被災地から見る震災2年の現状とこれからの展望

2013年3月12日

3月6日放送の「工藤泰志 言論のNPO」は、ゲストに宮城県岩沼市の市長であり全国市長会の副会長も務める井口経明さんをお招きして、震災から2年、復旧・復興の経過や被災地の現状などについてお話を伺い、これからの展望について議論しました。

(JFN系列「ON THE WAY ジャーナル『言論のNPO』」で2013年2月28日に収録されたものです)
ラジオ番組詳細は、こちらをご覧ください。


被災地から見る震災2年の現状とこれからの展望

工藤:おはようございます。言論NPO代表の工藤泰志です。毎朝さまざまなジャンルで活躍するパーソナリティーが自分たちの視点で世の中を語る「ON THE WAYジャーナル」。今日は「言論のNPO」と題して、私、工藤泰志が担当します。

 さて、2011年3月11日、あの東日本大震災から、もう少しで2年になります。私は青森市出身なので、東北の復興の問題というのが非常に気になっています。今日は、たまたま宮城県岩沼市長の井口さんが東京に来ていらっしゃいましたので、スタジオに来ていただきました。今の東北の復興、岩沼市のことなど、今、被災地がどんな状況になっているのか、またどんな課題があるのか、ざっくばらんに話を聞いていきたいと思っております。井口さん、よろしくお願いします。

 宮城県の岩沼市は仙台市の南で仙台空港があるところなのですね。被災して、行政区域の半分くらいが浸水し、大変な事態になりました。その中でも、復旧・復興、それから避難民のいろんなケアとか、かなり速いスピードで進めたことで知られていると私も勉強しました。まず、2年経って、岩沼市の状況はどのようになっているのでしょうか。


心がけたスピード感

井口:我々としては一日も早く対応したいということで、被災から1カ月後の4月25日に市の復興方針を決めたわけですが、その中で、コスト意識を持とうということと、スピード感を持って対応しようということを心がけました。よそに負けないようにできるだけ早く、ということです。人口4万4000人ですが、6700人が避難所におられた。この避難所がいち早く閉鎖できたというのも全国で第1号ですし、仮設住宅についても希望者全員に入っていただけました。それもコミュニティ単位で入れた、というのも全国第1号です。そして、これからどう対応していくかという中で復興計画を立てたのですが、8月の初めに策定できました。これも第1号です。

 ただ、計画までは進むことはできても、特に住まいの問題については国の制度として集団移転がありますので、それぞれ被災をした集落の皆さん方に集まっていただいて意見を聞いて、まず6集落を1ヶ所にして新しい街を作ってもらうという形で進めておりました。お陰様で去年8月に起工式を行い、今年の秋には完成をして、そこにそれぞれ住んでいただく、また災害公営住宅を建てていただく、という段取りになっています。ここまでは比較的順調、しかし一方では「もう2年なのか」と思います。まだ、しっかりと進んでいくことができないわけですから、もっともっとスピード感を持って対応しなければならないと思っています。

工藤:岩沼市はかなりいろんな形で復興が進んでいるのですが、東北全体としてはどうなのでしょうか。被災地の方と話すと、かなり地域差もあって、未来がまったく見えないという状況を話される方もいらっしゃるのですが、東北全体としてはどのようなことを考えていますか。


千差万別の被害状況

井口:特に被災がひどかった3県ですが、それぞれの地域性、被害の状況も本当に千差万別でありますので、やはり被害が大きいところについてはなかなか進んでいません。財源の問題等もありますし、いろいろ制度的な問題等もあるわけですが、早く進んでいるところとそうでないところ、かなり差が出ているのかなと、率直なところ思っています。

 被害の状況では、例えば地形的な問題もありますし、高台移転といっても高台がないとか、あるいは移転をするにあたって資材とか機材が思い通りにいかないとか、いろんな問題があります。学校が被災すれば、学校の場所をどうするかということから全部、考えなければならない。地域の状況、またそれについて被災地特例みたいな形で進めていただいているものの、これまでの制度的なものとか、財源の問題だとか、そういうものがいろいろありますので、残念ながらなかなか進まないところもあるということです。

工藤:制度というのは、昔のルールを守っているとなかなかうまくいかない、それを変えないといけないのだけれど、それがうまくいかない。あと財源ということであれば、被災地には全国からいろんな支援やボランティアも行って、復興庁も出来た。今、振り返ってみて、そういう動きを、どのように評価されていますか。


政治主導と言いながら十分に動いていない政治

井口:政府の対応は、これまでの阪神淡路なり中越なりの積み重ねがありますので、速やかに相当、力を入れていただいたというのは確かなのです。ただ残念ながら、政治主導という割にはあまり政治が十分、動いていない面もあったわけです。そして、復興庁を設けて、そこでワンストップサービスをするということで、一定の成果は出ているのですが、やはり個々の省庁についてそれまでのつながり、もちろん法令とか権限とかいろんな問題もありますが、前と同じような対応をする。例えば「これは国の権限なのだから、市町村がどう言おうが進めよう」みたいな省庁もありますし、集団移転にしても、農地を転用するにあたっては全員の同意をとっていただかないといけないという話がなされますので、なかなか難しい。もう少しの規制緩和とか、いろんな課題があるかと思います。だいぶ進んではいて、よくやっていただいたのは確かなのですが、十分とも言えません。政権が代わって、特に総理は「それぞれの省庁の大臣はみんな復興大臣になったつもりでやってほしい」と言われていますので、本当にそれぞれの大臣、省庁もそういう思いで腰据えていただければ、これまでの課題等についてはいくらかクリアできるのかなという期待をちょっとはしています。

工藤:復興庁ですが、うまく機能していますか。立てつけそのものが各省庁の調整みたいで、もっとリーダーシップを発揮してというような形になっていないようですが、どうですか。


復興庁はうまく機能しているのか

井口:復興庁、特に我々の方には復興局が現場にあるわけです。その人たちは、局長をはじめ本当によくやっていただいています。しかし、実際のところ、そこにすべて権限が集中しているわけではありませんので、ものによっては取りつぎ機関になってしまっている。それでも有難いといえば有難いのですが、やはり我々としては、即断即決でやっていただきたいという部分もあり、そしてまた、復興大臣は皆さん一生懸命なのですが、例えば総理大臣クラスくらいの人にやっていただければもっと対応しやすかった。そういう意味で、多少狙いとは違って、他の省庁にいろいろ伺いを立てなければならなかったことも見られた、ということです。

工藤:さっき井口市長と話をしていたら、報道の格差が支援の格差につながっていたと。東京大学のある研究室がそういう調査をしていまして、日本のメディアは、話題になっているところだけ報道を集中させてしまって、本当に被害の大きいところが十分に報道されていなかったり...支援の動きなどを実際、どのように感じていらっしゃったのでしょうか。


政治主導を謳いながら、大臣があまり来なかった岩沼市

井口:本当に当初から、報道の格差が支援の格差につながったと思います。ある意味では少し焼き餅という面もあるのですが、やはり報道の多いところに物心両面の支援がたくさん行く。比較的報道の少ないところにはあまり来ないという面もありました。もちろん我々のところも最低限度の報道はしてもらったわけですが、例えば市域の約半分が水をかぶったというのは被災地で最大ですし、海抜0メートル以下が8%を占めたというのも最大です。そして死者の数にしても、岩沼としては史上最悪の状況だったのですが、よそと比べると死者の数が少ないということもありまして、あまり取り上げられなかった面もあったかと思っています。もちろん、マスコミの方はそれぞれ判断があってやっていただくわけですが、ただ、一番ショックだったのは、政治主導と言いながら政治家に十分来てもらえなかった。特に、省庁の責任者である大臣があまり岩沼には来てもらえなかったというのは、政治主導を謳いながらちょっと違うのかなと。ですから、政治家自身が芸能人などと同じように動いてしまった。少なくとも、政治家は日本の国土全体をちゃんと知ってもらわないといけなかった。そういう意味で少し残念なところもあります。

工藤:政治家の人はなかなか来なかったのですね。

井口:もちろん、地元の代議士とかには来てもらえますが、省庁を動かす大臣などは、それこそ岩沼をほとんど通り過ぎてしまうということでありまして、当初は残念な思いもしていました。

工藤:私たちはNPOということもあるのですが、全国的に、また世界からも支援の輪があったのですけれども、当時はどういう評価で、今はどのような連携が続いているのでしょうか。


時間の経過による支援の風化が怖い

井口:当初から、岩沼も含めて宮城県とか被災地全体に、全世界からありとあらゆる人たちにいろいろなご支援をいただいていますし、励ましもいただきました。本当に物心両面の支援をいただけたと思います。岩沼でもたくさんいただいていまして、そのたびに涙がこぼれる思いもしてきたわけです。ただやはり、今の段階では比較的支援が少なくなっているのではないかと思います。ただ、その時々のニーズに合わせた支援を、ぜひしていただきたい。そういう意味では、風化を恐れるということでありまして、もちろん時間の経過と同時に国全体でもいろんな課題がありますから、東日本大震災だけに集中するということは難しいかもしれません。しかし、内閣が発足するたびに、大震災を国政のメインテーマに置いて、というお話をしてもらっていますので、それはそれでやっていただかなければなりませんし、国民の皆さん、全世界の人たちも折に触れて、被災地の状況がどうなのかを知っていただいて、適切な手を差し伸べていただけたら非常に有難いと思っています。

工藤:私の気になっているのが時間の感覚で、特にお年寄りの多い被災地では、出来るだけ早く未来の展望が見えるようにしなければいけないと思っているのです。どうなのでしょうか、今の復旧、復興のステージはどのくらいの段階で、今後、どういう形にしていかないといけない、という危機感があるとか、そういう点ではどのようにご覧になっていますか。

井口:今の工藤さんのご指摘は本当にその通りでありまして、我々は急がないといけない。もちろん被災された人全体がそうですが、特に高齢者の皆さんが多い地域でありますので、その人たちにしてみれば、例えば2年経ったけどまだ最終的な住まいが決まっていない、自力でなかなかできないから早くやってもらいたい、という思いは当然あります。そういう意味では我々は本当に急がなければなりませんし、同時にいろいろな計画もしっかり具現化する。そして当然のことながら、少子高齢化社会を十分ににらんで対応していかなければいけない。もっともっとスピード感を持って対応しなければいけないと思っています。

工藤:復旧と復興ですが、復旧というのは、とにかく前の状況になるべく早く戻す。それから復興というのは、今の少子高齢化とか東北のいろんな状況を踏まえながら、未来に向けて新しいステージを展開するとか、いろんな議論がありますよね。ですが、現実的に見ると、今は復旧の段階にとどまっているのでしょうか。それとも、新しい産業とか新しい時代に向けての大きな手がかりを感じてきているという状況なのでしょうか。


復興の前に、100%の復旧までも時間がかかる

井口:地域差はもちろんありますが、なかなか復旧というところが100%までいっていない面もあります。復興については、それぞれ計画はありますが、まだ具現化というところまでは時間がかかるのかなと思います。また、我々はほとんど全国民の皆さんの税金を使わせていただいておりますので、もちろん前よりも良くしていかないといけませんし、二度とこういった悲劇を起こさないためにも、元に戻すだけでは当然ダメですので、しっかりとしたものをやっていかないといけない。そういう点では本当の意味の復興が進むようにしていかないといけないのですが、これについてはやはりなかなか十分進んでおりません。岩沼を見ても、最終的に住まいの問題と仕事の問題がありますが、農業地帯ですから農業を再興するということもありますけれど、もう一方では、これからの人たちにも住んでもらうためには職場がないといけないという雇用の問題がありますので、岩沼では「自然共生国際医療産業都市」というのをやっているわけです。ただこれについても具体的なところまでいっていませんので、まだまだ時間はかかるのかなと。けれども一方では急がなければいけないなと思っています。

工藤:復旧・復興の話とはちょっと異なりますが、地方分権という大きな流れの中で、基本的には出先機関をなくして新しい階層制を作らないといけないという考え方をしていました。しかし、東北に行くと違う議論があって、県はダメで出先の方がいいとかいうことがあって、私たちも戸惑っているのですが、どうなのでしょうか。

井口:分権は必要だということで、全国市長会でもいろいろ議論を交わしてきましたが、特に具体的な話で地方の出先機関の移譲という問題が出てきました。時の民主党政権もそれにだいぶ力を入れて、全国市長会でもいろいろ議論をしたのですが、大多数の人たちが反対だと。特に東北については、今回の震災で整備局をはじめとして出先機関が全力で投球してくれた。ですから、復旧・復興を進めるにあたっても、出先機関は必要だということで、東北市長会としてはそういう決議もしているような状況です。このあたりについては分権という面とちょっと違うかもしれません。分権自体は必要なのですが、今の段階では出先、それに対して政府の方は、関西連合と九州知事会だけだという話をしましたので、一国二制度になったらおかしいのではないかという議論等もあったのですが、いずれにしても今回の場合はそんな形です。

工藤:東北が復興を通じて未来に向かっていくような展開になっていくと、私たちもうれしいのですが、そのようなことにつながらないでしょうかね。

井口:もちろん、今回の震災を踏まえて、それぞれの自治体のあり方、特に基礎的自治体のあり方については十分考えていかないといけない。その中で当然のことながら、地方分権もこれからどう具体的に進めていくか。一方では道州制とかいろいろ言われていますよね。これについてはしっかり議論をしていく必要が当然出てくるのかなと思っています。

工藤:なかなか地域の現場の率直な意見を聞く機会がないものですから、いろいろ考えさせられながら、私たちは東北について風化させずに見守り、また様々な形で支援していかなければいけないと思っております。

 井口さん、今日はどうもありがとうございました。

井口:ありがとうございました。