若者が住みたい町をめざすべき
高橋: 例えば、産業という観点からも、復元したとしても、あの地域が衰退していく危険性は多分にあるわけですよね。だから、復元したのではあの地域に活力が出てくるかどうかはわかりません。そうであれば、将来を見据えて、活性化していくための施策を考える。それが本当の復興だと思います。そのためには、高台に住むとか、スマートシティをつくろうとか、色々と議論になっています。要するに、高齢者に住みやすいだけではダメで、若者が行きたいと思うような町でなければだめなわけです。だから、新しい産業がうまれなければいけないわけですから、そういうところまで含めた大きなビジョンが必要だと思います。工藤: 実行体制がうまくいかないのは、メディアの報道を見ていると、連立がどうとか、政権基盤が弱いとか、実務経験のある官僚を外して学者だけになっているとかあるじゃないですか。その辺りはどうでしょうか。
増田: 具体的に、そういうことをどうやって実行するかが全てですから、そこから考えれば、一部の人間ということは絶対にあり得ないですよね。ですから、おのずから官僚のみなさんも、そこのところにどうやって入るかということですが、やはり官僚を叩きすぎたのですね。まだ、聞くと政務三役のところでの議論になっているようです。
工藤: 政治主導ではなくて、政治家主導と最近よく言われるようになっていますよね。
増田: 政治家もちゃんとした政治家ならいいですけど。
工藤: それから、もう一つの問題が、規模とか震災の広がりが違うということがありますが、阪神淡路大震災の時は、兵庫県がきちんと震災復興プランを数ヶ月でつくりましたよね。かなり早いですよね。地方と国が連携するという仕組みが完全に定着していたのですが、今回は、地方の人達はいっぱいある会議の中に数人が入っている感じですね。さっきからおっしゃっているように、ビジョンは国がつくるにしても、地域のプランをつくって、最終的に連動するような形が描けていないような気がするのですが、どうでしょうか。
震災をきっかけに日本全体を変えるべき
早瀬: 本来、震災の後に地方分権一括法ができましたから、本当は、三者は横並びなので、同じ立場で発言できるはずなのですが、県のみなさんも、今の現場に追われすぎているということがあると思います。工藤: 増田さんは、昔、東北復興庁と言っていましたが、どうですか。あれは止めたのですか。
増田: 今の政権を見たら、屋上屋を架すような余計なものはつくって欲しくないと思います。しかし、本当は東北のどこかにそういうものを置いて、官民、それから国・地方全部の集合体として、そこで物事を決めていく。そうでないと、私は、東北は復興できないと思います。今の内閣の力を冷静に判断すれば、そんなことにはなりっこなくて、かえって足手まといになるような組織をつくられたら困るな、と。言いたくないし、きつい言葉ですが、そういう気はします。
工藤: つまり、その案を実現するためには、今の内閣は実力的に難しいということですね。
高橋: 本当に分権という発想しながら、そういう組織がつくられるのなら機能しますけど、そこができないままに新組織をつくると、例えば、北海道開発庁をもう1個つくるような話になってしまいます。
工藤: その可能性があるわけですね。だから、今の政権が分権も含めてやるという覚悟があるかと言われれば、それは感じませんよね。
高橋: でも、それは今回のことだけではなくて、全てのことに関して日本は変わっていかなければならない。そういう壁というのは沢山あるわけですよね。だから、今回の震災をきっかけにして、日本全体を変えていくのだという流れをつくらないと、いつになっても、東北だけではなく日本全体が衰退したままではないかと思います。
工藤: これまでみなさんの話を聞いてみて、今回の復興が、従来型の発想ではだめで、本当に国をつくり直すぐらいの話に発展していくのではないかと。まず、今は被災地の救済を行い、生活を守るということに全力を尽くさなければいけないのですが、一方で、その復興のプロセスというのは、僕たちの残りの人生そのものの期間に重なるような壮大なプロセスに入ったのだなということを感じがします。そうであれば、僕たちも覚悟を固めなければいけないと思います。みなさんは、これからの進め方についてどのような覚悟というか、どういうことが必要だと捉えているかということについて、ご意見いただけますでしょうか。
西日本はどんな社会をつくるのか
早瀬: 先程、しばらくは経済的には西日本の一定の役割があるのではないかという話を増田さんがおっしゃられましたけど、一方で、私たちの間で、西日本には南海・東南海の地震が確実にきます、そういうことを考えると、西は大丈夫ですというわけにもいかないわけです。逆に言うと、今回の東北の地震の関連で、大阪でも一時、電車の部品が足りないからといって、本数が減ったりしていました。要するに、日本は凄くつながっている。逆にいうと、西日本が一定の役割を果たすにしても、東日本にも復興してもらわないといけない。全部がつながってくるわけですよね。ですから、確かに今は東日本の問題が重要視されていますけど、西日本はどんな社会をつくるのかとなります。根本的には、今後、IAEAで、原発の立地などに関しても、より厳しいことになると、既存の原発も不適格になる怖れがあり、いつまでも運用できるかどうかわからなくなってきます。そうなると、電力の少ない中で、どのような社会をつくるのかとか、日本全体の話になってくると思います。工藤: 確かに、本当に日本の改革になりますね。
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今回の震災を、行政の視点、エコノミストの視点、市民の視点から、救済についての問題、未曾有の被害から、東北地方の復興にむけた青写真を描き、どのような道筋で復興を進めていけばいいのか。また、被災地の復興のみならず、日本の復興に関する議論まで踏み込んで議論しました。(BS11 本格闘論Face 4月17日放送)
参加者:増田寛也氏(野村総研顧問、言論NPOアドバイザリーボード)
高橋進氏(日本総研副理事長、言論NPO理事)
早瀬昇氏(大阪ボランティア協会常務理事)
司 会:工藤泰志(言論NPO代表) 記事・動画はこちら