8月19日、言論NPO、インドネシアの戦略国際問題研究所(CSIS)、インドのオブザーバー研究財団(ORF)が行った3カ国共同世論調査の結果公表に関する記者会見が行われました。
会見には、戦略国際問題研究所所長のフィリップ・ベルモンテ氏、オブザーバー研究財団シニアフェローのミヒール・シャルマ氏と言論NPO代表の工藤泰志が出席しました。
まず、はじめに工藤から、3カ国共同世論調査について報告がありました。
工藤は、「世界的に民主主義が多くの試練に直面し、民主主義が後退しているとの議論もある中で、東南アジアを中心とする民主主義国の人々と現在の試練をどう乗り越えるか、議論する必要がある」と今回の世論調査実施の背景を説明しました。その上で以下のように、今回の調査結果を紹介しました。
まず、自国の将来について、日本人の39.8%は、「悲観的である(「どちらかといえば」を含む、以後同様)」と回答し、「楽観的である(「どちらかといえば」を含む、以後同様)」の20.7%を大きく上回っています。その悲観的な理由として、「急速に進む高齢化と人口減少に関して、有効な対策が提示されていないから」の84.7%が最多となりました。一方、インドネシア人の65.3%、インド人の75.9%が自国の将来について「楽観的である」と考えており、「悲観的である」との回答はインドネシア人が8.0%、インド人は19.5%にとどまり、日本と対照的な結果となりました。
次に、自国の民主主義が機能しているかという設問では、日本の民主主義が「機能している」と考えている日本人は46.7%、インドネシアの民主主義が「機能している」と考えているインドネシア人は、47.1%でした。他方、インドの民主主義が「機能している」と考えているインド人は65.0%となり、3か国の中で突出して高くなっています。
その「機能していない」と回答した人に理由を尋ねたところ、日本で最も多いのは「選挙に勝つことが自己目的となり、政治が課題に真剣に向かい合っていないから」の60.2%で、「政党が選挙公約を守らず、十分に国民に説明しないなど国民に向かい合う政治が実現していないから」が45.3%で続き、政党や政治家に対する不信が高まっていることを、浮き彫りにしています。インドネシア人では、「政治・行政側の腐敗や汚職が止まらないから」が63.5%で突出し、これに「国内での貧富の格差が大きいから」が35.9%で続いています。インド人でも同様の傾向が見られ、「政党が選挙公約を守らず、十分に国民に説明しないなど国民に向かい合う政治が実現していないから」と、「政治家や政治リーダーに汚職が多いから」の2つでそれぞれ22%ありました。
民主主義は望ましい政治形態なのか尋ねたところ、日本人の47.0%が「民主主義はどんなほかの政治形態より好ましい」と回答しましたが、「分からない」と判断しかねている人も30.8%おり、さらに、「一部の環境や状況によっては、非民主的な政治形態が存在しても構わない」も17.3%いました。インドネシア人では、「民主主義はどんなほかの政治形態より好ましい」が55.1%で最も多いものの、「一部の環境や状況によっては、非民主的な政治形態が存在しても構わない」も21.3%いました。インド人では、「民主主義はどんなほかの政治形態より好ましい」が57.6%で最も多く、3か国の中で最も高い割合でした。他方、「一部の環境や状況によっては、非民主的な政治形態が存在しても構わない」(34.5%)の割合も一番高くなりました。
続いて、世界でグローバル化や国際秩序が不安定化する中、強い政治リーダーを国民が求める傾向にありますが、そうした中で、自国の政治指導者のリーダーシップのあり方について尋ねたところ、日本人の59.7%、インドネシア人の65.4%、インド人の62.6%が「あくまでも民主的な制度の範囲で強いリーダーシップを発揮すべき」と回答しました。一方、「自国の経済や社会がより発展するのであれば、多少非民主的でも強いリーダーシップを持っても構わない」と考える人も各国とも2割程度見られます。
さらに、課題解決や経済発展において、自国の政党に期待しているか尋ねたところ、日本人では「期待できない(「どちらかといえば」を含む、以後同様)」が51.7%と半数を超え、「期待できる(「どちらかといえば」を含む、以後同様)」は15.5%にすぎませんでした。対照的に、インドネシア人では、「期待できる」が58.3%と6割近くになり、インド人では85.9%と圧倒的多数が「期待できる」と回答しています。
その後、インドネシアの民主主義についてベルモンテ氏は、「インドネシアは若い民主主義国であり、1998年のスハルト政権終焉から十数年間の中でいかに民主的な国家にするかを学んできている。人口の5割以上が40歳未満であり、彼らは権威主義体制の下で育っておらず、民主主義が自分の生き方に合っていると感じていることから、国民は民主主義の将来に楽観的であるし、民主主義によって経済の繁栄がもたらされるという期待もある」と語りました。さらにベルモンテ氏は、「インドネシア人は民主主義を離れた強いリーダーを求めておらず、民主主義の中での強いリーダーを求めていることが世論調査結果からも明らかだ」と語り、国民の民主主義への強い信頼を強調しました。
一方で、インドネシアの民主主義を阻害する要因として、司法制度の腐敗を挙げると同意に、政治家が問題を作っているという認識が政治への不信に繋がっていることを指摘しました。
インドのシャルマ氏は、70年前、インド独立後の最初の総選挙は世界から絶対に失敗すると思われていたものの、総選挙は成功し、今ではインドに民主主義が定着していることを指摘した上で、「今回の世論調査により、インドの国民が、国としての将来について楽観的であり、民主主義が機能しており、政党も信用していることが明らかになった」と語り、民主主義への信頼度の高さを強調しました。さらに、「汚職は存在するが、タブー視されることなく問題として公に認識されているということは、言論の自由が存在し、民主主義がその問題を解決しうると皆が考える証左でもある」と解説しました。
その後、記者との間で質疑応答が行われました。
まず、アメリカや欧州での民主主義の後退について、「中間層の衰退が原因」という見方があるとした上で、「アジアでは、未だ中間層が多数派になっていないにも関わらず、なぜ民主主義に対して楽観的な結果が出たのか」との質問が寄せられました。
これに対しシャルマ氏は、西側における民主主義の後退は、中間層の衰退が原因ではなく、グローバル化の恩恵という成果を民主主義が行き渡らせることに失敗した帰結だと指摘し、ベルモンテ氏もこの指摘に賛同しました。
その後も、記者から質問が寄せられるなど、活発な質疑応答が行われました。
今回の世論調査結果を受けて最後に工藤は、「民主主義は望ましい仕組みだが、仕組みを機能させるには、国民が参加する意識を持ち続けないと、誰かに任せるだけの政治になってしまう」と述べた上で、「今、日本の民主主義も大きな試練を迎えており、市民層、メディア、政治が、課題に向き合わなければ、ポピュリズムに迎合したり、一人のリーダーに期待したりするような社会になりかねない」と語り、日本の民主主義を機能させるための議論の必要性を指摘しました。
その上で工藤は、日本の民主主義にとどまらず、国境を越えて民主主義に関する議論が非常に重要だと語り、日本、インドネシア、インドの3カ国を軸としつつ、「これから、アジアの民主主義各国と議論を行う舞台をつくりながら、その舞台をさらに先進民主主義国にも広げていきたい」と今後の抱負を語り、記者会見を締めくくりました。