今回の「工藤泰志 言論のNPO」は、ゲストに前IMF副専務理事の加藤隆俊氏をお迎えして、ヨーロッパの金融危機は今後どうなっていくのかを議論しました。
ゲスト:
加藤隆俊氏(国際金融情報センター理事長)
(JFN系列「ON THE WAY ジャーナル『言論のNPO』」で2012年6月6日に放送されたものです)
ラジオ放送の詳細は、こちらをご覧ください。
EUの危機、最悪の結末を避けられるのか?
工藤:おはようございます。言論NPO代表の工藤泰志です。毎朝さまざまなジャンルで活躍するパーソナリティが自分たちの視点で世の中を語るON THE WAY JOURNAL。今日は言論NPOと題して私、工藤泰志が担当します。
さて、季節は新緑の季節から初夏の気配も出ていてあっという間に季節が動いている感じですが、みなさんはお元気でしょうか?私は今年の7月1日から東京で開催する日本と中国の民間対話の準備で今、非常に大変な状況なのですが、その中でどうしても気になっているのが、欧州の債務危機の問題です。この震源地であるギリシャでは、5月の総選挙できちんと緊縮財政でEUから支援を受ける与党が負けてしまいました。これでマーケットが非常に先行きを気にし始めました。その結果、6月17日に再選挙を行う事になりましたが、状況としてはギリシャ自体のデフォルト、それからユーロからの離脱という最悪の結末もありえます。誰もこれを求めている訳ではありませんが、かなりマーケットがシビアな状況になっています。
一方で、スペインの状況がかなり厳しいと言われます。特に6月という月は、先ほどのギリシャの選挙、EUの首脳サミット等いろいろな事がありまして、今月はヨーロッパから目が離せなくなっています。こういう状況の中で僕たちが生きているということを皆さんと一緒に考えてみたいと思います。
それで、今日はスタジオに、前のIMF副専務理事で現在は国際金融情報センターの理事長である加藤隆俊さんにきていただいて、この状況をどうみればよいかを一緒に考えていただければと思います。加藤さんは以前もインタビューで参加していただいたことがありますが、今回は非常事態というかなり厳しい状態ですので、加藤さんにはスタジオに来ていただいて一緒に考えていただこうと思います。加藤さん、宜しくお願いします。
加藤:宜しくお願いします。
工藤:加藤さんをお迎えしてのテーマは、「EUの危機、最悪の結末は避けられるのか?」ということでお送りします。6月17日にギリシャの国政再選挙が行われる訳ですが、万が一この選挙で、緊縮財政に反対する党派が強い支持を得ると、選挙結果によっては最悪の結末、つまりギリシャの破綻、ユーロからの離脱という状況になるのではないか、そういう風な観測が出ています。金融マーケットでは国債利回りがまた上がり始めていて、非常に神経質な状況になっています。こういう状況をどういう風にご覧になっているのでしょうか?
6月17日のギリシャ総選挙に世界が注目
加藤:全世界で6月17日のギリシャの選挙結果を注目していると思います。最悪の事態は6月17日の総選挙の結果を受けても、政権が組めず、3回目の選挙になることです。そうなりますと、そうとうなrepercussionが予想されると思います。
今までの改革路線を堅持する側が政権を組むのか、急進左派が政権を組むのかで違ってくる面があると思いますけれども、政権が今度の17日の選挙の結果で誕生すれば、ギリシャ国民の大多数はユーロ離脱を望んでないということですから、トロイカ、すなわちEC委員会、欧州中銀、IMFのチームとの交渉の話になってくると思います。トロイカのチームと交渉でまとまるのにどのくらい時間がかかるのかという問題は政権の組み方で違ってくると思いますが、急進左派が仮に政権を取ったとしても関係者が協力して知恵を絞るという事になって欲しいと思います。
工藤:まさにその選挙に世界が注目していますが、万が一、今ユーロでやられている支援策をきちんと継続しながら、財政緊縮をしていくという形にならず、今までに想定していない形になった場合、どのような事態になるのでしょうか?
加藤:そうなりますと、ギリシャの国債を発行する時の金利が非常に上がって、ギリシャの企業が市場から資金調達するのが難しくなると思いますし、肝心のユーロ圏のEFSF(欧州金融安定基金)からの資金や欧州中銀からの流動性供給の蛇口が閉まる危険があります。その結果として、ギリシャは官民ともデフォルトが視野に入ってくるリスクがありますので、誰が政権についてもそれを避けるように努力はすると思います。
「ユーロ離脱」の可能性をどうみるか
工藤:その努力をしなければならないのですが、いろいろ見ていると、仮に今のユーロの枠組みの中でやったとしても、国民がその痛みに耐えられなくなってきているという問題と、耐えられなくなってユーロから離脱する場合は昔のドラクマ(ギリシャの昔の通貨)をもう一度導入しなければならないという問題があります。IMFの試算ではドラクマを導入した場合、実質的な為替レートが5割も減価して、10%GDPが落ち込んで、30%の物価上昇がある、と。それだけではなく預金が流出し、取り付けが起こってしまう。これはシミュレーションではありませんが、そういうことが言われています。どっちにしても厳しくて、これをどういう風に見ればいいでしょうか?
加藤:ギリシャは5年間連続でマイナス成長が予想されていますし、失業率も非常に高い、給料は下がっているし、年金の切り下げがあるということで非常に強い痛みの下にあると言うことは事実ですし、自殺者も出てきています。だから、オランド・フランス大統領誕生以来、成長ということに目配りするようにユーロ圏全体が動いていますので、痛みは痛みですが、その中でインフラ投資ですとか、ギリシャの中で雇用を出来るだけ生み出すような配慮をしていくといったような方向でトロイカとギリシャの新政権の交渉が進んでいくのではないかと思います。あるいは、これは全くの予想ですけれども、財政赤字削減をいつまでにという目標年次を、現在のマイナス成長を踏まえてある程度先にし、削減のテンポを緩やかにする、ということがトロイカとの交渉で出てくる可能性はありえます。
工藤:IMFが条件のプログラムと言いますか、それを勘案したりすることはありえますか?
加藤:ギリシャの第2次審査が3月にまとまったのですが、その後のギリシャの経済は当時想定されたよりもさらに悪い方向に行っていると思います。いずれにしても、プログラムの見直しということは必要でしょうから、関係者も一回決めた枠組みは絶対変えられませんというスタンスではないと思います。
工藤:一方で、EUの人たちはギリシャにユーロから離れないでくれ、離れないでくれというか、それがギリシャ国民にとっても世界にとっても非常にいいことだと言っています。しかし、最悪の場合先ほどのIMFの試算ではありませんが、離脱ということが全くないとは言えませんよね?
加藤:ええ、ボタンの掛け違いとか、あるいは国民の勢いでというのがないわけではありません。
工藤:そうしたら、破綻してしまうのでは?
ギリシャが新通貨になれば、スペイン、ポルトガルなどに悪影響
加藤:先程の話にありましたように、ギリシャは新しい通貨をユーロに対してグリップする、5割を超えるような切り下げになる。そうなると、ユーロ建ての債務が倍以上に膨らむ訳ですから、倒産するところが出てきますし、それから一回債務削減をやっていますから、外から資金調達は出来ないということになります。ギリシャにとっても大変に苦しい時代です。最近ギリシャの銀行最大手のナショナル銀行が試算を出していますけど、ギリシャ国民にとってだいたいIMFの試算と同じような痛手となるという計算になっています。それから、皆心配していますのが、ギリシャの預金者は預金が大幅に目減りする。そうなるとスペインやポルトガルの預金者は、自分の所は大丈夫かという心理に駆られる。その周りの国への影響というのが、ギリシャが離れても強く心配される所です。
工藤:最悪を考えると、EU全体にいろいろな問題が生じ、本当に危機になってしまうのでは?
加藤:取り扱いを間違えると、そちらの方向に進むリスクがあるということですから、政策担当者はそれを是が非でも避けなければならないという強い気持ちで臨むと思います。
工藤:ギリシャの先の選挙結果がこのようになったことでもショックを受けましたが、一方で、スペインの経済状況が想像以上に悪いのではないか、といわれます。同国では国債の利回りがまた上がってきていますし、25歳以下の若者の失業率が50%、不良債権は増加しています。スペインはEUの中でもイタリアの次くらいに大きな国です。こういう状況になってくると、EUがどのような事態にあるのか、どう考えればよいのでしょうか?
加藤:スペインの問題も関係者が非常に強く意識している問題でして、同国では不動産バブルがはじけて日本と同じように金融機関の不良債権問題があります。不良債権の規模、それに対してスペインの金融機関はどれほどの資本不足があり得るのか、といったことでスペインの財政収支にそのまま跳ね返ってくるのではという心配があります。それからスペインの財政赤字が計画したほど縮小しないのは、スペインの地方政府の赤字のコントロールが...。
工藤:地方が破綻しましたよね。
スペインの金融・財政危機を世界中が注視
加藤:ええ、そういう意味でスペインの経済をプラスの成長の方に立て直していくという展望が難しいという問題があります。お話のように、ユーロ圏の中で規模の大きな国ですから、万が一、スペイン当局がEUの諸機関なり、IMFなりの支援を求めるという事態に発展した場合、それはまたユーロ圏全体、あるいは世界経済全体にとって相当大きな影響が出てくると思います。だから、皆、非常に関心を持ってスペインで起きている事をフォローしています。
工藤:スペインは支援の対象になっていませんね?
加藤:なっていません。
工藤:だから、楽観的に考えれば支援の枠組みに入れば収まるということはありえませんか?
加藤:もちろん必要な時にはやらなければなりません。しかし、あとは、皆の心配は、スペインの支援になった場合、これがユーロ圏なりIMFなりの、他のユーロ圏の国に回す資金的な余裕が、「米櫃が底をついた」ではありませんが、なくなるというおそれが皆の意識の中にあって、それが実際にそういう事態になってみないと分からないというジレンマではないかと思います。
工藤:テレビを見ても、EUの問題の鍵を握るのはドイツだと言われます。フランスもこの前、大統領が変わりました。フランスもいろいろな国債を持っていますよね。だから、やっぱり全体的に動いているなあと。要するにEU全体の問題になってきているという感じですね。
加藤:何かやっぱり、今までの対応に加えて、さらにユーロ圏全体の対応を求める声、意見が最近強くなっているように思えます。
工藤:最後に、そうなってくると僕たちは日本のことを考えないといけないと思います。この前フィッチという3大格付けの一つが、日本の国債を2段階引き下げてシングルAプラスにしました。マーケットがそれに反応しています。今の国会を見ていると何も決まらないし、日本の財政も他人事ではない状況になっていますが、この日本の状況をどういう風に考える段階に来ているのでしょうか?
消費税引き上げ法案が通らねば、海外の日本を見る目が厳しくなる
加藤:消費税引き上げ法案という問題について、日本の立法府が答えを出さないという方向に動いたとすると、海外の日本を見る目が一段と厳しさを増す。具体的には、日本国債の格付けに跳ね返ってくるリスクがありますし、日本国債に跳ね返ってくると、日本の企業とか金融機関の海外での資金調達コストに影響しかねない問題があります。海外のいろいろな関係者、マーケットとの対話ということも我々十分意識すべき問題ではないかと思います。
工藤:シングルAというのは韓国と中国、台湾と同じだと言うのですが。
加藤:アジアの国の財政状況は非常にいいですので。
工藤:そうですか、それがシングルAの段階な訳ですね。ただ、私は格付けを見ていると、規模が違うし、危機になっていないのですが、日本は何かギリシャと似ていませんか。政治とマーケットに対する課題解決能力が問われていると言う点で。
加藤:野田総理も対岸の火事ではなくて、日本がギリシャみたいな状況にならないために今、行動しなければならないと言っておられますし、全く同感です。
工藤:先日ワシントンでゼーリックさんにお会いしたのですけど、今年の10月に東京に来ますと。あの人はもう総裁変わるのですが、世銀・IFM総会が何と今年の10月に東京である。その時に国会で消費税の問題がまだ議論されていたら大変だな、と思っていますが、なぜ日本でやるのですか?
加藤:日本は復興の過程にある。また東京は非常に世界有数のインフラの整った都市であることを、改めて幅広い海外の人に認識していただきたいということであります。
工藤:財政問題があるので、何となく関連付けて考える人も出てくるかもしれません。
加藤:日本のショーケースですので、主催国としてどういうメッセージを出しうるかということが非常に大事になります。
工藤:最後にこの危機を修復させなければなりませんが、どのような見通しを考えていますか?
加藤:現在のユーロ圏は結構厳しいので、取り扱いを間違えるとさらに世界経済にマイナスの影響が出てくるでしょうし、だからこそ我々側はユーロ圏の当局者にさらなる格段の努力を期待したいです。
工藤:時間になりました。僕たちの生活とか国はマーケットや世界の動きと無関係にはいられません。日本が財政をさらに拡大して、それによって課題を何も解決できなければ、必ずギリシャのような状況になってしまいます。なので、それを自分たちの問題だと考えていかなければいけないと思っています。
今日はゲストに、前のIMF副専務理事で現在は国際金融情報センターの加藤隆俊理事長に来ていただいて、EUの危機は最悪の結末を避けられるのかということについて考えてみました。このテーマは今後も言論NPOの中で議論を進めて行きますので、合わせて皆さんに見てもらえばと思っています。加藤さん今日はどうもありがとうございました。
今回の「工藤泰志 言論のNPO」は、ゲストに前IMF副専務理事の加藤隆俊氏をお迎えして、ヨーロッパの金融危機は今後どうなっていくのかを議論しました。
ゲスト:
加藤隆俊氏(国際金融情報センター理事長)