日本の市民社会に新しい変化を起こそう

2013年10月03日

今回の「工藤泰志 言論のNPO」は、言論NPOが昨年創設した「エクセレントNPO大賞」。この事業には「日本の市民社会に変化を起こしたい」との思いが込められています。そこで、創設から1年経った日本の市民社会を振り返りつつ、今後、どのような形で新しい変化を起こしていけばいいのか、NPO学会会長の田中弥生氏をゲストにお迎えして考えてみたいと思います。

(JFN系列「ON THE WAY ジャーナル『言論のNPO』」で2013年9月23日に放送されたものです)
ラジオ番組詳細は、こちらをご覧ください。


日本の市民社会に新しい変化を起こそう

工藤:おはようございます。言論NPO代表の工藤泰志です。すっかり秋を感じる季節になりましたが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。

さて、今日は久しぶりに日本の市民社会について皆さんと考えます。昨年、言論NPOが事務局を担い、「エクセレントNPO大賞」を創設し、各所で話題になりました。NPOといっても日本には4万7000を超える団体があり、どのようなNPOかよくわからないのが現状です。そこで、しっかりとした評価基準を作り、それに基づいて良いNPOを社会の中で「見える化」しようということで、昨年、1回目の表彰を行いました。

今、2回目の公募を始めたばかりですが、私たちがこの表彰に込めた思いというのは、「日本の市民社会を強いものにしたい」というものでした。そこで、今日は、この1年間で日本の市民社会に何か大きな変化が起こったのか、ということについて考えてみたいと思います。

ということで、この話題を考えるために相応しい方をゲストに呼んでいます。言論NPOの理事であり、日本NPO学会会長の田中弥生さんです。

田中:よろしくお願いします。


なぜエクセレントNPO大賞を作ったのか

工藤:今日は田中さんと一緒に、「日本の市民社会に新しい変化を起こそう」と題して、今の日本の状況、市民社会の現状、そして「エクセレントNPO大賞」の意味について考えてみたいと思います。

さて、早速議論に入りたいのですが、この「エクセレントNPO大賞」をそもそもなぜつくったのでしょうか。

田中:私たちが何か課題解決をしたいといったときには個人で行動することもありますが、その活動の受け皿になる組織が必要になることが多くあります。典型的なものがNPOです。NPO法ができてから15年ほど経ちましたが、どうも内向き傾向がみられて、あまり市民とつながっていない感じが強くなってきました。そこに一つのブレイクスルーを作りたいと思い、この賞をつくりました。

工藤:去年は160団体くらいの応募がありましたが、確かに、日本全国には多くの優秀なNPOが沢山ありました。やはり、日本でもいたるところに大きな変化が始まっていると感じているのですが、なかなかそれが見えるようなっていないという現象があると思います。ただ一方で、震災があって多くの人たちが被災地に行き、現地でも様々なNPOができてきました。また、前の政権ではNPOに対するいろいろな助成なども行ってきました。しかし、この一年間でNPOの姿が逆に見えなくなってきている感じも持っています。田中さんはどうお考えでしょうか。


政治から市民社会側に投げられたボールの行方

田中:それはどういう立ち位置に立って見るかだと思います。工藤さんがおっしゃっているのは、おそらく一般的な見方、あるいは政策的な視点からです。今までは必ず政権公約の中にNPO支援が入っていたのですが、昨年末の衆議院選挙、今年7月の参議院選挙では消えてしまいました。政策的な争点になっていないということで、注目度は確かに落ちていると思います。

工藤:それは、日本の政治が、市民社会とか市民をベースにした政策に関心がなくなった、ということなのでしょうか。

田中:以前、自民党の議員に直接聞いてみたことがありますが、「一山超えた」という言い方をしていました。これは非常に象徴的だと思います。民主党政権のときに大きな目玉である寄附税制を変えたことで、「政治側としてやることが他になくなったのではないか」、ここまで整えたのだから、ボールは市民社会側にあるよ」という意味があったと思います。

工藤:私も海外の国際会議に出て、いろいろと感じるのですが、間違いなく世界は市民社会が強くなり、課題解決に向けて動き出そうという流れが始まっています。つまり、多くの人が政府だけではなくて、自分が当事者として社会や世界の様々な問題に向かい合って答えを出そうとしている。それが大きな動きになっています。しかし、日本に帰ってくると、そういう動きが確かに始まっているとは思うのですが、なかなか課題解決に向かって大きく競い合っていない。なんとなく小ぢんまりとして内向きになっている状況は変わっていないという感じもしています。世界で始まっている大きな変化と日本の変化にギャップがあるような気がしているのですが、それはどう見ていますか。


課題解決に向かって取り組むことが世界的な潮流に

田中:私は少し違う見方をしています。20代とか30代の若い世代に特にそういう人たちが増えているということが指摘されていますが、実はこれは世界的な傾向です。ある心理学者が世界の先進国7か国で行った調査によると、収入とか名誉といったものにより強い価値を置く人ほど抑鬱傾向が強いということがわかっています。また、非常に孤独を感じているということです。他方で、何か絆を求めたり、社会の課題を解決したりするための、いわゆるソーシャルキャピタルをつくるスキルに非常に長けているという結果が出ています。

だから、その調査結果と照らし合わせると、若い人が課題解決に向かって活動しているというのは、非常によく理解できます。

では日本は例外かというと、そういうことはありません。20代前半の人たちを見ると、大人の力を全然借りずに、自分たちの力で教育や貧困の問題で課題解決をして成果を出している動きがみられます。

工藤:言論NPOの話になりますが、言論NPOにはいろいろなインターンが来ます。4、5年前は、若い日本の大学生のインターンが来ていましたが、とても優秀で、社会に対する問題意識があり、社会のために何かをしたいという若者が多くいました。しかし今は、だんだんそういう人が少なってきて、自分を何とか守るために、就職などある程度の場を得ることに非常に熱心になっていて、社会に対して関心はあるけれども本格的に取り組むという人が少なってきた印象です。

逆に、最近、言論NPOに外国人のインターンが、アメリカの大学を休学してまで言論NPOの手伝いをしたいと来ていますが、すごく優秀です。そういう人たちは、田中さんがおっしゃたように課題解決のためのスキルを得たいとか、それに対して色んな好奇心を持っていて、日本の学生とは何かが違うような気がしています。

田中:わざわざ海外から言論NPOを選んできたわけですね。

工藤:そうです。何人も来ます。どうしたのだろうと思っているのですが、この状況は何なのでしょうか


日本における変化のため、市民社会にいかにブレークスルーをつくるのか

田中:日本の若者たちも非常にポテンシャルがあります。ただ、それを押さえつけるような社会的な要因が今の日本にはあります。非常に大きな問題の一つは就職の問題です。インターンだとか留学で、少し卒業の時期が遅れたために、就職できなくなってしまい、とどうしても億劫になってしまっているところはあると思います。

工藤:そういうチャレンジが自分の人生のキャリアアップにならないという状況があるわけですね。

田中:そうですね。やはりインターンをして2歳年上だけども、企業がその2年間を評価して、積極的に採用するとなったら、おそらくチャレンジする若者の数は増えると思います。

工藤:非営利セクターの話ではありませんが、いろいろな若い学者の人と会ったり、メディアの人と会ってみると、閉鎖的というか内向きの人が非常に多くいます。一方で、40代の中でも優秀な学者や研究者が増え始めているのを感じています。そういう人たちは、社会について関心があって、代替わりが起こりそうな気がしています。
しかし、全体的に見ると、まだまだそれは一部で、非常に閉鎖的というか、今の自分たちのポジションを大きく変えたくないといった人たちが大半です。それが「課題解決」という世界的な大きな展開とは違うと感じています。それを僕たちは突破しないといけないと思うのですが、どうでしょうか。

田中:今の状態を持続したい、変えたくない、安定したいという大きな力が、ある種の既得権益となって、変化を妨げていると思います。もしかすると私たちもそれに加担しているかもしれません。そういうものに不自由さを感じている人たちが若い層を中心に出てきていて、働き方にしても生活の仕方にしても、私たちが「こうではないといけない」と思っていること、例えば正規雇用でなければいけないという常識を打ち破って、もっと自由なスタイルで社会に関わりたいと思っている人たちが確実に増えていると思います。
その人たちがしっかりと生活できるように、いかに私たちが環境をつくってあげるか、あるいはそれを良いと認めてあげる社会にするか、ということがまさに市民社会にブレイクスルーを作ることなのではないかと思います。


「課題解決」と「市民参加の受け皿」としての非営利セクターの役割

工藤:その流れを見ていて、雑然としている状況の中から何かのテーマを引っ張り出してくるとすれば、やはり「課題解決」だと思います。国際社会の中でも、日本の地域の中の課題においてもいえることですが、何かの課題があったらそれに必ず答えを出さないといけないのです。日本の政治は課題を先送りにしてしまって、様々な歪みがかなり大きくなってしまいました。

しかし、一方でその課題の解決を政府に期待していてもダメで、自分たちでやっていかないといけない。それが今の日本社会で非常に問われ始めてきて、表面化してきた。

さて、その状況に非営利セクターが課題解決のアクターとして機能できるかというところが、「エクセレントNPO」の提案につながるのですが、どうでしょうか。

田中:まさに「課題解決」なのですが、「課題解決」だけではダメです。非営利セクターが、自分も何か社会に関わっていきたいと思う人たちの受け皿になってこそ、市民社会が強くなっていきます。ですから、市民参加を得ながら、どのように課題を解決していくかという両輪で走っていかないといけないのです。日本の非営利セクターはどうしても市民参加の部分が非常に弱かった。また、課題解決のところも技術だとか、知識だとか、それを継続するための組織的な力がまだ脆弱だったことは否めないと思います。

工藤:「エクセレントNPO」の問題提起の背景には、様々な課題を解決をしたいと思う人たちがいたるところに出始めている、ということがあります。例えば、普通に働いている人もアフター5で何かをしたい、個人で何かをしたいとか、様々な人たちがそういう動きをしています。僕もそういう人たちと出会いますが、皆さん非常に魅力的な人ばかりです。

田中:ドラッカーは、ドイツ市民がナチスに傾倒していったときの様子を見ているのですが、その最大の理由は人々が自分の社会における位置と役割を見失ったことが大きな原因だと言っています。逆にいえば、職業ではなくても、ボランティア活動などでもいいのです。自分が役に立っている、人とつながっている、社会とつながっているという人たちがとても魅力的で、活き活きとしてくるのだと思います。

工藤:私の知り合いにもそういう人が何人もいますが、「工藤さん、おはよう!」って感じで本当に顔が変わります。生きているという感じです。僕たちは人生の中で、社会のために何かをして、誰かに感謝されたり、何かをしているという達成感などが、自分たちの人生を非常に強いものにしていくような気がしています。


「エクセレントNPO大賞」を通じて日本の市民社会に未来に向かう変化を起こしたい

さて、今、「エクセレントNPO」を募集していますが、まだ始まったばかりです。田中さんは審査委員ですが、今年はどのような団体に応募していただきたいか、また、どういうところを評価したいと思っていますか。

田中:「エクセレントNPO」というと、すごく大きくて完璧な組織をイメージしてしまいがちですが、全て完璧ではなくてもいいのです。例えば、市民参加のところですごく工夫したとか、教育分野で課題解決のために様々な活動をしてきたとか、何か一つでも光るものがあればその点を私たちはとても高く評価します。ぜひ若手の人たちや、新しい萌芽を持っているNPOの方たち、あるいは、法人格がなくても構いませんので、そのような方たちに参加して頂きたいと思います。

それから、東日本大震災から2年が経ちました。今は法人格を持っていないけれども、地元の人たちによるグループが数多く生まれています。もちろん組織としては弱いのですが、こうした方々にもぜひご参加いただきたいと思っています。

工藤:この「エクセレントNPO大賞」とは、私たちが7年くらい前から、日本の非営利セクターの実態を検討した結果、日本の非営利組織に非常に可能性がありながら、「市民性」、「社会変革」、「組織力」の点で大きな課題が浮かび上がりました。
その課題に対応した形で、市民に開かれて市民としての成長の場になっているか、課題解決をしっかり行い、それを目的にして行動しているか、それから組織が絶えず刷新し、自己革新の力を持って、成長していくような組織運営ができているか、そうしたことを評価する基準をつくりました。その評価基準をベースに自分たちの組織運営について自己点検するための自己点検シートを公表しています。「エクセレントNPO大賞」への応募は、この自己評価に挑んでもらう形になっています。

田中:審査書類が自己チェックシートになっているので、自分たちの組織を自分たちで評価してもらって、それを応募して頂きます。そして、応募した方全員にささやかですが、フィードバックをさせて頂いて、コメントを書いてお返しするようにしています。

工藤:そうして応募して頂いた中からノミネート団体が生まれ、そして組織賞、市民賞、課題解決力賞、そしてエクセレントNPO大賞を選ぶことになります。今年の12月には表彰式を行う予定です。この大賞には毎日新聞社が共催、共同通信が後援していただいていて、この結果は、社会に向けて広く報道されます。
日本には多くの良いNPOが存在しているということを多くの人たちに知ってもらい、その中で質の競争や循環を起こしていきたい、というのがこの賞の趣旨です。この表彰式を通じて、日本の市民社会に未来に向かう変化を起こしたいと思っています。

田中:まず私たちがその妨げになってはいけませんし、その上で、ぜひこういった動きに対して「そんなこと」といわずに、受け入れる広い土俵を作っていきたいと思います。


当事者意識を持ち、自分たちの未来を考えていくスタートに

工藤:もう一つのキーワードは、「当事者」です。様々な課題に対して、政府や誰かにお任せするのではなくて、自分たちが今の社会を考えたり、自分たちの未来を考えていく、みんなと議論する、何かが動いていくような社会になっていけばいいと思っています。

その意味でも、2回目の「エクセレントNPO大賞」に、ぜひ多くの人に応募して頂きたいと思っています。なお、応募の締め切りは10月16日までとなっています。

ということで時間になりました。今日は日本NPO学会会長の田中弥生さんに来ていただいて、日本の市民社会について私たちがどう思っているかということについて考えてみました。

一方で、市民社会に未来に向かう大きな変化を私たちは起こしたいです。ぜひこの「エクセレントNPO大賞」に多くの人に応募していただければと思っているところです。

今日は「日本の市民社会に新しい変化を起こそう」というタイトルで田中さんと一緒にお話をさせていただきました。どうもありがとうございました。

⇒「第2回 エクセレントNPO大賞」の募集概要はこちら