今回の対話で何を実現するのか ~第2回日韓未来対話 日本側座長小倉和夫氏・工藤泰志 対談~

2014年7月15日

小倉和夫
(第2回日韓未来対話 日本側座長、
国際交流基金顧問、元駐韓大使、)
工藤泰志
(言論NPO代表)

工藤泰志工藤:小倉さん、こんにちは。さて、私たちは、昨年「日韓未来対話」立ち上げました。日韓関係の問題を市民目線でどのように考えていけばいいか、オープンな形で議論したいという私たちの取り組みは、今年で2回目となります。この対話が、7月18日に開催されます。

 小倉さんは、この対話の日本側座長として昨年から参加していただいています。今年の日韓未来対話について、どのようにご覧になっていますか。


日韓両国において珍しいオープンで市民目線の対話

0714ogura.jpg小倉:先日、中国の習近平氏が韓国を訪問し、首脳間で対話が行われました。しかし、日本と韓国との対話は首脳間では行われていません。そういう時期に、市民対話という形で、いろいろな方が日本と韓国の将来について、まさに「未来対話」を行うことは、非常に意味のあることだと思います。

 もう一つ、今回の開催地はソウルになります。日本で開催すると、どうしても集団的自衛権の話など、日本で問題になっていることを議論しようということになりがちですが、韓国で議論するということになれば、先日の大きな災害など、これから韓国社会はどうなっていくのか、ということを日本人が考えるという意味もあります。そういう意味で、場所・時期ともに非常にいいので、実りのある対話ができれば、と思っています。

工藤:私も、小倉さんと同じような気持ちを持って、かなり勢い込んで10日にソウルで記者会見に臨みましたが、記者会見を行っている建物の下で、集団的自衛権に反対する人たちがデモを行っていました。それから、記者の意見を聞いていても、日本の今の動きに対してかなり誤解があると感じました。

 今回の記者会見で、記者の人たちに話をしたのですが、市民がオープンな形で日韓両国の問題を話し合っていく場は他にはない。だから、メディアのみなさんにも参加してほしいし、みんなで考えたいのだ、ということをかなり強調しました。そうしたところ、みなさん関心を持ってくれました。これまで、日韓間で、日韓未来対話のようなオープンな対話というのはなかったのでしょうか。

小倉:知識人の対話はいろいろなレベルで、様々な形で行われています。また、政策担当者の対話というのも数多く行われてきました。しかし、市民といいますか、国民というレベルで忌憚なく対話する、そのような対話の状況をオープンにするというフォーラムは珍しいと思います。そこに、1つの大きな意味があると思います。
 
 ただ問題は、オープンにしたときに本音が言えるのか、という問題は当然あります。その点は、お互いにしっかりとした自律性、自主規制というものをしながらやらないといけませんから、対話のルールということを最初に決める必要があると思います。


両国に存在する「冷静な声」

工藤:今回の世論調査では、今の日韓関係の状況はよくないのではないか、何とか改善した方がいいのではないか、という声が日本に6割、韓国に7割存在するということがわかりました。もっとナショナリスティックで、過熱している状況かと思ったのですが、国民の中に、少しは冷静な声があることがわかりました。ただ、その声を理性的に、両国の未来に向けた議論をつくっていくことは、なかなか大変ではないかという気もしています。小倉さんには、何かアイデアがありますか。

小倉:私は、皮肉なことですが、この世論調査の結果をみんながあまりにも重視して、結果に引きずられてはいけない、と思っています。というのも、こういった世論調査というものは、問題が存在しているという側面がどうしても表に出てきます。しかし、実態を見ると、日本と韓国の間では、貿易や観光、それから投資も増えているなど、非常にうまくいっている面も数多くあるわけです。そういう面に目を向ける。私たちの対話の意味は、みなさん日韓関係は悪いというが、本当にそうか。いい面も忘れてはいけない、というメッセージをお互いが出し合うというところが1つのこの対話の意味だと思います。

 「悪い日韓関係をどうしたら改善したらいいですか」ということは、政府の人たちみんなが考えることであって、対話の意味として「いい面があるのだ」ということを、もっと市民が認識しておくことが必要なのではないかと思います。


民主主義社会において問われるのは市民一人ひとりの責任

工藤:今のお話は、その通りだと思って聞いていました。ただ、政府間の代理戦争になってしまったら何の意味もないと思っています。やはり、市民の目線で、今ある問題をお互いに考えて未来に向かおうという点なのですが、気を付けないと、政府に対する見解だらけの説明をするというサイクルに落ち込んでしまう危険性がありますよね。私はそのようにしないつもりなのですが、どのように考えていますか。

小倉:今、日本と韓国の関係が悪い、早く首脳会談をやるべきだ、という方がいますが、今の日本と韓国の社会が、本当に民主主義社会なのであれば、日本と韓国の関係が良くないなら、その責任は市民にあるのだと思います。なぜなら、民主社会において政治を動かしているのは、政治家ではなく国民だからです。ですから、「日本と韓国の関係が悪い」と多くの国民が思うのであれば、あなた方国民が関係を悪くさせているのだ、ということなのです。国民や市民は、自分の責任を人に転嫁してはいけない。「マスコミの報道がよくない」、「政治家がよくない」ということを言っているのは、権威主義的な国ではそういうことは成り立ちえますが、民主社会においては、本来は成り立たない。むしろ、民衆自身が、あるいは市民一人ひとりが自分の責任だと思って、日韓関係が悪いのであれば、良くするためには何をすればいいのか、ということを市民が提案すべきだと思います。

工藤:今の話に非常に共感しました。私も10日の記者会見で、同じような話をしてきましたが、みなさん、きょとんとしていました。ただ、小倉さんが言うように、民主社会というのはそういう社会だし、ワンボイスにならずに、多様な意見があっていいと思うからこそ、私たちはオープンな対話にしたいと思っています。こうしたことを軸に、何か流れをつくりたいと思うのですが、今回のソウルでの対話は、新しい流れをつくれるような手応えや実感はありますか。それとも不安が大きいでしょうか。


過去を念頭に置きながら、「未来」を語る対話に

0714kudo_ogura1.jpg小倉:なかなか時間はかかると思います。今度のソウルの対話で、何か新しいものがすぐに見えてくるということを期待するべきではないと思います。また、そういうものであってはならないと思います。市民の意識や市民が行動を起こすためには、やはり時間がかかるのです。ただ、国民や市民が自分の問題だと思って行動を起こすためには、1つの触媒となる、刺激となる言論NPOや、その他のNGOなどが動く必要があります。ただ市民の人々に対話をしなさいよ、と言ってもそうはいかない。つまり、仲介役が必要なのです。そういうことをみんなで考えて、やっていけるような雰囲気をつくっていければいいのではないかと思います。

工藤:今の「触媒役」という表現は、この前の記者会見で、私も使わせてもらいました。僕たちが主役というわけではなくて、市民が主役なのです。その流れをつくるための一つのきっかけをつくりたいと思っています。ただ、誰かが汗をかいて、そうした舞台をつくる必要があると私たちは思っています。これを契機に、日本と韓国の人たちと、国民レベルでいろいろなことを話し合って、未来に向かい合えるような議論がつくれればと思っています。

 7月18日の「第2回日韓未来対話」では、かなり大変な議論になるような気がしているのですが、小倉さんの力も借りながら、良い対話にしたいと思いますので、よろしくお願いします。

小倉:過去ではなく、未来を語るフォーラムに育てていかなければいけないと思っています。しかし、それは過去を無視していいということではなく、過去を頭に置きながら未来に向けて話をしていく、というふうにしたいと思っています。

工藤:私たち2人に加え、政治家や研究者、ジャーナリストや文化人など、日本からは総勢13名の多様な方々がパネリストとして参加してくれます。この対話の模様は、言論NPOのホームページで随時公開していきます。こうした議論が18日に行われますので、みなさんにも注目してもらえればと思います。

 ということで、小倉さん、今日はありがとうございました。

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⇒ 「日韓共同世論調査結果」が7月11日付の朝刊各紙でも取り上げられました
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