なぜ「エクセレントNPO」が必要なのか―日本NPO学会 報告

2010年3月15日

 3月14日、京都の立命館大学において、日本NPO学会の年次大会が行われました。大会3日目となるこの日は、「望ましい非営利組織の条件と評価基準」をテーマとするパネルに、言論NPO代表の工藤泰志など非営利組織評価基準検討会のメンバーが参加し、本会が提案する「エクセレントNPO」について、初めて公開の場で議論を交わしました。


 この日のパネルは、これまで2年にわたって議論を重ねてきた非営利組織評価基準検討会(以下、検討会)が、「エクセレントNPO」を軸とする強い市民社会に向けた動きを提案する、初めての場となります。シャンティ国際ボランティア会の市川斉氏(関尚士氏の代理)、チャイルドライン支援センターの加藤志保氏、東京大学教授の武田晴人氏、大阪大学教授の山内直人氏、日本NPOセンター代表理事の山岡義典氏と、大学評価・学位授与機構准教授の田中弥生氏が参加し、司会は言論NPO代表の工藤が務めました。


田中弥生氏 まず主査である田中氏が発言し、検討会がこれまで行ってきた議論の根底には「NPO法の施行から11年が過ぎたが、日本の市民社会は本当に強く、豊かになったのだろうか」という問題意識があったと述べました。そのうえで、全国のNPO法人を対象に実施したアンケート結果に言及しながら、市民参加のひとつの指標である「寄付」と「ボランティア」がこの11年で低迷を続けているとし、「多くの市民の参加を得ながら市民社会の旗手となっていくという役割を持ちながら、非営利組織はその役割を果たし切れていないのではないか」と指摘しました。そして「玉石混淆とも言われるように、非営利セクター全体を見たときに、柱となるような規律が見えなくなってしまっている」という危機感から、「望ましい非営利組織とは何か」という議論が始まったと述べ、検討会が出した答えとして「市民性」「社会変革性」「組織の安定性」の3つを挙げました。

加藤志保氏、堀江良彰氏、市川斉氏、工藤泰志 これを受けて、まず「なぜ今、エクセレントNPOが必要なのか」について、NPO・NGOの実践者として実際に活動している加藤氏、堀江氏、市川氏、工藤が発言を行いました。この中で工藤は、「NPOに対する一種の不信感を払拭しない限り、NPOが社会変革に向かって大きく変わっていくことはできない」とし、望ましいNPO像を提起し、NPOがそれを目指して、課題解決をめぐって切磋琢磨していくような動きをつくる必要があると述べました。


武田晴人氏、山岡義典氏、山内直人氏 続いて、武田氏、山岡氏、山内氏が研究者の立場から発言を行いました。山岡氏は、NPOに対して資金助成を行う際に、対象としてどこがふさわしいのかを判断するためにも、望ましい非営利組織の指標というものが重要になってくると述べました。山内氏も「会社は株主から、政府は選挙によって評価されるが、NPOにはそれがないので、何らかの評価システムをつくるという意味でも『エクセレントNPO』を定義することは必要だ」としました。武田氏は「社会に財やサービスを提供しているという意味では、非営利企業も営利企業も同じだ。組織がどんな社会的機能を持っているのか、望ましい組織とはどのようなものなのかといった視点から新しい情報発信を行い、社会に変革を起こしていきたいと思っている」としました。

 次に、「エクセレントNPO」を定義する際に中心的なテーマとなる「市民性」「社会変革性」「組織の安定性」の3つの要素について、実践者側から意見が述べられました。まず加藤氏は「市民性」について、「チャイルドライン」の活動に触れながら、「子どもを取り巻く問題に気づき、それを解決するためのアクションを起こすというときに、いろんな人を巻き込みながら環境を変えていくことが重要だ」としました。そのうえで、「NPOはNPOのためではなく、社会のために存在している。市民ひとりひとりが変わっていくためのツールとしてNPOがあるのだと思う」と語りました。

 続いて堀江氏が、「社会変革性」について発言しました。「難民を助ける会」は当初、対人地雷によって障がいを持つようになった人への支援を行っていましたが、「問題を根本的に解決するためには地雷廃絶を目指さなければならないということで、対人地雷禁止条約のロビー活動などを行うようになった。現在は条約の締約国も増え、廃絶に向けた動きは世界に広がっている」と堀江氏は述べました。

 最後に市川氏が、経営の観点から「組織の安定性」について述べ、公的資金は突然打ち切りになるなど不安定であり、安定的な経営を行っていくためには、多様な資金調達が重要であるとしました。武田氏もこれについて「自己変革を続けていかなければ、持続可能な活動はできないと思う。資金がすぐに得られるというのは幻想であり、多様な基盤による支持が何よりも重要ではないか」とコメントしました。


 その後、質疑応答が行われ、研究者や学生などから質問が相次ぎました。最後に工藤は「NPO・NGOの皆さんとの議論の中で感じたのは、今の日本の政治家よりも、彼らのほうがはるかに、社会の課題解決に向けて取り組んでいるということだ」と述べ、「そのような活動を『見える化』し、色々な人たちが巻き起こす議論を通じて、市民社会を強くするきっかけをつくっていきたいというのが、この検討会の原点である」としました。検討会はその中のひとつとして、この日「エクセレントNPO」を軸とした強い市民社会への動きを提案しましたが、工藤は「私たちのこの問いかけに対して、皆さんからもどんどん意見をぶつけていただきたい」と語り、パネル締めくくりました。


 非営利組織評価基準検討会は、4月中旬に記者会見を行い、「エクセレントNPO」の評価体系を発表する予定です。また、公開シンポジウムの開催も予定しています。「エクセレントNPO」については、現在好評発売中のブックレットでもご覧になれます。強い市民社会への「良循環」をつくり出すための議論や提案は、このホームページでも随時公開していきます。