分科会レポート/第5分科会「アジアの未来と日中関係」

2006年8月04日

日本側司会者

国分良成 慶應義塾大学法学部教授 同大学東アジア研究所所長

中国側司会者

周牧之 東京経済大学経済学部准教授

日本側問題提起者

加藤紘一 衆議院議員、元自由民主党幹事長

日本側コメンテーター

鈴木寛 参議院議員 民主党次の内閣文部科学大臣 中央大学大学院公共政策研究科客員教授
中谷元 元防衛庁長官 衆議院議員
西原春夫 早稲田大学元総長
林芳正 参議院議員 参議院議院運営委員会筆頭理事 自由民主党行政改革推進本部事務局長

日本側出席者

下村満子 経済同友会副代表幹事 健康事業総合財団[東京顕微鏡院]・医療法人社団「こころとからだの元氣プラザ」理事長
染谷光男 キッコーマン株式会社代表取締役専務執行役員
増田祐司 島根県立大学大学院開発研究科教授


中国側問題提起者

陳昊蘇 中国対外友好協会会長

中国側コメンテーター

王英凡 全国人大外事委員会副主任
徐 輝 国防大学准教授 法律学博士
張 平 チャイナデイリーインターネット版社長

「第5分科会発言要旨/前半」 をよむ
「第5分科会発言要旨/後半」 をよむ

報告

 第5分科会は、「アジアの未来と日中関係」をテーマに、国分良成氏(慶応大教授)と周牧之氏(東経大准教授)の共同司会で始まった。

 まず冒頭、司会の周氏は、①長期的な視野でアジアの未来を展望、②日中双方に共通する課題の解決方法を探る、③そのためにはどんな仕組みが必要か、の3点を提示し、問題提起者の発言を求めた。

 中国側の陳昊蘇氏(中国対外友好協会会長)は、21世紀はアジアの時代といわれるが、現在のアジアには①地域統合、②安全保障、③発展の見通し、④相互信頼をどう醸成するかの4課題があるとし、とりわけ日本と中国に大きな役割が期待されていると分析した。

 日本側の加藤紘一氏(衆議院議員・自民)は、アジアには世界の人口の半分が生活し、GDPの約10%を生み出すまでに成長したが、アジアの将来ははたしてうまくいくのだろうか、と提起。①アジアの範囲のとらえ方、②域内安全保障の不安定要因、③米国の位置づけなどについて日中間では見解に相違があるが、日中に韓国も加えた3カ国で共通認識を持つことが重要だと訴えた。その上で、3カ国間に様々な摩擦があるのは、冷戦を終えて経済成長を遂げたあとに生じてきた各国のナショナリズムが原因だとし、各国のリーダーにはこれを助長するのではなく、コントロールする責務があると述べた。

 これに対して、コメンテーターの王英凡氏(全人代外事委員会副主任)は、日中が協力できなければ、今後のアジアの発展は難しく、多くの国々は日中間の摩擦を懸念していると指摘。経済や安全保障について相互依存関係が高まるなか、古い意識を捨てて、互いにwin-winの互恵関係を構築することが必要だと述べた。

 また、鈴木寛氏(参議院議員・民主)は、日本が省エネルギー技術や感染症対策のノウハウなどを提供することにより、中国をはじめとするアジア諸国の発展に貢献することができるとし、課題ごとに協力プログラムを作っていくことが可能ではないかと提起した。

 徐輝氏(中国・国防大学准教授)は、唯一現役の軍人として参加している立場から、東アジアの安全保障に触れ、戦後の50年間、この地域は平和と発展を享受してきたが、さらに経済成長を続けるためには相互理解と、互恵の精神が不可欠だと主張。民間レベルの協力によって、相互の信頼関係を醸成していくべきだと主張した。

 中谷元氏(衆議院議員・自民)は、自らが防衛庁長官のときに小泉首相の靖国参拝によって訪中が中止されて非常に残念な思いをしたと心情を吐露。最近では、ASEANや米国が日中関係悪化を非常に心配していると報告。日中間には相違もあるが、東アジア全体をカバーする安全保障のメカニズム作りが急務なのではないかと提起した。

 主催者の一人である張平氏(チャイナデイリー・インターネット版社長)は、このフォーラムを開始するにあたって、はじめて日本側と議論して共通認識がもてたと披露。世論調査の結果から、日中双方とも直接相手国を訪問したり、友人を持っていたりする人は圧倒的に少数派なので、相互理解のためにはメディアの果たす役割がひじょうに大きいとし、互いに新たなイメージを醸成することが望まれるとした。

 元早大総長の西原春夫氏(アジア平和貢献センター理事長)は、過去を振り返ることも必要だが、逆に21世紀中旬のアジアをイメージして、現在を考えることを提案。科学技術の発達は各国の国境を低くすると予測。一国のルールを越えて、アジア全体に共通する法規範を作るべき時代になったと提起した。そして、孫文(中山)の言葉を引用して、日本はアジアのなかで生きる道を考えるべきだと訴えた。

 林芳正氏(参議院議員・自民)は、アジアのなかで日本は、金融、文化、医療など果たすべき役割は多いが、ナショナリズムを克服することが各国に求められているとし、そのためにも政府間交渉だけでなく、民間交流の必要性を説き、できることから一つ一つ積み重ねていくことが重要だとした。

 これらの発言をベースに議論は進み、25年後のアジアは経済成長を果たし、生活の向上によって軍事的安定も図れるようになる(加藤)とか、アジアは世界のGDPの3分の1を占めるようになる(陳)など、楽観的な見通しが語られる一方、いっきに共同体構築までは難しいが、気候の変動、環境汚染から犯罪まで、マイナス面でも交流は進んでいくので、できることから対策を積み重ねることが重要(王)、排他的ではなくオープンな地域協力をめざすべき(徐)、域内に紛争協議機関を立ち上げることが急務(西原)、北朝鮮をめぐる6カ国協議が成功すれば東アジア全体の安全保障を協議する場になりうる(中谷)などの意見が出された。そして、多様性を尊重してなおかつ緩やかな連携がアジアにはふさわしいのではないか(加藤)、6カ国協議を成功させるために中国は努力してほしい(中谷)、強攻策では相手を窮地に陥れるだけなので日本も辛抱強く対応してほしい(王)など、現在の政治課題に対して具体論も議論された。

 さらに鈴木氏は、本日午前の安倍晋三官房長官発言がネットではどう報道されているかを例にメディア報道の危うさに触れ、日中両国の国民に向けて正しい情報を発信する新たなメディアの必要性を提案、張氏も相互理解を深めるための新たなウェブニュース設立構想を発表した。

 会場からは、アジアというエリアにこだわらず全地球規模で食糧・エネルギー問題をとらえる時代に入っているのではないか(下村満子)、情報文化のなかにこそ共通意識を生み出そう(増田祐司)、北京-東京だけでなく、日中の地方同士の交流も促進すべき(薮田仁一郎)などの意見が出された。

 最後に国分氏が、①「アジア」とは古代ローマ時代にトルコから東を指した他律的概念なので、アジア人自身の概念として再構築すべき、②アジア独自の価値観を作るのはたいへんな作業であり、日中両国にもアジア人としての意識が求められている、③日中ともに他国からその動向が注視されており、国際貢献・平和貢献への行動こそが求められていると総括して終了した。

 なお、「4~5年前までは中国側要人は公式発言を繰り返すばかりだったが、今回は違った。皆さんそれぞれ率直な見解を披瀝している」(林)との感想が述べられていたことが印象的だった。