「第3回非営利組織評価研究会」 報告

2008年2月04日

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 2008年1月21日、都内の学術総合センターにおいて、第3回非営利組織評価研究会が開催されました。

今回は、日欧産業協力センター事務局長であるウォルフガング・パペ氏をゲストスピーカーとして招き、EUにおける「ガバナンス」概念の特徴をはじめ、ヨーロッパにおける「公」、「市民社会」の概念やNPO/NGOの役割について議論が行われました。

概要

080121_pa.jpg まずパペ氏は、欧州統合の歴史について触れ、「欧州統合は、戦争の経験を踏まえ、平和と繁栄を実現するための政治的な統合として始まった」とし、だからこそ欧州には多様性を尊重する風土があることを強調しました。また、欧州統合によって一国人というよりも欧州人であるという認識を持つ人々が増えていますが、環境問題をはじめとした国境を超えた問題群の増加によって国家の上位のレベルでのガバナンスへの注目が集まり、それと同時に、ある単一の問題の解決を目指すNGO・NPOの役割も高まりつつある状況を踏まえ、国家による統治の枠組みが揺らいでいる欧州の現状を説明しました。そして、そうした新たな状況に対処するために、村(local unit)や地域(region)、そして国家を超えたEUのレベルをも含めた、より多元的な「ガバナンス」、「共治」の仕組みが必要になっていると指摘しました。
 
 その上で、欧州においては、U.ハーバーマスの「公共圏」に示唆されているような「公共概念」が人々の伝統の中に根付いていたものであるが、それこそが多元的なガバナンスの仕組みを可能にする基盤であることを指摘しました。そして、誰もがその公共圏の維持と刷新に自由に参加し、その成果を共有することができるリナックス(Linux)が欧州で普及したことを例に挙げ、サイバースペースの拡大はそのような公共概念に基づいた市民の社会参加を大いに促しているとしました。

 このような現状認識の下で、パペ氏は「policy shaping」という考え方を提唱しました。
「従来までは、ある程度決まった政策に対する投票行動でしか市民は政策形成過程に参加することができなかった一方で(policy making)、現在では人々は政策形成のより早い段階から議論に参加できるようになり、これが正当化されたプロセスになりつつある」として、民主主義が「quantitative」なものから「qualitative」なものへと変化しはじめたと述べました。そして、「より良いガバナンスのために公的空間をシェアする(sharing public sphere for better governance)」という風土が根付きつつある欧州の現状を踏まえ、ヨーロッパにおけるガバナンスは、20世紀においては「エリートによるトップダウン方式」であったが、21世紀は「ボトムアップ方式」となるだろうと指摘しました。

 パペ氏は、「policy shaping」の時代にNGO/NPOの政策形成過程への参加は不可欠となるとしながらも、NGO/NPOは市民から投票に選ばれた代表ではない以上、より高い正統性(legitimacy)、透明性(transparency)が求められることを指摘しました。当局としても、正統性のある NGO/NPOを認定(accreditation)するためのルールの創設が必要であるとの認識を示し、現在もその検討を進めているとしました。

 今回の研究会は、欧州と日本の「公共概念」やガバナンスのあり方の違いなど、参加者に新たな関心を提起する場となりました。

 次回の研究会は、特定非営利活動促進(NPO法)の制定に深く関わった加藤紘一衆議院議員をゲストスピーカーに迎え、2月8日(金)に行われる予定です。


文責:インターン 山下泰静(東京大学)