2011年、日本は未来に向かって動き出すことができるの?

2011年1月05日

 放送第14回目の「工藤泰志 言論のNPO」は新年最初の放送ということで、様々な有識者に「新しい年に期待すること」をインタビューしてきました。小林陽太郎氏(富士ゼロックスの前最高顧問)、佐々木毅氏(元東京大学総長)、明石康氏(国際文化会館理事長)、武藤敏郎氏(大和総研理事長)、高橋進氏(日本総研副理事長)、宮本雄二氏(前中国大使)、島田京子氏(横浜市芸術文化振興財団代表理事・専務理事)
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「ON THE WAY ジャーナル
     工藤泰志 言論のNPO」
― 2011年、日本は未来に向かって動き出すことができるの?

 
(2011年1月5日放送分 17分45秒)

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「2011年、日本は未来に向かって動き出すことができるの?」

工藤: おはようございます。そして、新年あけましておめでとうございます。言論NPO代表の工藤泰志です。毎朝、様々なジャンルで活躍するパーソナリティが、自分たちの視点で世の中を語る、ON THE WAY ジャーナル。毎週水曜日は、「言論のNPO」と題して、私、工藤泰志が担当します。2011年、初めての放送になります。今年もよろしくお願いします。今日は、2011年、この日本をどう考えればいいのかということをまず皆さんと考えたいと思っています。

 実は、昨年の暮れ、言論NPOは9周年を迎えました。本当は10周年とかになると区切りがいいのですが、9周年のパーティーをやったのですね。その時に、日本を代表するかなりの論者が、250人ぐらい集まりました。その時に、私は、2011年は日本の未来にとって勝負の年だと思いましたし、それについて、色々な人たちと語り合いました。なので、その時のスピーチと、私も会場で色々な人たちと話をしましたので、その人たちの話もここで紹介します。日本が直面している課題が何で、それをどう乗り越えればいいのか、新年どういう年にしていきたいのか、ということについて皆さんと考えたいと思っています。

 さて、番組ではご意見やご感想、取り上げてほしいテーマなどをお待ちしています。皆さんもご意見やご感想をお寄せください。番組ホームページの水曜日、工藤泰志のページに行っていただいて、そこでメールやツイッターでどうぞ。ON THE WAY ジャーナル「言論のNPO」、今日のテーマはこちらにしました。

谷内: 「2011年、日本は未来に向かって動き出すことができるの?」
おはようございます。そして、あけましておめでとうございます。


工藤: おはようございます。

谷内: 去年暗い感じで終わったので、今年は明るくいきたいと思います。ON THE WAY ジャーナル「言論のNPO」スタッフの谷内です。今話が出ました、昨年末のパーティー、9周年のパーティーということで、岡田民主党幹事長とか、福田元総理とか、仙谷官房長官や石破茂さんとか、沢山の方がいらっしゃったということなのですが、そのインタビューを中心に、今日は進めていきたいのですが、どういう感じのパーティーだったのですか。

工藤: 僕はね、びっくりしました。今回20人ぐらいにスピーチをしてもらったのですが、普通、こういうパーティーってスピーチする人はみんな嫌がるのですよ。飲んでいるし、そんな時に話したくないというのですが、今回は、会場がシーンとして、皆さんずっと聞いているのですね。

谷内: あんまり酔ってらっしゃらない。
工藤: 酔ってない、酔ってない。飲んでいるんだけど、発言者のスピーチをちゃんと聞いていました。で、発言者のスピーチも、かなりレベルが高かった。今年、つまり2011年が日本の未来にとって非常に大事な年になるということを感じていますね。それについてみんなで考えなきゃいけないし、議論、言論ということの大事さを皆さんが痛感していたんですよ。

谷内: 早速聞いてみたいですね。
工藤: じゃぁ、まず聞いてもらってから、どんどんコメントします。
谷内: まず、どなたから。

工藤: 言論NPOにはアドバイザリーボードというか、言論NPOに対するご意見番が10人います。小林陽太郎さんという、昔経済同友会のトップで、富士ゼロックスの最高顧問だった人なのですが、その人と、元国連事務局次長の明石康さん。後は、誰だっけ。

谷内: 誰だっけって。佐々木毅さん。

工藤: 佐々木毅さん。元東大総長の。この人もアドバイザリーボードです。アドバイザリーボードはまだいるのですが、まずこの人たちの聞いて...

谷内: わかりました。まず、富士ゼロックスの小林さん、佐々木毅さん、それで明石康さん。この順番で聞いてみましょう。


2011年に必要なもの

質の高い言論-小林陽太郎

小林陽太郎: いま日本に必要なのは、質のいい言論です。また、発信はもちろん、その基になるきっちりとした考え方を、志を持つ人達が切磋琢磨してつくっていくことが必要です。いま政界だけでなく経済界などいろいろなところで、「小さくなった」とか「言葉が軽くなった」といった批判があります。言葉の基にある考え方そのものについて、我々として大いに自省し、言論NPOがいろいろな形で場を提供して、日本における言論の質を高めていくことで、どんどん変わりつつあるグローバルな世界の中で、日本の存在価値というものを、質の高い言論を通じて認めてもらうことに通じるのではないかと思っています。


現実を見極めること―佐々木毅

佐々木毅: 若干語弊がありますが、冷戦が終わって20年くらいは、世の中が単純化してきたように思っていました。その前は「日本異質論」などたくさんあったのですが、それからは、見方によっては議論が大変単調になってきた。しかし、ポールソン財務長官のおかげなのか、リーマンショックがあり、これ以降、再び世界が複雑になってきています。政策にしろ言論にしろ、やはり現実に対する耐えざる執念、これを解き明かそうという執念があって初めて議論は生き、根を持つものだと私は確信しています。この国は、やたら政策が多い国でして、どこにその根があるのかといささか心配なところであります。ちょうど今は現実を見極めるために、大いに言論を活発にし、お互いの現実認識を磨き上げ、そしてじっくり取り組むべき時期かと推察しているところであります。


タフな市民社会が必要-明石康

明石康: 民主主義にはタフな市民社会がそれを支えている必要があります。我々がやっていることが徒労に見えることもありますが、ますます厳しくなる東アジアの情勢の中では、お互いの間に何本でも横のパイプをつなげることが大事になってきています。特に縦割りの日本社会においては、こういうパイプを横につなぐことで、いろんな風穴を空けることができるはずです。そのような意味で、我が国の民主主義を本物にするために言論NPOが果たしている役割には大きいものがあると思います。
 とにかく、回を増すごとに意義が増している言論NPOですので、「どうして9回なのか」というような野暮な質問は、私はしないことに致します(笑)。このような団体が政治や外交問題に対しても質の高い、多様性のある議論を政治・外交にぶつけることが、我が国の独立と繁栄につながるだけでなく、変なナショナリズムに流れることを防げるのではないかと思っております。


工藤: 今、3人の方の発言を紹介したのですが、ここの中で皆さん言っているのは、「質の高い議論」、「質の高い言論」が必要だろう、と言っているわけですね。つまり、佐々木さんは、今の現実を見極めなければいけないと。つまり、日本の政治がここまで問題を抱えている、日本の未来に対して、課題解決ができる力を持っていない。一方で、世界もかなり大きく変わっているわけですね。その中で、やはりそれを乗り越えるような力強い議論が、色々なところで出てこないとダメなわけですね。その役割を、僕たちにも期待されて、皆さん発言したのですが、やはり、言論という側、つまり議論によって何かを変えるということが、まずどうしても必要だと。その人たちがまず元気になっていかないと、始まらないのではないかと思っているわけですね。もう1つ言っているのは、そうした議論によって、僕たちが守らなければいけないのは、本当に民主主義であって、自由な社会なのです。そのためには、それを支える市民が強くならなければいけない。明石さんも話の中で、市民社会がその中で支えられなければダメだと仰っていました。これも私が、ON THE WAY ジャーナルの中で言ってきた点ですね。皆さん、日本の知識層が考えることは同じなのですよ。ただ、パーティーの挨拶だけでは足りないので、僕、主催者だったのですが、ON THE WAY ジャーナル用に、インタビューして歩いていました。その人たちの発言を続いて聞いてもらいたいのですね。

谷内: どなたに...

工藤: これもですね、言論NPOのアドバイザリーボードの方が2人なんですね。それは、武藤さんという元日銀副総裁。

谷内: 武藤敏郎さん。

工藤: それから、宮本雄二さん。これは前の中国大使ですね。それから、言論NPOの理事で、日本総研の副理事長で、よくテレビに出ている高橋進さん。この方々にも聞いています。それから、会場を歩いていたら、昔日産で社会貢献の担当室長をやっていた、島田京子さんという非常に綺麗な方がいまして。

谷内: なるほど、回っていたら、お美しい方がいたから、最後に聞きたいなと。

工藤: みんな言っていることは、僕の気持ちと同じなのですよ。だから、それを聞いてもらいたいと思います

谷内: わかりました。じゃあ、まずは武藤敏郎、前日銀副総裁ですね。


健全なオピニオンリーダーが必要―武藤敏郎

武藤敏郎: 日本には、今、オピニオンリーダーが不在なのです。政治は司令塔不在、民間はオピニオンリーダー不在。だから、オピニオンリーダーの役割を言論NPOに期待します。

工藤: そうですね。そういう人がいないと、日本を変えられないですね。

武藤: このオピニオンリーダーという意味ですが、やはり、国民を超えた政治というのは出現しないのですよね。国民のレベルより、よりよい政治を望んだところで、所詮は無理なのだと僕は思います。民主主義の一つの欠陥なのだけど、国民と同じような政治しか実現できない。そういう意味で、国民の質を高めるしかないのですよね。政治から高めるというのは、ちょっと手順が逆だと僕は思う。そういう意味で、時間はかかるけど、工藤さんのやろうとされている、言論から立ち上げていこうというのは、私は処方箋としては全く正しい処方箋だと思います。問題は、効果的にそれをどうやってやるかということになると、難しいですよね。でも、一緒に考えてやりましょうよ。


独立した民間のシンクタンクが必要―高橋進

高橋進: もうやらなくちゃいけない政策のリストができているわけですよ。ところが、リストが相互に矛盾する。その時に、どうやって優先順位をつけてやっていくかというのが、政治のガバナンスですよね。だけど、今の政府も野党もそれができていない。だから、そういうことについては民間からどうやって優先順位をつけていくのか、あるいは折り合えるところはどうやって折り合っていくのか。その辺の接着剤というか、触媒的な役割を僕らがやらないといけないのではないかなと思っています。そういう意味では、民間に研究所は沢山あるけど、僕は持論として、日本にシンクタンクはないと思っているのですよね。だから、言論NPOみたいなところが、本当の意味での日本のシンクタンクになれる可能性があるのではないかなと思います。


未来の日本に向かって基礎を固める時期―宮本雄二

宮本雄二: 一番日本にとって問われていることは、日本がどういう国になり、どういう生き様の国になるかということを決めることだと思います。国際的な関係、それについてはあまり心配なさらないで、とにかく自分の国をいかにして立派な、それから、10年、20年、50年経っても安心できる日本の国にするという基礎をつくる第一年。そのためには、何をしなければいけないのか。単に経済政策だけではなくて、日本の民主主義というものを、いかに根付かせるか。民主主義の根本は、議論をすることなのですよ。だから、「言論」が重要です。そして、非常に重厚な質の高い市民社会ができあがって初めて、日本の民主主義というのは完成に近づいていくのですね。そのための第一年に言論NPOの工藤代表とともに、私も一生懸命やりたいと思っています。 
 ですから、2011年、何が大事か。日本がどういう国になって、何をするかという覚悟を決める年だと思います。


市民を支える強いNPOが必要―島田京子

島田京子: 一人一人市民が、社会に参加していくための言論の...ですよね。

工藤: そうですね。やっぱり、市民が自分の意思とか社会がどうかということを考えないといけないし。

島田: 責任を持たないといけないですよね。

工藤: そうですね。国際交流基金の小倉さんと話をしていたら、政府を批判するのは簡単だけど、それは自分が選んだ政府...

島田: 自分がどうしたいのかと...

工藤: そういうことを考えないといけないじゃないですか。だから、そういう議論のプラットホームを、何としても言論NPOは来年つくり上げたいと思っていますが、どうでしょうか。

島田: 本当にそう思います。だから、それを支えるNPOも強くならないといけないし、一人ひとりでがんばるのもあるけれど、それをきちんと下支えするNPOが強くなる必要があるかなと思っています。

工藤: やっぱり、市民社会が強くなるためには、市民が強くなるから、それを社会とつなげる非営利組織が強くならないといけないですよね。


工藤: このパーティーに色々な友人や、多くの人が来てくれて、非常に嬉しかったのですが、話題になったのは、なぜ9周年パーティーなのかということでした。

谷内: 確かに、そこ不思議ですよね。


2011年 この国の未来に向けて本気で議論を始めたい

工藤: 10周年でやるのではないかと。でも、皆さん、そこには工藤なりの深い意味があるのではないかと言っていたので、僕はその答えを言ったのですよ。僕は、言論NPOを立ち上げたときに、当面10年はやると言っていたのですね。10年の間に、日本の社会に健全な議論を起こす、そういうふうな健全な社会にしたいということが、僕の9年前の決意でした。で、残りラスト1年じゃないですか。このラスト1年の時に、このパーティーをやりたかったのですよ。この1年、つまりこの2011年に、日本の議論づくり、日本の未来に向けてきちんとした、しっかりとした議論をつくっていくことに関して、本気で覚悟を固めて取り組みたいと思っているのですね。ただ、その時に、会場でも言ったのですが、今、政治が厳しいのですね、よくない。ただ、単にその政治じゃダメだと言っているだけではダメなのですね。その政治をつくっているのは僕たちですから。だから、僕は今年、僕たちが主役にならなければいけないと思っています。つまり、僕たち市民が主役になって、自分たちがこの国の将来に対して、どんな形でもいいから、考えたり議論したり、ひょっとしたら自分なりの社会貢献をしてもいいのですが、そういう形で参加していく、そういう年にしないといけないと思っています。未来は、僕たちが変わって、強くなっていかないと変わらない。自分たちの未来を実現できないということを、今年、僕たちは決意を新たにして、始めなきゃいけないと思うのですね。で、このON THE WAY ジャーナルでも、今まで僕が一貫として言ってきたことは、僕たちが主役だ、ということですね。僕たちは、本当にみんなで一緒に考えて、日本が直面していることにかんして、答えを出す。その答えを出しながら、議論の力で社会を変えていく。そういう形を、今後考えていきたいと思っています。

 ということで、新年早々、色々な人に登場していただいて、熱い議論になってしまいましたが、今年もこの調子でやっていきますので、皆さん、よろしくお願いします。意見がありましたら、ぜひ、お寄せください。今日も、どうもありがとうございました。

(文章・動画は収録内容を一部編集したものです。)

【 前編 】

【 後編 】

 放送第14回目の「工藤泰志 言論のNPO」は新年最初の放送ということで、様々な有識者に「新しい年に期待すること」をインタビューしてきました。小林陽太郎氏(富士ゼロックスの前最高顧問)、佐々木毅氏(元東京大学総長)、明石康氏(国際文化会館理事長)、武藤敏郎氏(大和総研理事長)、高橋進氏(日本総研副理事長)、宮本雄二氏(前中国大使)、島田京子氏(横浜市芸術文化振興財団代表理事・専務理事)
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