第1回「エクセレントNPO」受賞理由と全般の課題について

2012年7月11日

「エクセレントNPO」をめざそう市民会議  審査委員会


審査結果

1 エクセレントNPO大賞

今回は第1回のエクセレントNPO大賞ということもあり、大賞の選出において慎重に検討しました。その結果、次回以降、さらなる発展に期待するという意味から、今回は、大賞受賞団体は「なし」となりました。

2 各部門賞

「エクセレントNPO」大賞については、すべての組織について、情報開示や資金調達の透明性、市民参加のための努力がなされていることを確認した上で、「市民賞」「課題解決力賞」「組織力賞」について審査し、以下のような結果に至りました。また「東日本大震災復興支援賞」については、被災した組織や被災後に設立された組織が多いことに鑑み、組織力などの評価について配慮しました。


(1)「市民賞」

受賞団体
ノミネート団体
Youth for 3.11 どんぐり1000年の森をつくる会
八幡浜元気プロジェクト
被災地NGO協働センター


 「市民賞」を受賞した組織は、「参加」と「成長」の意味を深く理解し、それを活動に反映し、一定の成果を出していることが高く評価されました。すなわち、ボランティアに参加しやすい機会を提供するだけではなく、参加した人々の成長を促すために、振り返りや発表の機会を設け、それを次の事業展開につなげているという点です。

 「Youth for 3.11」は、東日本大震災の被災地でボランティアとなる上での障害をひとつひとつ取り除き、学生が被災地のボランティアとして活動できる機会を作り1万人以上の学生を被災地に送り込んでいます。また、ボランティア活動から戻った学生たちに対して、「リフレクション」という振り返りの機会を作り、被災地での活動を通じて感じたことや疑問について話し合う場を通じて、学生たちが自らの経験を咀嚼し成長の糧とするための支援を行っています。また、こうした場から、新たな複数の学生ボランティア団体が生まれていることも、本団体の活動成果といえるでしょう。


(2)「課題解決力賞」

受賞団体
ノミネート団体
高木仁三郎市民科学基金 ぱれっと
ゆめ風基金
アジア眼科医療協力会


 「課題解決力賞」を受賞した組織は、自らが取り組む課題を明確に把握していることは無論のこと、課題の認識を進化させ、それに伴い活動や事業を進化させ、一定の成果を上げているという点が高く評価されました。また、新たな活動に着手すると、知らぬうちに組織の使命や目的から逸脱し、事業構成が散漫になり焦点がぼけてしまうことがあります。しかし、受賞団体は活動を進化させながら、その使命をよりシャープなものにしているといえるでしょう。 

 「高木仁三郎市民科学基金」は、原子力問題に関する情報を市民向けにわかりやすく提供し、問題提起した科学者高木氏の活動を原点としています。こうした活動の過程から、市民科学者というコンセプトを生み出し、社会に広げました。同基金はこのコンセプトのもとに、広く寄付を募り、市民による科学調査や研究を支援するための助成活動を行ってきました。地道な活動を通じて、市民科学者というコンセプトはより鮮明になっています。今日、科学技術政策などで話題になっている科学コミュニケーションの先駆的な試みといえるでしょう。この先駆性の意義は、福島原発事故以後の活動によって、一層顕著になりました。


(3)「組織力賞」

受賞団体
ノミネート団体
スペシャルオリンピックス日本 子どもの村福岡
Uビジョン研究所
みやぎ・環境とくらし・ネットワーク(MELON)


 「組織力賞」を受賞した組織は、使命や目的の明確性、情報開示、意思決定機関、資金調達の透明性、収入の多様性などがバランスよく整っていることから、その総合力が評価されました。

 「スペシャルオリンピックス日本」は、スポーツ競技会やトレーニングの場を通して、知的障害者の自立と社会参加をめざしています。1994年の創設以来、アスリート、ボランティアや寄付者など多くの市民に支えられていますが、こうした市民の支援を得るために、使命と目的を明確に伝え、情報開示や資金調達の透明性をもって説明責任を果たすための努力が着実になされています。


(4)「東日本大震災復興支援賞」

受賞団体
ネットワークオレンジ
MMサポートセンター
セカンドハーベスト・ジャパン
遠野まごころネット
ゆめ風基金


 本賞対象者は、当初1件の予定でしたが、5件の奨励賞を設けることにしました。理由は、東日本大震災の被災地では多様な組織が活動しており、これをひとつの軸で評価することは難しいと判断したからです。そこで、被災前より活動していた組織と被災後より開始した組織、被災地の組織と被災地外からの応援組織など、いくつかの分類軸にもとづき、審査対象団体を区分し、その特徴を明確にした上で5つの組織を選びました。

 「ネットワークオレンジ」(宮城県)、「MMサポートセンター」(福島県)は、被災の中から立ち上がった逞しい活動内容や情報発信の活発さが高く評価されました。「遠野まごころネット」(岩手県)は、救援・復興活動の後方支援において圧倒的な強みを発揮した点が評価されました。また、被災地外から応援部隊として活動した組織として、「ゆめ風基金」は、組織力、戦略性、現地団体とのネットワーク力という点で高く評価されました。同じく、「セカンドハーベスト・ジャパン」は、米国での経験を日本社会に定着させた実績をいかし、被災地で幅広い救援活動を行ったこと、活発な情報発信を行ったことが高く評価されました。これら2つは震災前から活動している団体ですが、今回は震災後に立ち上がった被災地外の各地の団体からも、市民性あふれる魅力的な応募が多数寄せられました。しかし今後の復興期の活動を見据えた場合の組織の持続性などで見通しの立ちにくいものが多く、残念ながら賞の対象には残りませんでした。


3 全般について

 エクセレントNPO大賞は、自己評価を応募条件にするというユニークな方法をとっています。したがって、すべての応募団体が自己評価をしていますが、その内容から自己評価に関する傾向や課題も明らかになりました。例えば、オール5、すなわち全て満点として申請された応募団体は少なくありませんでした。大賞への応募ですので、高い評点をつけてアピールしようとする心理が働いたものと思われます。しかし、本審査では自己評価の適切性が重視されました。また、評点の理由に関する説明が不十分なものが多く見られました。すなわち、評点の理由を根拠となるデータや情報をもって説明することが求められます。しかし実際には十分な説明がなされているものは少なかったのです。さらにいえば、自己評価のプロセスで、組織や事業の課題を発見してもらうことも「市民会議」が期待していた点でした。

 また、自ら取り組む課題については明確に記している組織は多いのですが、組織の成果や目標の記述になると希薄になるケースは少なくありませんでした。自らが目指す成果や目標を明確に設定し説明する力を獲得することは、より戦略的な計画を作り、社会への説得力を身に付けることにつながることから、今後取り組むべき重要な課題であることがわかりました。


4. 今後の取り組みについて

 「市民会議」では、受賞団体やノミネート団体、そして他のNPOや非営利組織、企業、自治体関係者と、「エクセレントNPO」について広く議論の場を作るべく、今秋を目途にフォーラムを開催する予定です。

 また、応募してくださった組織のデータや自己評価書から、評価基準や説明に関する課題も明らかになりました。これらの点を踏まえ、今後、評価基準や説明の見直し、成果目標の設定や測定手法の開発も行ってゆきたいと思います。