第3話:民が価値を感じて消費を増やすような組み立てを
レトリックや言葉だけの政策だけで改革が動く時代は終わりました。大きな政府か小さな政府かといったことは、ちゃんと仕事をしているのならどちらでもいいことで、それ自体が問題なのではありません。重要なことは民(たみ)が価値を感じることに施策をきちんとやれということです。要するに、問題は組み立てる構造改革に変えるということであり、良いものを組み立てるというのは、民(たみ)が価値を感じて喜ぶということに組み立てを変えるということです。
すごく小さなことが嬉しいということはよくあります。国鉄改革のとき最も評価されたのは、便所がきれいになったということでした。国鉄は国立鉄道ではなく、国有鉄道だったのです。国有というだけで、お上(かみ)でも何でもない。それを錯覚していた。その錯覚が解けてふっと我に返った。すると便所がきれいになる。そういうことがきちんと先に起こらなれば評価されません。そういうことを民(たみ)が評価すれば、「みんな評価してくれている」と思って嬉しくなり、もっといいことをやるようになる。
これからの日本に問われる改革は何かということを言えば、やはり、地方の消費を伸ばすということです。65歳で相続して資産を使わないまま貯めるということが今後続く、そういう状況をどうするかです。地方都市のシャッター街では、お年寄りがじっと座っている。なぜシャッターが閉まっても店に座っているのか。それは、日本の税の仕組みにおいて、居住している不動産に対する課税が相対的に低いからです。相続する息子たちはひょっとしたらメガバンクに勤めているのかもしれない。東京から絶対に帰って来ないわけです。店を継ぐわけではなく、メガバンクで出世することを願っている。つまり、シャッター街と言いますが、シャッター街になるようにしているのではないか。お年寄りはお店の将来に希望を持つことなくじっと座っている。だから、そこに人が集まって賑わいができて少しでも売れるようになるというところから始まるべき良循環のサイクルに全然入っていません。
ですから、どうやって消費を振興するのかということを考えなければいけないわけです。これはちょっとしたサイクルの組み立てです。フランスでも70年代頃には、カルフールなどのスーパーの発展に押されて小さなお店がどんどん減って衰退していきました。ところが、生き残ろうという意欲のある店が結構あり、お菓子屋や鳥肉屋や豚肉・ソーセージ屋、化粧品屋などがそれぞれにひとつひとつ工夫をしました。まずは何もかも扱うのではなく、専門化した。それから店を魅力的にしていった。それらの結果として、減少が止まったと同時に、収入はそれほどなくても、小綺麗で洒落たお店が増えました。一生懸命綺麗にしています。パティスリーもおいしそうだしパテやハム・ソーセージも結構流行っている。賑わいがあると客が入ってくる。そういう店が田舎町にたくさん残っています。
日本ではそういう努力をせずに、相続税が安いというだけでただ座っているという状況が起こっています。工夫するという力が日本の街では働いていません。それは早稲田商店街などの努力だけではだめで、もっと日本中、みんなでやらなければいけない。売れると「魅力的にしよう、店舗改装しよう」という方向に変わる。そこのきっかけがいまのところない。そして、消費を振興しない限り、2500兆円持っている日本の高齢者は金を使わない。高齢者の方々を動き回らせれば、そしてちょっとした仕事があれば、お金を使うはずです。そういう組み立てをしなければ、ただ地方交付税を増やせということになるだけです。
発言者
横山禎徳(社会システムデザイナー)
よこやま・よしのり
1966年東京大学工学部建築学科卒業。建築設計事務所を経て、72年ハーバード大学大学院にて都市デザイン修士号取得。75年MITにて経営学修士号取得。75年マッキンゼー・アンド・カンパニー入社、87年ディレクター、89年から94年に東京支社長就任。2002年退職。現在は日本とフランスに居住し、社会システムデザインという分野の発展に向けて活動中。