2008年6月23日、都内の学術研究センターにて、第8回非営利組織評価研究会が開かれました。今回の研究会では、昨年の11月から続けてきた各界の学識者との議論を振り返るとともに、その総括と今後の日本の非営利組織のあり方について、座談会形式で議論を行いました。
本研究会代表の田中弥生氏(大学評価・学位授与機構准教授)、山岡義典氏(日本NPOセンター副代表理事)、山内直人氏(大阪大学教授)が出席し、言論NPO代表の工藤泰志が司会を務めました。
概要
まず田中氏は冒頭で、NPO法が1998年に施行されてからの10年間を振り返り、日本のNPOの数は増えたものの、持続的な経営ができていないものが多い、また、公的なサービスの提供には力を入れているが、NPOへの活動の機会を広く市民に開き、参加を促進し人々の市民性を育むという「市民性創造」の役割を積極的に果たしているNPOは依然として少ないのではないか、と問題提起しました。
これに対して山岡氏は、NPO法が施行されたのは日本経済が疲弊し社会に余力がなかった90年代後半であり、当時の日本の社会にNPOを支える土壌がなかったのではないかと指摘しました。
また山内氏からは、NPOを支えるボランティアが量的に増えておらず、NPOへの寄付額や企業のCSRなども意識的な盛り上がりに留まっており、実態がついてきていないという点などが指摘されました。
工藤は田中氏が提起した論点に関し、NPOの経営の現状は非常に脆弱であるという認識とその原因、およびNPOに期待される市民性の創造について出席者に意見を求めました。この点に関しては、寄付を集めるという意識がそもそも希薄なNPOが少なくないことが指摘される一方で、企業からの寄付は増える傾向にあること、寄付ではなく会費として資金を集めているNPOも多いことも挙げられました。
さらに、この10年をふり返り、市民社会の再編へ向けた動きを感じるか?との工藤の問いかけに対しては、山岡氏から、ホームレス支援など、社会の底辺を支える活動の仕組みはできてきているのではないかとの見解が示されました。しかし同時に、企業がCSRを自社の利益に関連付けて近視眼的な選択しか行わない傾向や、NPOが行政からの資金に頼ってしまう現状も指摘され、NPOを支える社会的な仕組みが弱いことも問題視されました。しかし、NPO法が施行されて10年たった今もNPOは増え続けており、特に本物の事業体として努力しているNPOの存在が大きく、これらのNPOが今後どういった経営モデルを確立するかにかかっているのではないか、との見解も示されました。
これらの点を踏まえ、工藤は次世代のNPOのモデルについての意見を出席者に求めました。まず田中氏が過去6回の研究会を簡潔に要約し、ついで山内氏から、地方税でNPOへの寄付にインセンティブを与える制度の創設が課題であるとの意見が出され、一同は何らかの税控除の仕組みが必要である、との見解で一致しました。さらに山岡氏からは、NPOの人件費を寄付でサポートする仕組みも必要との意見も出されました。これらの意見から、工藤は制度設計上の問題をどうするのかという点で、「市民社会のデザインが問われているのではないか」とまとめ、さらに現状から持続性をもったNPOを新たに作り出すための環境をつくる必要性も指摘しました。
さらにNPOの資金源に関して田中氏から、企業の場合には成果を出せば売り上げというかたちで資金がついてくるが、NPOの場合には成果を出したからといって、必ずしも資金がついてくるとは限らない、つまり成果と資金が連動していないことが本質的な課題であると指摘されました。正当な手続きのもとで優れた成果を上げたNPOに資金が集まるように、制度的な側面から支援することができるのではないか。その方法がパブリック・サポート・テストである。したがって、この手法をより重視するべきではないかとの意見が出されました。これに対して山岡氏は、パブリック・サポート・テストの場合には多数が賛成する事業にのみ資金が流れ、挑戦的な事業には資金が行かない、そのため財団からの援助のような形の支援も重要であるとの見解を示しました。
最後に工藤は「10年後の日本のNPOはどうなっていると思うか」という質問を出席者に投げかけました。山内氏は、ビジネススクールで取り上げられるような成功例や、若い人があこがれて就職したいと思うようなNPOが日本にも出てきてほしい、と述べました。山岡氏もこれに同意し、現在は小規模でもおもしろい事業を行う若いNPOがたくさんある、これらのうち少数でも成功してほしいと述べました。田中氏からは、相互扶助や、自分たちの社会は自分たちで担うという人たちを作り出す重要な装置がNPOであり、それによって国全体のコストも節約され、より持続的な社会を築くことになるのではないか、そして様々な参加機会を通してNPOに関わる人々を増やし、市民性創造の役割を発揮していくことが大事である、という意見が出されました。工藤は、政府・民間企業・非営利組織の競争が増えていくなかで、この競争に向かい合っていくNPOが増えていかなければならないという点を指摘するとともに、NPO自身の課題解決への取り組みと市民社会の制度設計がともに進み、10年後にはしっかりとした市民社会ができていなければいけない、と述べました。
田中氏もこれに付け加えて、これから現在のNPOの総数の1割、約3500でも、NPOがきらりと光るモデルのような存在になっていってくれればいい、それが牽引力になってくれるだろうと述べました。一同もこれに同意し、これからの10年間のNPOは量だけでなく、質の向上が求められるという点で一致しました。
2007年11月から続いてきた非営利組織研究会は、この座談会で一区切りとなります。言論NPOは今後、これまでの研究会の成果をブックレットとして公表するとともに、日本における自立した競争力のある非営利組織の発展に資する研究を続けていきます。