も6月に実施予定の日中共同世論調査とほぼ同じであり、これによって日中韓三カ国の比較が可能になるよう設計されています。
世論調査結果の発表に先立ち、冒頭で工藤は「言論NPOとEAIには共通の性格がある」と述べ、特定の政治利害から中立・独立のシンクタンクであること、市民社会や民主主義を大切にした活動を行っていること、さらには2012年3月にアメリカの外交問題行議会(CFR)が創設した世界23か国のシンクタンク会議「カウンシル・オブ・カウンシルズ(CoC)」に、アジア代表として参加していることを挙げました。
こうした共通点を持つ二つの団体が「日韓未来対話」を創設した背景として、東アジアにおいてガバナンスが不安定化し、排他的なナショナリズムが高まるなかで、政府間の対応だけでは限界があり、課題に関係する様々な当事者(マルチステークホルダー)が協議を行い、その中身を可能な限り公開し、国民の健全な輿論に支えられる動きが必要となっている点を指摘しました。
続いて工藤は、今回の世論調査の注目点をスライドも活用して、15分にわたり説明し、そのなかでまず、両国民の直接交流は一般的に認識されているほど進んでおらず、ともに自国のメディアに情報源を依存している実状を明らかにしました。具体的には、相手国への渡航経験がある人は両国ともに2割程度しかない一方で、相手国に多少なりとも話ができる知人を持っている人も少なく、相手国の情報は「自国のニュースメディア」を活用するとする人は双方ともに9割に上り、その中でも日本では82.1%、韓国では74.6%が「テレビ」と回答している点を指摘しました。ただし、日韓両国民ともに、自国メディアの日韓関係に関する報道を「公平で客観的」だと見ている人はともに3割程度であることも併せて報告しました。
また、日韓関係の現状認識では、相手国に「良い」印象を持つと答えた人は、日本では3割程度、韓国では1割程度しかなく、「悪い」印象を持つ日本人は4割、韓国人では約8割に上ると述べ、特に両国民の4割がこの一年間に「悪くなった」と回答した点を指摘しました。その理由として、韓国では「独島問題」と「歴史認識」の二つが8割程度と圧倒的である一方、日本では6割が「歴史問題で日本を批判する」ことをあげているとしたうえで、特徴として、過去から日本を見ている韓国人と、韓国人の現在の行動を見る日本人の違いがあると指摘しました。また、日韓関係の現状認識では、「悪い」とみる日本人は55.1%、韓国人は67.4%に上り、特にこの一年間に「悪くなった」と回答した人が、日本では39.6%、韓国では46.7%に上った点を指摘しました。さらに、韓国では50.3%が今の日本を「軍国主義」と見ており、日本では4割が韓国を「民族主義」、3割が「軍国主義」と考えているとの結果を示し、相互の基本的理解が不足している点が、現在の日韓関係の背景にあると指摘しました。
工藤は、こうしたネガティブな傾向の反面、お互いの国民性の理解では相手を尊重している傾向があるとし、例えば韓国人の78.5%が日本人を「勤勉」、69.2%が「親切」と見ており、「日韓関係が重要」だと考える人の割合については、両国ともに7割を超えている(日本74.0%、韓国73.6%)ことなど指摘しました。ただし、ここに中国を加えた設問では、「対中関係がより重要」と考える人が韓国より多い、ことを説明し、同じように、中国と韓国を比較した場合、日本では「韓国」により親近感を感じる人が多いのに対して、韓国では「日本」に親近感を感じる人は13.5%に過ぎず、「中国」と回答した人が4割近くに上る点をあげて、中国に対する両国民の認識の違いを指摘しています。
また、安全保障問題では、両国間に領土をめぐる「紛争が存在する」と答えた人は日本で7割、韓国で8割に上るなど、両国共通の課題として認識されており、またその解決策としては韓国では4割が「実効支配の強化」を支持する一方で、4割が平和的解決を望んでいることなどを指摘しました。さらに「軍事的脅威を感じる国」については、日本では「北朝鮮」が78.9%、「中国」が60.1%と圧倒的で、「韓国」を脅威と見る人は12.2%に過ぎないのに対して、韓国人では「北朝鮮」の86.7%、「中国」の47.8%に続き「日本」に43.9%が脅威を感じている、ことなどが指摘されました。
工藤に続いて、EAIシニアフェローの鄭源七氏が韓国側の見方を報告しました。鄭氏は、EAIが過去に行った日韓関係世論調査との比較で、現在の日韓関係は「過去10年で最も悪い」と指摘し、その背景として日韓両国の相手国への「共通認識」、「共通の記憶」が強く影響していると述べました。一方で、これから新しい共通認識や共通の記憶を作ることができるとも指摘し、その点で、両国で首脳会談が必要と考える人が日本で70.2%、韓国で84.9%に上ることや、民間交流が重要だと考える国民が双方で7割を超えていることは重要だと指摘しました。また特に若い世代では他と年齢層と比べて相手国によい印象を持っている人が多いとも指摘しています。
続いて小倉氏が、既に様々な日韓対話枠組が存在するなかで「日韓未来対話」を立ち上げる意義を中心にコメントしました。このなかで小倉氏は、これまでの枠組みでは対処できない新しい状況が生まれているとの見方を示し、これを「政冷文暖(せいれいぶんだん)」と呼び、互いの文化に親しみ、数百万人が観光などで相互に行き来しているにもかかわらず、政治的には冷たい関係である点こそ、日韓両国が議論すべきことであり、新しい状況に応じた新しい対話枠組みが必要となった理由がそこにあると指摘しました。その際、これからの日韓関係を考えるときには中国の存在を無視できないため、日中・日韓の対話枠組みを持つ言論NPOこそが、その触媒になることができると述べました。また、世論にあえて背いてでも正しいことを実行できる政治リーダーが必要だと指摘したうえで、日韓関係が悪いのは政治家の責任ではなく、市民がその責任を持つべきだと述べ、その点でも言論NPOが触媒となって市民同士の民間対話が重要だと述べました。
これに引き続き、日韓のメディアから様々な質問が寄せられ、予定を20分近く超過して活発な質疑が交わされました。
最後に代表の工藤が、日韓両国合わせて20名以上のパネリストが参加する5月11日の「第1回日韓未来対話」の概要を説明し、また、EAIの金事務局長がオープンな対話の意義を指摘し、記者会見が終了しました。
5月7日(火)、東京・有楽町の日本外国特派員協会にて、言論NPOが韓国のシンクタンクである東アジア研究院(EAI)と共同で実施した「第1回日韓共同世論調査」に関する記者会見が行われました。