4月1日、「市民を強くする言論」プロジェクトの編集会議の会合が都内にて催され、言論NPO代表の工藤泰志の他、田中弥生氏((独)大学評価・学位授与機構准教授)、武田晴人氏(東京大学大学院経済学研究科教授)、目黒公郎氏(東京大学教授、生産技術研究所都市基盤安全工学国際研究センター長)、辻中豊氏(筑波大学人文社会科学研究科教授)、山内直人氏(大阪大学大学院国際公共政策研究科教授)が出席しました。
冒頭では、4月12日に開かれる予定の「エクセレントNPO」についての記者会見、及び「強く豊かな市民社会をつくる対話集会」に関する説明や確認を行いました。その後は、今後の市民社会のあり方について、参加者各氏から様々な問題提起がなされました。
工藤は、市民社会に良循環を起こしていく動きを総括し、「変化が始まりつつある雰囲気があり、関心を持つ人は多い。今というタイミングは市民社会を考える大きなチャンスなのではないか」と述べました。
また、田中弥生氏は、こうした運動について「ゴールはNPOではなく、あくまでも市民社会を強くすることだ。この大きな目標に向けては、優先順位をつけて行動していく必要があるだろう」としました。
辻中豊氏はこれらの発言を受けて、「今までよく出来ていると思っていた政治、社会のシステムがうまく機能しなくなり、政府の赤字も膨らんでいった。それを自分達で作り直す必要があると皆が気づき始めたということではないか」と、利益団体・圧力団体を介した政策過程にも触れつつ分析しました。また、田中氏の発言に関連して、「市民社会とは、社会組織が公共的なものにコミットすることが重要なのであって、それはNPOでなくとも企業、家族、個人などでもよい。NPOだけでなく、このように社会全体を変えていくというベクトルを打ち出していくべきだろう」と意見を述べました。
武田晴人氏は、以上の議論を踏まえ、「選挙によって政権交代が起こったところで、それだけではどのような公共サービスが必要か、実際には選択することができなかった」「自分で意味を持たせられるような仕事を選び取ったり、あるいはどのような公共サービスが必要かを選び取る、そうした選択を日常の生活の中で繰り返し行っていける社会が望ましくなってきている」とまとめました。その上で、「多くの人が集まり、ニーズに対して多様な選択肢を提供できるようなNPOがエクセレント、ということになる」とし、「そうした非営利企業を見る目でもって、営利企業の見方も変えていきたい。そうすれば、仕事の中身にせよ提供するサービスにせよ、一人一人が多様な選択肢から選び取ることが許容されるような社会になるのではないか」としました。
目黒公郎氏は、多様な選択肢があるべきだとの議論を受け、自助・共助・公助のバランスにつき、自身の専門である防災の観点から例を示し、「災害は政治・経済面の現象と比べて短期的であるため、どうしても政府や自治体のみでは対応できない部分があり、どうしても「自助」が必要になる。それには市民一人一人が強くなることが求められる。」「公助や共助は、本来自助を誘発すべきであるところ、逆にそれを阻害するようなものも多い。それを変える必要がある」と述べました。また、個人がそのように適切な選択を行えるためには、状況をイメージする力が必要であり、教育や情報発信の仕方を工夫する必要があるとの意見も述べました。
山内直人氏は、「社会的企業という言葉とNPOはしばしば対立させられることもある。実際のところ、違いはどれほどだろうか」と問題を提起しました。これに対して田中氏は、「民間非営利組織のミッションには、サービスの提供という部分と、市民に対する参加機会の提供という部分がある。一概には言えないが、ビジネス的な側面が強く出過ぎて、寄付やボランティアなどの参加機会を軽視している場合は、民間非営利組織としては不十分ということではないか」とまとめました。
最後に、「市民を強くする言論」プロジェクトの今後の進め方についても意見が出されました。この中では、アジェンダを絞り込んで座談会を行っていくことや、市民社会に生じつつある変化について、各分野での事例やデータを集積して示していくことなどが議論されました。
「市民を強くする言論」プロジェクトでは、冒頭でも記したように、4月12日に「エクセレントNPO」についての記者会見、および「強く豊かな市民社会をつくる対話集会」を催す予定です。「エクセレントNPO」については、現在言論NPOから発売しているブックレットで詳細に解説しています。その他、市民社会に良循環を起こすための動きについては、今後も随時言論NPOのウェブサイトから発信していきます。
文責:インターン 楠本純(東京大学)