中国勉強会「中国の不動産問題」報告

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 言論NPOは6月3日、中国勉強会「中国の不動産問題」を開催しました。この勉強会は、中国の課題について考えるためのメンバー・支援企業限定のイベントで、今回は後藤好美氏(岡三証券チーフエコノミスト(中国))を講師にお招きしました。


IMG_9720.jpg まず中国経済の現況を概観した後藤氏は、その特徴として投資から消費への構造転換が進んでいるとしつつ、不動産問題に関しては、固定資産投資の中で不動産開発投資の減少が顕著であると解説。バブル期の日本との比較に関しては、日本は短期間で一気に住宅価格が急上昇していたのに対し、中国は全体としては長期に渡る緩やかな上昇であると分析。北京・上海ではバブルに近い動きではあるものの、新築住宅価格の平米単価で言えば、現在の東京23区の新築マンション価格のそれと大きな差はないとも指摘しました。

 その上で後藤氏は、中国不動産不況の実態について解説。まず過剰流動性の問題については、GDPの成長以上のペースでマネー量の実額が増えているとしましたが、習近平政権は日本を教訓としてマネー量を厳しくコントロールして、不動産価格上昇段階ですでに引き締めに入っており、住宅販売市場を見ると販売面積、販売額ともにこの二年で4割も減少しているとし、これを「すでに調整が済んでいる」表れとの見方を示しました。

 また、販売面積はこの二十年間横這いなのに対し、販売額は右肩上がりだったのは、「供給を絞っているから少ない土地にデベロッパーが参入・投資をして価格が上がっている」という動きになっているからであり、これは過剰供給の問題ではないと分析しました。同時に、国内で資金を調達できないデベロッパーは、オフショア市場でのドル建て債発行に頼っていたものの、政府が不動産セクターの過熱を冷まそうとオフショア市場へのアクセスを遮断していることが碧桂園問題の原因であると語りました。

 もっとも、2010年代は住宅購入規制など規制強化を進めていた中国でしたが、不動産不況に直面すると規制緩和するしかなくなったと指摘。2023年9月から地方都市が、2024年からは最大級の都市でも住宅購入規制が撤廃されるとともに、住宅購入支援策が打ち出されている現状について説明しました。

 その結果として後藤氏は、住宅販売はまだマイナス基調ながら上昇に転じ始めており、「本格回復ではないが、底は脱した」「潜在的な住宅需要が広がっている」との見方を提示しました。

 もっとも、代金を先払いしてもデベロッパーの倒産等により完成しないことをリスク視する傾向が強まったため、既に完成している中古住宅の売れ行きが先行回復しているとも指摘。そのため、不動産開発支援策として、中国政府は2023年までは「保交楼(建設中物件の完成・引き渡しを保証)」政策に力を入れ、2024年に入ってからは不動産開発事業のホワイトリスト政策を導入するとともに、全人代や政治局会議でも相次いで対応強化を打ち出していると解説。今年の夏頃にはホワイトリスト政策等の効果が出てきて開発投資は「単月ベースでは概ねフラット、場合によってはプラスに転じてくる可能性は高い」と予測しました。

 後藤氏は最後にまとめとして、「中国市場は日本市場とは異なり、足元の規制を強めたが、デベロッパーはそれを回避するために裏側(オフショア市場でのドル建て債)のルートを使っていたので、逆に引き締めが強まって不動産不況をもたらしてしまった。ただ、こうした調整は何もなくとも2025年から30年頃には行われていたはずのもので、それを既に実行したのがこの二年間だった。無論、構造的には様々な問題は残っているが、例えば、住宅販売の4割減などは、そこから緩やかに伸びていけば安定成長になっていく可能性が出てきている。ただ、現状はバブルのようであった2010年以前の姿に戻すような動きになっているためにこれが将来どのようなリスクになるか、注視していく必要はある」と語りました。


 その後の参加者との質疑応答も活発に行われました。

 中国勉強会は、今後も月一回程度の開催を予定しています。勉強会の様子については言論NPOホームページで随時ご報告いたします。是非ご覧ください。