「2008年 日本の未来に何が問われるのか」 / 発言者:佐々木毅氏(全3話)

2008年1月23日

第1話:政党の真価は否応なしに明らかになる

 2008年は、これまでの政治改革の成果が、全体として問われると年だと思う。これまでは、中選挙区制の廃止など選挙制度などを準備しとにかく政党間で競争する仕組みを取り入れた。マニフェストを選挙の重要なツールとして、公約の位置づけがそれなりにはっきりし、とりあえず2つの大きな政党の固まりが競争する形になった。2008年はそれが何だったのかが、否応なしに明らかになる年になるだろう。あとは、政党が堂々たる政権選択選挙をして、国民に選んでもらうしかない。

 政治状況は、大きくいうと非常に単純になっている。選挙はそう遅らせずにやるしかない。政策的な面では、それぞれの政党が選挙までにどれだけ魅力的なマニフェストを出せるかの課題は残っているが、それも政治の当事者たちがどういう意識で努力するかに全てかかっている。そういう意味で、今年はそうした政治を突き放して見るべき年にもなるのではないかとも思っている。

 日本の政治を見て、この間はっきりしたのは政治や政権のかじ取りや動きが、国民に非常に響くようになってきたこと。これまでは公共事業なんかをやる人は政治に非常に近く、大多数のサラリーマンは極端に遠い、そうした歪な構造があったが、それが修正され始めている。国民の方に余裕がなくなってきたこともある。また、国民と政治の間の歯車を見えにくくしていた要素、例えが役所や企業などそうかもしれないが、そういうバッファーゾーンが崩れ、ある意味で国民と政治の距離はかなり縮まっている。だから年金問題をめぐる官房長官や総理の発言は支持率を直撃した。

 私たちが行ったある調査では、政治が日々の生活に対して影響があるという回答は、私の予想より非常に多くなっている。それを読み違えるから先の年金発言のように大きな影響を被ってしまう。政治や権力者に対する国民の態度が大きく変化しており、それを読み違えたほうが、選挙で負ける。これは15年、20年前の政治とは異なる現象だと思う。

 もう1つ非常にはっきりしたのは今度の福田政権を見ても選挙に基盤を持たない政権は本当に脆弱だということだ。思い切ってやれというエネルギーを国民から得ていないので、何かをやろうと思ってもできないし、何をしていいかもわからない。だから大体こんなところかなという調子で運営している。やっているうちに官僚と仲が良すぎるのではと言われたり、まずい発言をしたら支持率ががくんと落ちる。選挙に基盤を置かないで政権をたらい回しにできるというのがかつての自民党の政治だが、それがもうできないことがはっきりしてきた。広い意味でのマニフェストを軸とした国民と政治との関係づけに、政治の機軸がこの数年ではっきりと変わってきている。

 選挙というのは、何をやりたいかを死ぬ思いで国民に伝え、国民もそれを必死に受けとめるという機会である。それがないと、何か口先でコミュニケーションをとるみたいな感じの政治になってしまう。国民ときちんとコミュニケーションをとったんだという確信を持つことができない政治は、見ていて可哀そうだな、という感じがする。

 ただ、こうした政治は分かりやすさを求めるため、単純化しすぎるきらいもある。2005年の小泉前首相の解散総選挙では、郵貯改革のみが争点となったが、国民生活に関する多くの問題が先送りされるようなリスクも高まった。それが、2007年の参院選で揺り戻されることになった。これ以降は、生活問題が政治のテーマになったことはもう間違いがない。ここには、社会保障から教育、そして地方問題と難問は山積している。だから、国民の方が、ここはどうする、あれはどうだと政治家に次々と問いかける状況に今の日本政治はあるのではないか。私はそのように思う。

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発言者

佐々木毅氏佐々木毅(東京大学前総長・学習院大学教授、21世紀臨調共同代表)
ささき・たけし
profile
1942年生まれ。65年東京大学法学部卒。東京大学助教授を経て、78年より同教授。2001年より05年まで東京大学第27代総長。法学博士。専門は政治思想史。主な著書に「プラトンの呪縛」「政治に何ができるか」等。

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