2009年「第2回非営利組織評価基準検討会」 報告
5月27日、日本の市民社会と望ましい非営利組織のあり方を検討する「第2回非営利組織評価基準検討会」が行われ、日本の非営利組織に問われる評価基準に関して、本格的な議論が始まりました。検討会ではこの評価基準を年内にも公開することを目的に作業が進んでおり、言論NPO代表の工藤泰志のほか、5団体のNPO・NGO代表や、武田晴人氏(東京大学)、山内直人氏(大阪大学)などが参加しています。
まず評価基準案について田中氏より説明があり、その後、内容について出席者との意見交換が行われました。その中で田中氏は「今後の日本社会において求められるNPOとは何か」について、条件として「社会変革」「市民性」「組織の安定性」の3点を挙げ、各項目につき説明を加えました。それによると、「社会変革」とは足りないサービスを補填するだけでなく社会的な課題の解決に向けて常に挑んでいること、「市民性」とは市民に参加機会を開いて問題意識を市民と共有していること、「組織の安定性」とはガバナンスと安定した経営をもって組織が持続的かつ刷新的な活動を支えることである、と示されています。
さらに田中氏からは、100項目以上に及ぶ具体的な評価項目が示され、それらについて具体的な議論が行われましたが、参加者からは「ボランティア」や「寄付」「受益者」などの項目を「市民性」とどのように結びつけて評価すべきなのかといった問題提起もなされました。
非営利組織評価基準研究会では「NPO同士がすぐれたNPOを目指して切磋琢磨するという好循環を生み出す」という目的のもと、今後もこれらの評価基準について具体的な検討を進めていきます。
また、この検討会に先立ち、NGO・NPO関係者らによる座談会が開催されました。片山信彦氏(ワールドビジョンジャパン)、加藤志保氏(チャイルドライン支援センター)、関尚士氏(シャンティ国際ボランティア会)、多田千尋氏(東京おもちゃ美術館、日本グット・トイ委員会)、堀江良彰氏(難民を助ける会)の5氏と、田中弥生氏(大学評価・学位授与機構准教授)、言論NPO代表の工藤泰志が参加しました。「今、なぜ市民社会が問われているのか」や NPOの役割、さらに「望ましいNPOとは何か」などについて、参加者間で活発な意見交換が行われました。
まず工藤より、座談会開催の経緯について説明がありました。「市民社会や非営利組織の役割についてはあまり光が当てられてこなかったが、市民が時代に向かい合わなければ社会は停滞してしまう。NPO法が成立して10年が過ぎたが、市民が問われる役割について、もう一度きちんと議論すべきではないか」と語り、NPOの役割や課題、そしてNPOのあるべき姿について、出席者に意見を求めました。
田中氏は、行政やシステムの問題に対して市民が傍観者になっていると述べ、課題解決へ向かうという市民側のエネルギーが見えなくなっているのではないかと問題提起しました。これに対して国際活動に携わる非営利組織の関係者からは、日本社会の内向き傾向を問題視する声が上がり、「国家という縛りを越えた課題解決には、市民ひとりひとりの役割こそが重要になってくる」との見解が示されました。国際的な問題への関心度は高まっているにもかかわらず、 NPO側の受け皿としての機能が不十分であるという問題も指摘され、「ビジョンの追求も重要だが、市民目線で活動することも忘れてはならない」との意見もありました。加藤氏はチャイルドラインの活動を例に、行政が吸い上げきれない声を受け止める存在としてのNPOの重要性に言及しましたが、工藤もこれに賛同し、制度の抱える問題から目をそらさず自ら解決に向かっていけるような市民の役割を改めて強調しました。
次に田中氏はNPOの抱える課題についていくつか言及し、数のうえでは伸び続けている(現在約3万9000団体)にもかかわらず、寄付やボランティアの数は増えていないことや、行政の下請け化の問題などを挙げました。他の出席者からも、経営的に自立したNPOがどのくらいあるのかを疑問視する声などが上がりました。工藤は言論NPO立ち上げ当時の経験を振り返り、「日本ではNPOで働くということに相当な覚悟が必要だが、たくさんの人がもっと緩やかなかたちで参加できるしくみが必要ではないか」と語りました。NPOとNGOの間の交流を深めていく必要性にも触れ、両者の強みを提供し合っていくことも求められるとしました。
最後に、望ましい非営利組織のあり方について田中氏は「経営的な安定に加え、社会の制度的な矛盾に挑んでいけるような気慨を持ったNPOが求められている」としました。非営利組織に求められる要素として「プロフェッショナリズム」「ボランタリズム」「ネットワーク」を挙げた片山氏の発言を受け、工藤は「NPO同士だけではなく、行政や営利企業とこれらを競い合っていくことで、自ら考え行動する市民と行政との間に好循環を生み出していかなければならない」と述べ、座談会を締めくくりました。
言論NPOでは、今後も非営利組織評価基準検討会や非営利組織関係者との座談会、各界の有識者を招いて開催するフォーラムなどを通じて、あるべき市民社会や非営利組織のあり方について議論を行っていきます。議論の内容は言論NPOのホームページで公開していきます。
インターン 五十嵐智史(東京大学)