「エクセレントNPO大賞」審査講評

2014年12月09日

審査委員 田中弥生


1. 最後まで難航した大賞選定審査

 まず、お伝えしたいのは、「第3回エクセレントNPO大賞」の審査は最後まで難航したことです。なぜならば受賞団体の選定をめぐって意見が大きく2つに分かれたからです。それは、新しい風を感じさせる団体と歴史ある団体との間でどちらを大賞にすべきか、という点でした。

 新しい風を感じさせる団体とは、市民賞を受賞された「ママの働き方応援隊」のことです。子育て経験のある主婦がその経験を踏まえ、独創的・市民的な発想で、赤ちゃんを先生にすることによって、それが触媒の役割を果たし、地域のつながりや絆を築いてゆくというものです。赤ちゃんのお母さん、赤ちゃんと触れ合った青年やお年寄りが微笑みを取り戻し、地域のつながりの大事さを学び取っていく。つまり、提供する側も受ける側もどちらも元気に優しくなるというもので、その着眼点のすばらしさや市民的な発想が高く評価されました。

 また、課題解決力賞を受賞された「にじいろクレヨン」も、新しい風を感じさせる団体で、東日本大震災の被災地で被災直後から避難所の子供の支援、仮設住宅支援と、被災地の状況やニーズの変化にあわせ事業を進化させてゆきました。また、将来、民営の児童館を構築したいと地元の人々や自治体と勉強会を初めており、前進する風を感じさせてくれる、という点で同様に高い評価を得ていました。

 しかし、いずれも若い団体で、組織力という点では課題があり、未知数のところがありました。

 そして、歴史ある団体とは、創設42年の「シャプラニール=市民による海外協力の会」です。シャプラニールは、エクセレントNPOの評価基準にある、市民性、課題解決力、組織力のどれをとっても他に参考になるものを示すことのできる要素を持ち、総合力で優れていると判断され、最終決定に至りました。


2. 「第3回エクセレントNPO大賞」受賞団体 「シャプラニール=市民による海外協力の会」について

 それでは、大賞を受賞された「シャプラニール=市民による海外協力の会」について講評を述べたいと思います。


(1)「シャプラニール=市民による海外協力の会」とは 

 簡単に説明しますが、「シャプラニール=市民による海外協力の会」は、設立42年の国際協力NGOで、NGO界のみならず、日本のNPO界においても歴史を誇る団体のひとつです。その活動は決して順風満帆とはいえず、子供たちの教育支援のために渡したノートと鉛筆は市場で売られてしまいました。その経験を踏まえ、女性たちを中心に識字教育やハンディクラフトの仕事を開始しました。これらは順調に進みその効果も見えてきた矢先、シャプラニールの職員が襲われ重傷を負う事件に見舞われました。後の調査で、地元の文化や慣習を十分に理解しないままに活動を行ったために、地元の人々(特に男性)の反感を買ったことなどが原因であることがわかります。その教訓をもとに事業方法を大きく刷新しました。その後も現地スタッフのストライキの勃発など紆余曲折を繰り返しながら今日に至っています。

 こうした経験から様々な教訓を得て、いかされていることが、市民性、社会変革性、組織力のどの記述からも読み取ることができました。


(2) 高く評価された点

 では具体的にどのような点が高く評価されたのでしょうか。

 まず、市民性については次の点が評価されました。シャプラニールは途上国における開発事業と日本の市民を対象にした活動の2つを柱として活動しています。そして、日本市民を対象にした活動は、エクセレントNPO基準の「市民性」にかかわるところです。シャプラニールは、ボランティア対応の専門スタッフを配置しており、常時、ボランティア希望者を受け付け、彼らの属性や希望に応じて、3つのグループに分け、参加の機会を作っています。また、スタッフやボランティア仲間との交流時間を設け、地域通貨のお礼をするなどの工夫もされています。また、寄付は、金銭だけではなく物品による寄付も受け付けていますが、お礼の際に、それがどのように使われたのかを報告しているのです。現地で制作された工芸品の販売は収入源であると同時に、広く市民の方に現地の状況を知ってもらうための手段と位置づけ、手間のかかる販売方法も受け付けています。

 また、課題解決力においては、様々な失敗の中から教訓を学び、それを新たな事業展開へとつなげている点が評価されました。さらに言えば、失敗から復活し、それを新たな展開につなげるためには、それなりの時間を要するのであり、相当な忍耐力と失敗による逃避の気持ちを克服する力が必要であることを教えてくれています。

 そして、組織力においては、全国3000人の支援者と定期的な寄付者の基盤を築いています。そして、自己財源は、寄付・会費、事業収入とあわせ7割を維持しており、公的資金への依存度が過度にならぬよう自ら制限しています。シャプラニールは、それは、政策提言活動を行う際に中立的な立場を維持するために大事であると述べています。また、助成金を申請する際にも、助成先に関する情報収集をし、公序良俗に反するものでないかを確認をし、理事・評議会へ打診しています。これは、Gift Acceptance Policyというもので、やみくもに資金を調達するのではなく、その資金源の信頼性や資金提供の条件が組織の方針に合っているものかを確認する行為です。日本ではあまり知られていませんが、今後、寄付者や募金方法が多様化する中で、組織を律し、信頼性を確保してゆくために大事な事柄です。


(3) 審査のプロセスで指摘された課題

 他方で、本審査プロセスで課題も挙げられました。ここでは2つ挙げたいと思います。

 第1に、成果の示し方に関するものです。審査委員は、申請書に加え、またHPや事業報告書を拝見したのですが、アウトカム成果に関する、具体的な記述やデータによる説明がもう少し欲しいという意見が出されました。たとえば、ストリートチルドレンの活動であれば、裨益した子供の数だけでなく、進学や就学に結びついた子供の数やそこに至るまでのストーリーを示してほしいのです。このように、アウトカム成果とは、直接サービスを受けた後に、その人々の生活や環境がどう変化していったのかを問うもので、時間を要することが多いので容易なことではありません。しかし、42年の歴史を誇るベテランですから、こうした成果を具体的なデータをもって示してゆくことが求められるでしょう。

 第2に、今後の展望を示すより鮮明なメッセージを拝読したかったという点です。申請書やHPを見る限り、この点が今ひとつ物足りなかったのです。組織の大きさやそれが取り組んでいる課題の大きさ(南アジア地域の貧困問題)に鑑みれば、ドラスティックな展開を示すことは大変難しいと思います。しかし、持続的な安定性のみならず、常に刷新を続けることは、エクセレントNPO基準が求めているところであり、組織力の基準の中で最も難しいもののひとつです。ですが、歴史ある団体であるからこそ、この難題を克服し、他の参考になるものを示してほしいと思います。


3. 求められる評価基準の刷新 ~応募者の成長と審査の教訓~

 最後に、私たち審査側の課題についても報告させていただきたいと思います。エクセレントNPO大賞は第3回目を迎えましたが、同一の基準のもとに応募者も審査委員も評価することによって、評価基準の課題が鮮明になってきました。たとえば、市民性であれば、そこに参加した人々の成長を問う基準が、また課題解決力や組織力においては、発展性や刷新性を問う基準が必要になってきたと感じています。

 実は、これらの基準はエクセレントNPO基準完成系である33基準の中には既に組み込まれているのですが、現在の応募書類に示された16基準には入っていません。当初はより易しい基準を用いるべきであると考え、先の基準は外していたからです。しかし、皆様の自己評価の様子から、この基準を入れてもよい段階に達しているように思えますし、また、審査側の議論もより深まってゆくと思っています。これは、応募してくださっている皆さんが成長、進化していることの証だと思います。そして、私たちも審査基準や審査方法を刷新させてゆきたいと思っております。
ありがとうございました。