10月28日、都内にて、強い市民社会のあり方や非営利組織の役割などをテーマに座談会が行われました。
言論NPO代表の工藤泰志のほか、田中弥生氏(大学評価・学位授与機構准教授)と日本を代表するNPO・NGOから片山信彦氏(ワールド・ビジョン・ジャパン常務理事・事務局長)、加藤志保氏(チャイルドライン支援センター事務局長)、関尚士氏(シャンティ国際ボランティア会事務局長)と堀江良彰氏(難民を助ける会事務局長)の4氏が参加して議論が行われました。
概要
現在、言論NPOが参加する「非営利組織評価基準検討会」では、「望ましい非営利組織」の条件の中について検討が進められていますが、今回の座談会ではこの内容に関連し、強い市民をどうつくるのかについて「社会変革」をキーワードに活発な議論が行われました。
はじめに工藤が、先日の鳩山首相の所信表明演説において「新しい公共」という概念が提示されていたことに言及し、それは政府が担う公共とは市民が独立して自発的に担う公共であることを意味するもので、まさに市民社会を強くすることを示すのではないかと述べたうえで、出席者に対し「強い市民社会を構築するためにはなにが必要なのか」と問いかけました。加藤氏と堀江氏は、市民社会を強くするために非営利組織が担う役割は大きいとし、社会の問題に関心をもつ人々、あるいはそこまで明確な問題意識に至ってはいないものの何らかの関心を抱いている人々の背中を後押ししながら、人と人あるいは人と組織をコーディネートすることや、営利の世界では解決できない課題に取り組むことなどがその役割として挙げられました。関氏と片山氏は、個々の市民の積極的な社会参加が重要だが、最初はボランティアや社会貢献活動への参加が非日常的なものに感じられたとしても、それを次第に身の周りの生活に直結したものとして認識し、社会の問題についても意識するようになったとき、本当に強い市民がつくられてゆくのではないかと述べました。
また、日本のNPO・NGOは本来果たすべき、市民をつくるための役割を果たしきれていないという点については全員の意見が一致しました。26日の所信表明演説で示された「新しい公共」という概念については、官が中心に担ってきた「公」に依存する社会が限界を迎えている中で発せられたメッセージであるとの見方が示され、市民自らが変化の担い手となって循環を生みだしていかない限り社会変革はもたらされないとの認識で一致しました。
田中氏は、「自発的に課題解決に取り組むことが社会変革を生み出すとは思うが、ではどうやったらその変革の担い手になれるのか」と出席者に意見を求めました。これについて出席者からは、課題の発見・解決が連鎖的に起き、最終的にはサービスの受益者が貢献者へと変わったなどの成果が語られた一方で、社会変革の実現にとって欠かすことのできない「市民からの支持」をどう得ていくかについては、課題が多いとの見方も示されました。また、日本の非営利セクターは分断されており、NPOやNGO自身も社会化されていないのではないかとの意見も出されました。
田中氏はこれらの議論をまとめ、「課題解決」と「市民参加」をその両輪として、非営利組織が成果をあげ続けるからこそ、人々はそのプロセスに参加をしたいと思うようになり、非営利組織の想いを共有してゆくと述べ、この両輪をまわしてゆくことの必要性を指摘しました。そのうえで「非営利組織評価基準検討会」を、小さくても大きくても、その規模にかかわらず、市民の支持を得ながら成果をもたらし続けているような、優れた非営利組織に光を当てていけるような場にしていきたいと語り、今回の座談会を締めくくりました。座談会の詳細な内容は後日、言論NPOのホームページにて公開します。
文責:インターン河野智彦(東京大学)