被災地のボランティアはなぜ減ったのか

2011年6月01日

今回の「工藤泰志 言論のNPO」は、東日本大震災の被災地ではいま、ボランテイア活動がどうなっているのか?そして今後どうなるべきか?を議論しました。

ゲスト:
堀江良彰氏(NPO難民を助ける会事務局長)
田中弥生氏(大学評価・学位授与機構准教授)

(JFN系列「ON THE WAY ジャーナル『言論のNPO』」で6月1日に放送されたものです)
ラジオ放送の詳細は、こちらをご覧ください。


「被災地のボランティアはなぜ減ったのか」

工藤:おはようございます。言論NPO代表の工藤泰志です。毎朝様々なジャンルで活躍するパーソナリティが自分たちの視点で世の中を語るON THE WAY ジャーナル。毎週水曜日は私、言論NPO代表の工藤泰志が担当します。
 さて、新緑のまぶしい季節になりました。皆さんはどのようにお過ごしでしょうか。私はこの季節が大好きなのですが、ただやはり被災地のことがどうしても気になるのですね。最近、メディアでも報道されてきているのですが、5月の連休以降、ボランティアの数が減ってきたという記事がよく目につきます。これは非常に僕も気になっていまして、ちょっと考えてみなくてはいけないのではないか。ということで、今日はこの問題を考えるために2人のゲストをスタジオにお呼びしました。1人は難民を助ける会事務局長の堀江良彰さんです。堀江さん、よろしくお願いします。

堀江:よろしくお願いします。

工藤:それから大学評価・学位授与機構の准教授で、NPO問題の専門家である田中弥生さんです。田中さん、よろしくお願いします。

田中:よろしくお願いします。

工藤:お二方は、何回もここに来ていただいているのですが、今回このボランティアが減少しているということは本当なのか、その背景をどういう風に僕たちは考え、もし問題があるのだったら、今後何を改善していけばいいのか、ということが今日のテーマになると思います。さて、早速ですが、被災地のボランティアがこの前のゴールデンウィーク後、がたっと減ってしまっているという報道があるのですけど、田中さん、それは本当なのでしょうか。

田中:はい、確かに数は減っています。少し比較の数字をお持ちしたのですが、単純に比較をしてはいけないにしても、阪神淡路大震災の時は全体で138万人がボランティアとして被災地に入りましたが、震災から1カ月で60万人が被災地に入ったと言われています。今回の東日本大震災の場合はどうかというと、社会福祉協議会を通じてボランティアに入った数ですが、5月の初旬までで26万人です。

工藤:つまり1カ月半くらいですね。

田中:そうです。絶対数も比較すると少ないのですが、ゴールデンウィーク中は8万人入りました。ですが、ゴールデンウィークが終わってから半減したというふうに言われています。

工藤:なるほど。堀江さんはどうですか。現地にずっと入っていらっしゃいますけど、阪神淡路の時も行かれましたか。

堀江:難民を助ける会としてはやっていますけれど、私は行ってはいません。

工藤:そうですか。どうですか。

堀江:確かに私ども難民を助ける会でも、ゴールデンウィーク中は、現地に炊き出しのプログラムを作って、全部で100人くらいの方に来ていただいてお手伝いをお願いしていました。ゴールデンウィーク期間が終わると、多くの方に来ていただけるプログラムができていないこともあって、ボランティアをうちの会としても現地に送れないでいるのが現状です。それは、まず被災地にどうやって行ってもらうかという、足の確保です。バスを出すか、電車は通っているので仙台とか盛岡までは行ってもらえても、仙台から被災地までの交通機関がないものですから、その確保をどうするかという課題もありますし、後は宿泊場所ですね、ホテルは中心部にはあります。だからそこで自分で取ってもらえる分には構いませんけれど、団体として宿泊場所を確保してお呼びするというのがなかなかちょっと今すぐには難しいような状況もあって、それでゴールデンウィーク明けに減少してしまっているという現状になっています。


なぜ「自粛」が起こるのか

工藤:確かに、ボランティアが阪神淡路と違って日帰りで帰れるという話ではないですね。ただ、それを乗り越えてボランティアに行ってほしいという気持ちもあるのですが、色々な報道を見ていますと、受け皿になる社協の人たちもかなり大変だと思うのですが、ボランティアの人数制限をしたり、受け皿自身がニーズの容量に対応できていない。後、やはり瓦礫の処理など被災地の仕事もかなり大変で、自分たちで本当にできるのか、というボランティア側の自粛もあるようにも聞いているのですが、そのあたり田中さんどう見ていらっしゃいますか。

田中:まさに、ボランティアを欲している避難者、あるいは被災者の方々と、それからボランティアをしたいと思っている人たちのミスマッチが起きていると思いますね。つまり、たくさんやりたいと思っている人もいるし、欲しいと思っている人もいるのですが、それが届いていない状況なのです。それをどういうふうに調整しているかというのは、今、工藤さんがおっしゃいました社会福祉協議会を中心にしています。

工藤:社会福祉協議会は、厚生労働省の外郭団体というイメージでいいのですか。

田中:法律上は独立していますけれども、法人の設立の経緯を見ますと、厚生労働省系の行政補完型の団体で、各都道府県、それから基礎自治体にも社会福祉協議会が作られています。ですから行政とのつながりは、かなり密接な団体です。ボランティアをしたい場合には、自分が住んでいる社会福祉協議会に登録して、そこから被災地の社会福祉協議会、それから自治体が受け入れ元になって、調整をするという仕組みになっています。

工藤:なるほど。堀江さん、確かにきちんとした受け皿が大事なので、そういう団体が受け皿を作るということは非常に大事なのですが、しかしそこも、容量というかマンパワーというか、かなり苦労されていると思うのですが、なかなか機能しない。メディア報道を見ていても、瓦礫の処理などの支援に行きたいという人たちが、現地に行ってもその受け皿のサポートで時間の大半が使われてしまうという話もあるようです。つまり、受け皿をマネジメントするところがギリギリになっていて、だから多くのボランティアを呼べないと。でも、ボランティアはもっと支援をしたいという熱気がある。ここにミスマッチがあって、何だかつながっていないという感じなのですが。


「管理」と「自発性」を考える

堀江:おっしゃる通りですね。実際は、NPO・NGO側も、もっと努力をして、多くのボランティアを受け入れられるような態勢をつくっていかなければいけません。ただ、正直申しまして、今回はかなり被災規模も大きくて、難民を助ける会の例で言うと、今、岩手県、宮城県、福島県の3県で、障害者施設、あるいは障害者に対する支援、または、仮設住宅に入居する方への物資の配布などを広くやっているものですから、なかなかボランティアさんを、常に多く受け入れてというところまで、キャパシティが追いついていないところがあります。我々ももっと努力をしないといけないと思っています。
 一方で、ボランティアに行く方についても、被災直後はNPOと一緒に行かないと難しい状況でしたけど、段々、復興が進んでいる地域もありますので、そういうところは、自分から自発性を持って、どんどん行って、探すことはできるかなと思います。

工藤:なるほど。今、おっしゃっているのは、単に受け皿という問題はあるかもしれないけど、それだけはなくて、ボランティアがもっと遠慮せずに行けばいいのだということですね。

堀江:そうですね。

工藤:やることは沢山あるぞ、ということですか。

田中:社会福祉協議会を中心にするということは、政府が決めたことなのですよ。ですから、今回、政府は、ボランティアに対して最初からとても大きな期待を持っていて、辻元清美議員を、災害ボランティア担当補佐官に据えて、内閣官房に震災ボランティア連携室をつくり、そこが直ぐに、社会福祉協議会を中心にボランティアをコーディネーションします、ということを宣言しました。ですから、メディアにしても、我々NPO関係者も、個人のボランティアは社会福祉協議会のルートを通じて行くものだ、という風に理解はしていました。

工藤:僕も、非常に頭がこんがらがるのですが、ボランティアのために受け皿をつくることはいいのですが、政府がボランティアの受け皿を指名することに違和感を持ちます。実際に僕の周りにいる人達から見れば、その受け皿は関係なく、友人や自分たちのネットワークを通じて被災地に入ったり、医療現場で患者さんを救出したり、色々なドラマが沢山あるわけです。だからこの受け皿だけを見ていても全体像が見えない状況を感じます。

田中:行政機関が、ボランティアをコーディネートしようとすれば、おのずとこういう設計になると思います。それを決して非難するわけではないのですが、リスクを負わないとか、何か危険があったときにボランティアに迷惑をかけてはいけないとか、色々なことを配慮しますから、自分たちが安全にボランティアを受け入れるキャパシティに応じて、ボランティアを受け入れることになります。ですから、本当はボランティアのニーズがあるのですが、そこまで追いつかない状況になってしまった、という状況もあると思います。

工藤:なるほど。ということは、決められた受け皿だけをベースにしていくと、本当は、もっときめ細かなニーズが沢山あるわけですね。それについて、全部対応していくというのは、難しいという感じですね。


必要なのは多様なチャネル

田中:社会福祉協議会のルートがダメだというのではなくて、もっと多様なルートができればいいと思います。

工藤:多様なチャネルが必要だということですね。

田中:それから、行く方もこれ以上自粛しなくていいということです。

工藤:堀江さん、震災から、もう3カ月近くになるのですが、被災地のニーズとしては、ボランティアを求めているのでしょ。

堀江:求めています。私も、昨日も南相馬市に行ってきましたけど、「来てもらって嬉しい」とか、あるいは「来てもらえるだけで、よかった」と言ってくれる方もいらっしゃいます。そういう意味では、全体で調整して、平等に画一的にやっていくということも、もちろん必要ですが、それにプラスアルファとして、個々人ができることを、できる範囲で責任を持ってやるというボランティア活動があってもいいですし、それがないと、多様なことができてこないと思います。日本は、全体主義の国ではなく、自由主義の国家なので、本来は、やりたい人ができることをやっていく、ということが本来の姿だと思います。

工藤:阪神淡路大震災の時は、日帰りで帰れるということはあったとしても、色々な人がリュックを背負って、どんどん行ったわけですよね。その凄い大きなエネルギーが、その中で自発的な受け皿をつくるという動きになって、それが機能するというモデルだったわけですよね。今回も地域によっては、NPOの人たちが中心になって、新しい受け皿をつくるというところがあるのは事実です。ただ行政のサービスと自発的な市民のボランティアを繋ぐという始めの取っかかりから、そういうこと(登録・調整など)があったために、爆発的なエネルギーで一気にいくというよりは、まずそこに行かなければいけない。初動からなにか違う感じがしませんか。

田中:ボランティアは、あんまり管理をしてはいけないのですよ。自発性が先にあって、そこの中で、それをベースにして、どう役割分担をしようかな、ということが大事だと思います。それを、あまり管理してしまうと、今おっしゃったような、ボランティアの持っている強さというのが、ある種、殺されてしまうのですね。


必要なのは自発的な取り組み

工藤:この番組でも、これまで医療とか色々な人達が、震災直後に被災地で、どのような取り組みをしたか、ということを聞いて驚いたことがあります。つまり、行政が取り組むことと、民間が取り組むということは、やはり違うのですよ。例えば、義援金もそうなのですが、集まっても未だに配られていない。行政を中心にしたサービスは、決定的に必要なのですが、その時には平等でやらなければいけなくなる。それは、その通りで、そうしないと誰かに批判されます。だけど、被災地にとっては、時間との闘いで、直ぐにでも救済しなければいけないし、もっと多様な形で、一人ひとりに寄り添うようなサービスをしないといけないとなると、やはり行政的な形ではなくて、圧倒的な市民の自発性に基づいた動きがどうしても必要だと思うのです。そこの組み合わせがどういう風になっているか、というところが、今、ボランティアの減少という形で問われているような気がするのですが、どうでしょうか。

堀江:やはり受け入れる側としては、どうしても混乱を怖れるのですね。ボランティアが殺到して、収拾がつかない事態になることを怖れてしまう。ただ、現状を見ていると、これだけ広い範囲で被災をしていて、ニーズが限りなく沢山あるという状況ですので、多少、多くの人が行ったところで、ボランティアが行き過ぎて、過剰になるということは、ないと思うのですね。

田中:私が大学で教えているクラスの学生は、被災地に行ってしまって、そこでネットワークをつくってやっています。もう1つ大事なのは、ボランティアとか支援がいっていない地域があります。どうしても、メディアで報道されるのは、石巻だったりすると、そこにみなさん行きがちなのですが、栃木県や茨城県は、私も行ってみたのですが、がらんとしていて、かなり寂しい。

工藤:僕もこの前テレビを見ていたら、栃木県だったかと思うのですが、ボランティア2万人を送ろうというドラマをつくっている。そういう風な、ボランティアを出そうという大きな動きもあるわけですよね。

田中:民間による別のルートをつくろうという動きですよね。

工藤:なるほど。やはり、色々な人達が、まだまだ参加しなければいけない。それぐらい、被災地は大事だと思うのですが、これは改善できますね。

田中:それこそ、私は、メディアの報道の仕方はとても重要で、政府のルートの情報だけだと、どうしても自粛ムードになってしまいます。ゴールデンウィーク中はボランティアセンターを閉鎖します、という情報を流したのはメディアですから。あれを見て、ボランティアはもう足りているのだとか、自分はもう行けないと思った人は沢山いたと思います。それを回復させるためには、メディアの力がもう一度必要だと思います。その上で、遠隔地からはなかなか大変かもしれませんが、本来、NPO法というのは、ボランティアのエネルギーに社会が感銘を受けて、できあがった法律ですから、やはりNPO・NGOのみなさんが、もう少し色々な形でボランティアを受け入れるプログラムをつくってほしいと思います。

工藤:堀江さん、どうでしょうか。つまり、阪神淡路大震災もそうだったのですが、段々、熱気は冷めていきますよね。しかし、被災地のニーズからすれば、これからが本番なわけですよね。ここのミスマッチを、中長期的に埋める努力をしていかないと、本当の意味でも善意がつながる仕組みにならないと思うのですが。


現地に行かなくては気持ちが繋がらない

堀江:やはり、ボランティアに行くという一番の目的は、気持ちがつながっていくことが大事だと思います。そのためには、実際に現地に行って、話をして関係をつくっていく。そういうことによって、今後、長い視点で支援が集まっていくという、いい循環が生まれてくると思います。まず、現地に行くこと。もちろん、NPO・NGO側も努力をして、そういった人達の受け皿にならなければいけません。そういうことがある一方で、ボランティアは自発的ですから、行ける人が行きたいところに行って、できる事をやる。但し、被災者の迷惑になることはしない。

工藤:僕は、青森出身なのでなんか分かるのですが、本当は困っているのだけど、なかなか困っていると言えない。東北の人達は困っていると言えないので、本当は助けを求めていないのではないか、と言われますが、本当は求めているのですよ。今の被災地の状況を見ると、自分たちの力だけで人生の再建は本当に難しい。急がないと、あっという間に冬が近づいてしまう。みんなの力を合わせなければいけないと思うのですが。

田中:先のゴールデンウィーク中に、ボランティアが8万人増えましたよね。それで初めて、東北の方でも、支援を受けて、自分は欲しいと言っていいのだと気がついた方が沢山いらっしゃいます。実は、ゴールデンウィーク明けから、ボランティアへのニーズが増えています。助けを受け入れる力を「受援力」と言うのですが、今、東北ではこの「受援力」が増しているときですから、堀江さんがおっしゃったように、つながりをつくって頂きたいし、私もつくりたいと思っています。

工藤:はい。どうもありがとうございました。ということで、時間になりました。震災からの復興は、かなり長い道のりですが、みんなで連帯してやらなければいけないな、という気持ちで、これからも、こういう形での議論を進めていきたいと思っています。今日は、ゲストに、田中弥生さんと堀江良彰さんをお迎えし、ボランティア自体の動きを、もう一度復興しようと一緒に考えてみました。今日は、ありがとうございました。

一同:ありがとうございました。