「市民を強くする言論」とは何か ―言論NPO代表の工藤が語ります

2010年3月01日

市民が強くならなければ、日本は変わらない
-そう主張する工藤の真意を言論NPOの言論監事の田中弥生が問います。












 「市民を強くする言論」とは何か

 聞き手:田中弥生氏 (言論NPO 監事)

田中:
 2010年に入ってから、工藤さんは、よく「市民が強くならなければ社会も変わらない」という強いメッセージを出しています。まず、これはどういう意味かということをご説明いただけますか?

工藤:

 誰もが、日本の政治には大きく変わってほしいと思っているし、日本の未来に向けて日本の政治なり社会が動いていくということを望んでいるわけですが、今の日本が本質的に変わって未来に向かうためには、政治に全てを任せるのではなくて、自分たちが次のこの国や時代を選んでそれに向けて努力していくようなサイクルを動かさないといけません。言論NPOはまさにそれを議論の力でやりたいということで活動を始めましたが、もう8年が経ちました。今年こそ、日本の社会なり政治を未来に向けて動くものにしたい。市民を強くする、有権者が強くなるような議論づくりをどうしてもやりたいということで、その準備をしています。これを新年のときに報告させてもらいました。

田中:

 「市民を強くする言論」のウェブサイトということですけれど、もう少し説明していただけませんか。

工藤:

 私は、市民や有権者が自分たちで政治を選んでいく、それから自分で自分の将来だけではなく国の未来を判断していく、そういう社会が必要だと思っています。しかしそれだけでは足りないのだということを考えています。あの中国との危機のさなかに言論NPOが日中対話の舞台を作ったのもそういう思いがありました。私たち自身が社会に貢献するというか、公のことを担っていく。全てを誰かに任せるのではなくて、自分たちが社会の主体的な参加者であり、責任ある参加者だというかたちに変わらないといけない。

 こうなってくると、有権者として政治を選ぶだけではなくて、私たち自身が社会のプレイヤーとして主体者として社会にかかわらないといけない。つまり市民社会が強くならなければいけないのです。

 そう考えてみると今、いろんな人たちが動いています。世界で活躍しているNGO、日本の社会にもいろんな非営利セクターの方々がいます。個人レベルでも、田中先生みたいな学者さんや弁護士さん、お医者さん、地域社会の中で社会のためにアフター5や休日を使って参加するなど、いろんな人たちが動いています。だから日本は変わっていないのではなくて大きく変わり始めてはいるのです。ただ、その人たちの姿がなかなか見えない。そしてお互いがつながる場がないのです。彼らが日本の課題や未来について議論をし、その中でみんなが仲間になったり何かを達成していく、そういう議論の回転を起こしていけないか、と思ったのです。それが言論NPOの目指す、「市民を強くする言論」のサイトなのです。ここでは「つながりを生み出す」ということがテーマです。多くの人たちとまず社会をつなげたい。いろんな人が社会に対して何かをしたいと思っているけれども、それをつなげるしくみはなかなかありませんでした。「どうすれば社会に貢献できるのだろうか」と皆が考えているのですが、そこにつながりを持たせたい。それだけではなくて、NPOやNGO、学者さんや一般の働く人たちなどが議論を通じてつながるしくみをつくりたいと思います。参加ができる議論サイトにしたいのです。

 しかし、そうはいっても、この議論自体が自己満足で終わってはいけませんので、議論によって社会が変わるようなしくみをつくりたい。そうなると「社会変革」というか、社会が変わっていくための議論でなければならない。そのためには市民社会の可能性に理解があり、かつこの分野を代表する学識者の力を借りるしかないと思いました。そこで、田中先生もまさにその中のおひとりですが、編集委員会というものをつくって、その議論について質的なコントロールをしてもらえないかと。この議論を社会のために多くの人がつながり、社会を動かすようなものにしたいのです。田中先生にはそれに力を貸してほしいと思っています。その点で言うと田中先生にも今日はお話をしていただかないとなりません。

田中:

 はい。私はこの「市民を強くする言論」の活動の中で編集委員会の主査を務めさせていただきます。工藤さんが最初におっしゃったことですが、知識社会において高度に教育をされた多くの人たちは、税金を納めて投票するだけではなくて、もっと主体的に社会とつながって、自分が社会を変えるという実感を変えるという実感を味わいたい人たちであると。これはP.ドラッカーの言葉です。それは知識という性質ゆえだということも言っています。

工藤:

 それは日本でも始まっていますよね。

田中:

 ええ。ですからおっしゃる通り、非営利セクターの活動というものについては遠くから見ているようなところがあって、自分たちはなかなか近寄りにくい、あるいは市民社会という言葉にもまだ抵抗があるというような、昔の感覚が残っていますので、実は自分たちの問題としてかかわることができるのだということをつないでいく機能がとても必要とされていると思います。言論NPOの強みは議論の場であり言論の場ですので、編集委員会というものを立ち上げました。これは東京大学の武田晴人先生、政治学で筑波大学の辻中豊先生、大阪大学経済学部の山内直人先生、一橋大学でやはり経済学がご専門の齋藤誠先生、東京大学の生産研で防災をやっていらっしゃる目黒公郎先生、そしてアメリカからは非営利セクター研究の第一人者でもあるD.ヤング先生、ヨーロッパからはEUでお仕事をされているW.パペさんにご参加をいただいて、まず私たちが今直面している雇用やグローバリゼーションの問題、環境の問題、医療や介護の問題などから、どういうテーマを市民の問題、私たちの問題として議論をしていくかというテーマ設定をしてもらうということ。もうひとつは、やはり議論のクオリティは維持しないといけないので、それを管理するという機能も、ここで担っていただこうと思っています。

工藤:

 田中先生はここで主査をされるということですが、意気込みのほどは。

田中:

 私はまさに市民社会を専門としてこの20数年研究してきましたが、単に理論で外から見ているだけでは、研究者として貢献できません。ですから自分もそこに飛び込んで、アクションをとってみない限りは自分の研究を社会に生かすことはできないのだ、という思いで、ここに参加させていただいています。

工藤:

 去年の12月22日、言論NPOは8周年パーティーを開催しましたが、驚いたことに、言論NPOに参加していただいている方々が、日本のこれからを考えた場合に、民主主義が脆弱だということが大きな問題なのではないかといか、市民社会を強くしていかないといけないということをおっしゃっていました。今まで言論NPOは市民社会という言葉はあまり使ってきませんでしたが、皆さんがそういうふうに感じ始めたということは、日本が本当に今変わり始めているのだと思いました。ただこの変化を、確かなものにしないといけない。それを議論の力で私たちは行いたいのです。田中先生がおっしゃったように、ドラッカーも言っていますが、市民や個人が強くなるだけではなくて、非営利セクターとか、市民社会に関わるいろんな動きもまた、強くならないといけない。そういう良循環を起こしていくことがこの議論の舞台のもうひとつの目的ですよね。

田中:

 おっしゃる通りで、この「市民を強くする言論」の前身にもあたると言ってもいいかと思いますが、昨年から、望ましいNPO・NGOあるいは強いNPO・NGOとは何かということについて、NPO・NGOの8人の皆さんと議論を重ねてきました。工藤さんにもご参加いただきましたが、そこでの議論の内容を、評価基準にして示すということをしていきたいと思っていきます。望ましい姿を目指して、NPOやNGO自身が頑張るし、だからそこに、いろんな人たちの有形無形の参加というかたちでリソースが集まっていく。だからまた頑張れるという姿がまさに良循環であり、それ自体が強い市民社会なのだと私は思っています。

工藤:

 つまり、市民から見れば、公共の役割についていろんな選択肢がないといけませんよね。政府だけではなくて自分たちもそれを担ってみたり、そうなっていくためには市民社会で様々な活動をしている人たちが強くならなければいけませんが、彼ら自身が自立して競い合わなければいけないですよね。単なるライバルというのではなく、課題を解決するということをめぐって競争が始まる。そういう循環が始まれば社会は本当に強くなると思います。そのためにも、この議論のサイトはどうしても成功させたいと思います。スケジュール的にはどうなっていくでしょうか。

田中:

 1月中にはこの「市民を強くする言論」サイトはアップさせていきます。サイトの議論と同時に、できればメールマガジンももう少し配信頻度を高めていきたい。3月には、先ほど申し上げた評価基準を発表しようと思っています。そしてそれをいろんなかたちで有識者あるいは政府関係者にも訴えていきたいですし、それと制度設計とを結びつけていきたいと思っています。

工藤:

 私自身は、NPOやNGOで活躍する人たちをもっと紹介していきたいと思っています。すでに有力なNPO、NGO関係者などとも議論を開始していますが、いろんな人たちとの対話をどんどん公開してその輪を広げていきたい。それだけではなくて、市民社会に関わる学者さんやビジネスマンとか、いろんな人たちに意見を求めるため、対談を行ったりして、どんどんこの議論に巻き込んでいきたいと思っています。非常ににぎやかなものにしていきたいと思っていますので、田中先生にもぜひお力を貸していただきたいと思っています。

田中:

一緒に頑張りましょう。よろしくお願いいたします。.