座談会「第8回日中共同世論調査をどう見るか」報告

2012年6月30日

 6月26日(火)の言論スタジオでは、先日言論NPOと中国日報社が共同で行った世論調査をどう読むか、に関して、加藤青延氏(日本放送協会解説主幹)、高原明生氏(東京大学大学院法学政治学研究科教授)、宮本雄二氏(宮本アジア研究所代表、前駐中国特命全権大使)の3氏が話し合いました。



 まず、工藤は「相手国に対する印象」で、中国に良い印象を持っていないと回答した日本人が8割を超える結果となり、2005年の調査結果以来、過去最高となったことを、どう考えるか、を3氏に尋ねました。その理由として、調査では「資源やエネルギーの確保で自己中心的に見える」が最多となり、「尖閣諸島を巡り対立が続いている」などが挙げられましたが、この結果を踏まえて、高原氏は、「一昨年の尖閣事件の残響が残っていると同時に、昨今の南シナ海における中国、東南アジアにおける摩擦・軋轢・暴動が影響を与えている」と指摘しました。

 「相手国の社会・政治体制」を問う設問では、日本の社会を「軍国主義」だとみる中国人が半数近くに増えていることも話し合われました。加藤氏は、「日本の平和主義は中国に伝わっておらず、中国には被害者意識みたいなものがある。軍国主義とはいっても、中国人は日本の軍事力を意識しているのではなく、日本が思想的にタカ派路線に傾き、最近の日本の政治が内向きであると感じており、そのことが軍国主義をイメージさせたのではないか」と語りました。

 また、高原氏は、アンケートに回答する際に、「定義をはっきりさせないまま中国社会の空気を読み、あまり深く考えずに軍国主義に丸をつけたのではないか」と述べる一方で、加藤氏と同様に「中国人の被害者意識」を原因に挙げ、反日的なテレビや映画による「日本=軍国主義」というイメージの刷り込みが影響しているのでは、と指摘しました。

 「日中関係の発展を妨げる主な問題は何か」では、両国民共に「領土問題」を指摘する人が圧倒的に多くなっています。
 ただ、今回の中国側の調査では、中国国民の2割が日中関係の障害として「中国国民のナショナリズムや反日感情」を挙げており、中国人が、自国の問題を取り上げる新しい傾向が見られました。これは「日中間で解決すべき歴史問題」との設問でも同様で、中国の中で、「中国の歴史認識と教育問題」「中国メディアの日本に対する報道」「中国の政治家の日本に対する発言」を挙げる人が増加傾向にあります。

 工藤は、この分析について3氏に意見を求めました。

 高原氏は、「情報を相対化して評価できるようになり、客観的に自国の状況を見ることができる能力が高まっているのではないか。中国人の中では、自信と現状・将来に対する不満が混在している。そのことが、ナショナリズムをはぐくむ豊かな土壌となっている」と語りました。

 宮本氏は、「中国社会が変わってきた大きな証拠であり、4人に1人が大学教育を受ける中で、自分で物事を考えられる人が増えた。中国の管理が昔よりも緩くなってきたことも要因」とし、加藤氏は「自国の行為をマイナスの要因として挙げたのは、客観的に見ることが出来、自分たちの弱点を正確に答えられるようになったから。中国社会が変わり、考えが多様化し、ナショナリズムに対する認識も変わってきた」と評価しています。


 最後のテーマは、「軍事」に関する設問についての分析です。
まず、今回の調査で初めて導入した「東アジア海洋で紛争が起きるか」との設問では、中国世論の半数が数年以内や将来において「軍事的紛争がある」と回答しました。日本でも3割近い人はそう答えています。

 これについて加藤氏は、「中国国内の雰囲気を反映しており、南シナ海の問題によって、領土問題は話し合いでは解決できず、軍事的に解決するしかないという論調が以前よりも高まっている」と指摘しました。一方で、高原氏は「この設問は微妙で、東アジア海洋には南シナ海も含まれるので、高めの数字が出たのでは」と指摘しました。

 次にこうした危機を回避するために「東アジアの安全保障の多国間の枠組みは必要か」という設問について、日本、中国共に半数近くの人が「必要」だと回答しました。
宮本氏は「中国はこれまで国際社会の中での対応後ろ向きだったことからすると、半数近くの人が他国間の枠組みが必要だと回答は朗報だ」と指摘しました。


 更に、今回の調査では、「日中間に領土問題は存在するのか」という設問を新設し、日中両国民に尋ねました。これについて日本人は、62.7%が「存在する」と回答し、中国人も59.3%が「存在する」と回答しました。

 ではこの問題をどのように解決するのかとの設問には、「両国間ですみやかに交渉し解決すべき」との回答が、日本(40.7%)、中国(52.7%)共に最多となりました。

 これらの領土問題の傾向について3氏が最後に語り合いました。

 加藤氏は、「お互いを刺激せず、両国関係を傷つけないようにどう解決するかが必要」だと述べました。高原氏は「話し合いで解決することはほぼ不可能だ」とした上で、「両国がこの問題をもう一度パンドラの箱に戻すことで合意して、蓋を開けない、という話し合いならいいと思う」と指摘しました。宮本氏は「世界において領土問題の解決策としては軍事力や政治力で解決する方法が挙げられるが、高原先生が指摘したようにパンドラの箱にもう一度戻す。領土問題そのものではないが、外交上の問題としての尖閣問題の解決は可能だと思う」と指摘しました。

 最後に工藤は、「日中関係は、尖閣問題をきっかけに国民感情に火がついた状況になっている。この状況をどのように解決するのか、ということを考えないといけない局面にきている」と指摘し、議論を締めくくりました。


 今回話し合われた日中間の課題に関しては、7月2日・3日に開催される「第8回 東京‐北京フォーラム」で引き続き議論したいと思います。この議論の内容は、言論NPOのホームページでも随時更新していきますので、ぜひご覧下さい。

文責:今井優希(学生インターン)

第8回日中共同世論調査 結果 はこちら

 6月26日(火)の言論スタジオでは、先日言論NPOと中国日報社が共同で行った世論調査をどう読むか、に関して、加藤青延氏(日本放送協会解説主幹)、高原明生氏(東京大学大学院法学政治学研究科教授)、宮本雄二氏(宮本アジア研究所代表、前駐中国特命全権大使)の3氏が話し合いました。