NPOの課題にどう答えを出そうとしているのか
工藤 今、皆さんのお話を伺って、第2のテーマにもう近づいてきているので、私の方から皆さんの発言の趣旨も踏まえまして、現在のNPO法改正の論点について審議官に伺いたいと思います。わたしもNPO法見直しの議事録を全て見てみました。審議会の議論も途中からは今のNPOが抱える課題に対してわたしたち実践者として日ごろ感じている実感と近くなっていますが、それでも気になるのは量を拡大していくようなことにこだわっているように見えることです。すでにNPO団体も3万団体を超えましたが、数を追うことが目標になっているのかということを知りたいわけです。
今、パネラーの皆さんがおっしゃっている話というのは量から質の段階に入っていまして、その質の段階では、NPO自身のガバナンスの問題や経営力の問題、それからまさに自立できない、持続性がないという経営環境の問題が、今ここまで出てきています。ところが、審議会の議論を見ていますと、初めからマイナーチェンジであるとか、租税の話は議論してはいけないとか、要するに初めの議論が生み出すはずのソリューションのスペースを狭めてしまっている感じがすごくします。
NPOが、直面している課題の設定をしっかり抽出して、それに対して答えを出すという循環が始まっているかというと、少なくとも審議会の議論からはそれが見えない。そのあたりをどう思っているかということを聞いて、次のステージに議論を進めたいと思います。
堀田 事務局のやり方がまずいのかどうかはわかりませんが、あくまでもこれは審議会ですので、委員の皆さんからの意見を踏まえながら議論の整理をやっているわけです。私も役人ですから、別の審議会では、多少誘導的なことをやらないこともないわけではないのですが、今の審議会自身は、あくまでも委員の皆さんのご意見を聞きながら、あるいはパブリックコメントも集めながら、そうした意見をどう酌み取っていくかという形で、事務局としてはやっているつもりです。
量か質かということですが。このNPO制度の歴史はまだそれほどないのではないかと私は思っております。10年ぐらいだと思いますが、その中で、量はもう必要ないという議論は決してないんだと思います。あえて量を求めているわけでは決してなくて、法人格をできるだけ容易に取れるようにということも、当然できるだけ誰でも入れるような入り口で、かつ、体質の方でうまくいかないNPO法人がやめていく、消えていくというのもいいのではないかということです。我々は別に、量あるいは質という基準で考えているわけではないのではないかと思います。
他方、質という面では、基盤をしっかりと強化していくことは、もちろん非常に重要なことだと思います。そういう意味で収入をできるだけ多様化していく、単なる行政の下請ではなくて、市民から広く支えられるようなNPOの基盤をどうつくっていくのかといったことがまさに現在の審議会でも議論されていると思いますし、大事なポイントだと思います。税制も当然大事な議論の中には入ってくるわけですけれども、税制自体は別の審議会である税調という場もありまして、NPOだけ取り出してなかなか議論しにくいといったこともあり、余り明示的に議論されているわけではありません。しかし、今後恐らく与党、あるいは議員連盟の中で議論されていくときには、税も踏まえた議論がされていくのではないかと思います。
制度設計の方向が間違っているのでは
工藤 では、議論を次のステージに移します。NPO法は震災以降の市民層のかなり大きなボランティアのエネルギーを法的適格としてしっかり位置づけた大きな役割がありました。それが今もう1つ大きな役割が出てきているわけです。井上さんも指摘していましたが、パブリックゾーンの担い手として、あるいは雇用の受け皿としてNPOが期待され、実態的にNPOとの協働が始まっている。しかし、経営的に自立ができない状況の中で協働といっても、それは官側のゾーンの中に下請けとして依存していく現象がでている。結局、自立できない不安定性の中でそれを担わなければいけないという状況があるわけです。経営の問題はあくまでもNPO自身の問題ではありますが、その制度や環境の設計の問題があるのではないか。私も個人的に言えば年度末になると、来年はどうするのかと胃が痛くなるような思いをしながらNPOをやっています。こういう精神マインドをほとんどのNPOが持っている。多分10年ぐらいこのままやっていたら白髪だらけになっちゃうような感じがするわけですね(笑)。NPOに対する役割が大きくなればなるほどこうした状況とのギャップが課題設定になるのではないのか、もしそれが課題ならばそれをどう解決するのか、それが問われているように思います。こういう状況を踏まえて、田中さん、問題提起をしていただけますか。
田中 また法人との比較をさせていただきたいのですが、非常に雑駁な説明をさせていただければ、今度は会社法という法律に変わり、俗称から今度は正式名称になったわけですが、その内容を見ていますと、資金調達の面では緩和をする。その一方で資金調達をするのであるからと、多分私は対の関係だと思いますが、ガバナンスのところがより透明度が上がり、厳しくなっています。そこにはやっぱり資金調達をするために、信頼性を法律の中でも書き込んで、担保をするという明確な論理が私は見られると思います。
でも、NPOの制度環境を作るにあたり、質なのか、量なのかというところで審議官はちょっと困っていらっしゃったようにも見受けられますが、今までの状況を見ますと、できるだけ法人格を付与しやすい、取りやすいように緩和をするという形になっていました。資金調達をしたいけれども、ファンドレージングをする相手に対するアカウンタビリティーの担保が非常にしにくい中でもっと緩和をしていくと、一体どこで信頼性を担保するのでしょうか。ある意味、会社法とは逆の方向ですよね。市場からの資金調達を確保するために信頼性を高めるというのが会社法であるとすれば、信頼性、資金調達をするために高めたいし、寄附の文化もつくりたいけれども、でも設立要件を緩和をするというのでは、国民はなかなか納得しないのではないかと私は思います。
工藤 山内先生はいかがですか。
山内 そうすると、結局、税の話に行ってしまうのですよね。審議官は別の審議会がありますという言い方をされましたが、私は、縦割りからの呪縛から逃れられていない感じがどうしてもしています。法人制度は法人制度、NPO法人制度はNPO法人制度でやります、税は別のところでやりますというと、結局、ファンドレージングをサポートするための仕組みを考えるときの一番重要なところが結局議論できないままになってしまう。そういう切り離し、ディカップリングというのが本当に成り立つのかということがやはり疑問になっています。そのあたりを後でコメントをいただければと思います。
工藤 では、井上さんも一言で短く。
全体設計に遠慮せず取り組むべき
井上 おっしゃるとおりだと思います。相談の中で、「NPO法人は経理をちゃんとつけないといけないですか?」という素朴な質問が来るケースがあります。これは別に特殊な話ではなくて、これに近い質問というのはごまんと入ってくるのです。「いや、それはお小遣い帳でも結構ですから、ちゃんとつけないとだめですよ」というお答えを僕の方はしております。
確かにいろんな形の中で資金調達というのは非常に大きな問題で、私どもは最初から事業を自分たちで回すことをベースにしていましたけれども、そうではない活動をされた方、例えば隣に困っていらっしゃる人たちがたくさんいて、その人たちをどうにかしないといけないという思いでNPO活動をされた方というのは、非常にたくさんいらっしゃいます。しかし、そういう人たちが資金調達の意識を持っているかというと、ほとんどがそこまで持っていない。例えば自立支援法もですが、結局、今回、法人格を持たなければ、補助その他が切り捨てられるということで、実際、駆け込みでほとんどNPO法人化しているわけですよね。
その人たちの経営状況、社会的な状況その他は全然変わっておりません。今後、逆に補助金その他は減っていく傾向にあると思います。その中で、そのような法人が本当に3年後、5年後にちゃんと運営できているかというビジョンを持ってNPO法人化したと、今、現状で多分思えない状況だろうと思います。ただ、そうはいっても、サービスの主体としてのNPOは非常に頑張っている部分もたくさんあるのではないかと思っております。NPOが担っている社会変革機能、先ほどの説明責任なども全部含めてなんですけれども、そのような部分は弱いのかなというのが今の僕の思いです。
山内 もう1点だけ言わせていただきますが、NPO法は議員立法でできているということで、できたときには各会派の全会一致で、議会制民主主義の上からいうと理想的な形でできています。しかし、今度改正するとき審議会で、議員立法だからと、はれものにさわるような扱いになってしまうのは、何となく私はしっくりきません。確かに議員立法でできた法律を骨抜きにするような別の法律をつくるとか、あるいは法律改正をするとかを内閣側でやると、それは非常に問題になると思いますが、今回の改正というのは、NPO法の運用を踏まえて実態に合わせる、あるいはより中身を充実させるような改正をしようとされているのだったら、そんなに遠慮されることはないという気がするんですが。
工藤 それでは審議官にまとめてお願いします。
堀田 議員立法でできた法律を内閣提出法案でつくり変えるというのは、全然例がないとは多分思わないですけれども、通常は議員立法でできたものは、議員提案という形で再び改正されるというケースが多かったと思います。それで、仮に内閣提出法案というような形で改正するとしたら、内閣法制局などの審査を経るわけですけれども、恐らく通常の法制局審査の場合は、ゼロから見直さないといけないということになってきます。例えば言葉遣いの問題から全体的な見直しを必要とするのではないかという気がしていますけれども、そこまでやる必要が本当にあるのか。せっかく議員提案という形で、全会一致で成立している基本的な法律は、やはり国会という場で見直されるべきではないかと。我々国民生活審議会で議論しているのは、あくまでもそういった場で議論の参考にしていただくための1つの論点の整理をやっています。コンセンサスが得られるようなものであれば、そういったものをむしろ積極的に提案していきたいというふうに考えております。
Profile
山内直人(大阪大学大学院国際公共政策研究科教授)
1955年愛媛県松山市生まれ。1978年大阪大学経済学部卒、M. Sc.(英London School of Economics)博士(大阪大学)。経済企画庁エコノミストとして経済白書の執筆など日本経済の実証分析に従事した後、1992年に阪大へ。経済学部助教授を経て、大学院国際公共政策研究科教授。この間、米イェール大学客員フェロー等を歴任。専門分野は公共経済学。特に、税制、医療・福祉、環境、社会資本、NPO・NGO、 ボランティア、国際開発援助等の実証研究を手がける。
田中弥生(独立行政法人 大学評価・学位授与機構 助教授)
国際公共政策博士(大阪大学)。東京大学工学系研究科助教授、国際銀行を経て現職。財務省 財政審委員、外務省ODA評価有識者委員。日本NPO学会副会長。言論NPO言論監事。専門は非営利組織論と評価論。米国でピーター・F・ドラッカー氏に指示。主な著書に「NPOが自立する日 ~行政の下請け化に未来はない~」(日本評論社206年)『NPOと社会をつなぐ ~NPOを変える評価とインターメディアリ~』(東京大学出版会 2005年)、訳書にドラッカー・スターン著『非営利組織の成果重視マネジメント ~NPO、公益法人、自治体の自己評価手法~』(ダイヤモンド社、2000年)ほか。
堀田繁(内閣府大臣官房審議官)
大阪大学経済学部卒。経済企画庁入庁。
井上優(宮崎県NPO活動支援センター所長、特定非営利活動法人宮崎文化本舗理事)
1957年生まれ、宮崎市在住。1982年3月、東海大学文学部史学科卒業。会社員を経て、宮崎地域文化実践委員会、宮崎アート&ミュージック協会など設立。平成14年から(特)宮崎文化本舗理事就任、平成17年度から副代表理事、また宮崎アート&ミュージック協会会長、宮崎県NPO活動支援センター、センター長を兼ねる。
工藤泰志(言論NPO代表)
1958年生まれ。横浜市立大学大学院経済学修士課程卒業。東洋経済新報社で、『週刊東洋経済』記者、『金融ビジネス』編集長、『論争 東洋経済』編集長を歴任。2001年10月、特定非営利活動法人言論NPOを立ち上げ、代表に就任。