エクセレントNPO大賞 「市民賞」審査講評

2012年7月11日

担当主査
島田京子(横浜市芸術文化振興財団代表理事・専務理事)



 初年度の「市民賞」の審査対象となったのは27の応募団体でした。審査方法やプロセス、評価基準については既に説明のあった通りです。

 まず、27団体のうちノミネートされた4団体が、事業報告、会計報告などの基本的情報開示とその内容の適格さはもちろんのこと、共通して高い評価を得た視点は、次の通りでした。

 ■ ボランティアや寄付などに関して、市民参加の広がりと成長へのケアの工夫が的確になされ、その成果がみられていること。
 ■ それらの活動が、今後、市民性においてモデルとなりうる可能性が高いこと。
 ■ 市民への理解促進のためのコンセプトが明快で、伝える工夫も的確になされていること。
 ■ 評価基準に基づく、自己評価と審査会での評価の得点に差異がなかったこと。


 また、活動の継続年数については、他の「課題解決力賞」や「組織力賞」と比較して、必ずしも重視されなかったことも「市民賞」の特徴でした。今回「市民賞」に選ばれた「Youth for 3.11」は、2011年からの活動ではあるものの、前述の視点での評価に値するものと考えました。


 「Youth for 3.11」は、東日本大震災復興支援に学生の力を最大限に活かすため、事前研修、被災地での移動や宿泊手段の確保、選択できる活動メニュー、反省会まで、パッケージ化したボランティアプログラムを提供し、既に1万人以上の学生を被災地に送り込んでいます。特に、ボランティア活動から戻った学生たちに対して、「リフレクション」という振り返りの機会を設け、自らの経験を租借し成長の糧とするための支援を丁寧に行っている点を評価しました。また、本団体への寄付者に対して、組織のミーティングやボランティア報告会にゲストとして招待するなど、理解促進の努力も見られます。次代を担う学生という対象に絞って市民性を育てるという重要な役割を認識して、既に、学生の市民社会への参画を促すプログラム開発と実行によって着実に成果をあげており、今後が期待されます。この活動を契機として、新たな複数の学生ボランティア団体が生まれていることも、本団体の活動が他のモデルとなり得る証左でしょう。


 次に、市民賞にノミネートされた3団体についてコメントさせて頂きます。

 「どんぐり1000年の森をつくる会」は、市民が気軽に取り組める環境活動として、誰にでも分かりやすい明快なコンセプトと方法で、16年間継続して活動を行ってきています。どんぐりの実を拾い、育て、植樹するボランティア活動と、1株500円で1本のどんぐり木のオーナーとして「株主」を募る『どんぐり株主制度』、その株券による寄付金を山の維持管理費に充てるしくみなど、循環型のユニークで参加しやすい多様な活動メニューを用意しています。また、活動結果を丁寧にフォローする仕組みを整え成果をあげている点を評価しました。「1000年の森づくり」を目標としているように環境面での成果には時間がかかりますが、これまで10万株を超える株主数、植樹会などへの参加者の増加によって、既に、植樹した山の沢筋から水が流れ出すなどの年月を経た成果も報告されています。


 「被災地NGO協働センター」は、阪神・淡路大震災での活動経験やネットワークを活かし、各地の被災地におけるコミュニティの形成や生活再建のための支援活動を、復興から取り残されがちな弱い立場にある人たちを中心に続けてきました。例えば、『まけないぞう』の活動に代表される、被災地の人々が生産した物品を販売し市民が購入するという仕事の機会づくりや市民の助け合い、そして、『足湯』の活動に代表される、被災者の心身の癒しを目的としてスタートしたボランティア活動が、被災者の『つぶやき』から多様なニーズへの気付きに発展し、復興の課題への対応につなげていくという成果をあげてきました。災害救援・復興活動は高度な技術が求められるために一部の専門家に留まることがありますが、全国の一人ひとりの支援希望者と被災地をつなぎ、災害復興の課題を市民が共有し助け合うための効果的な連携ができるよう、重要な役割を果たしています。


 「八幡浜元気プロジェクト」は、地域活動を通した人の元気創出事業を、若い人々を中核に実施している地域活性化プロジェクトです。年齢や属性、考え方の異なる地域の人々が参加しやすいプログラムを工夫し、参加と交流の過程を通じて地域の課題を共有し、絆をつくり、街づくりや地域活性化につなげようとする試みです。インフラ整備などハード面から地域活性化に取り組む事業が多い中で、地域の多彩な人材に目を向け、地域資源を活用しつつ地域活性化に挑もうとするアプローチはユニークです。本団体は、プロジェクトを創る役割から、プロジェクトを育て、コーディネーターとしての役割への発展を期していますが、若干、今後の事業展開がみえにくくさらなる戦略づくりが必要にもみえます。しかし、このアプローチから学ぶ点は少なくないと評価しました。


 なお、評価基準による採点では、今回ノミネートされた団体以外でも得点が並ぶものもありましたが、応募書類での記述やWebなどでの記載内容も併せて拝読した上で、最初に申し述べた視点での記述がしっかりと書き込まれていることを重視した結果であったことも申し添えたいと思います。

 今回受賞やノミネートに至らなかった団体も、これを参考として、是非、次回も応募頂きたいと思います。