8月20日非公開会議 報告

2016年8月20日

⇒ 日本、インドネシア、インド3カ国による公開フォーラム レセプション報告
⇒ 「世界の民主主義はどのような試練に直面しているのか ~グローバリズムと民主主義の試練~」
⇒ 「アジアの民主主義は後退したのか~世論調査にみるアジアの民主主義の課題と挑戦~」報告
⇒ 日尼印3カ国の民主主義に関する世論調査結果公表 記者会見報告
⇒ 民主主義の危機を乗り越えるべく、率直な意見交換が行われた非公開対話
⇒ 「世界のデモクラシーは後退したのか?」日本・インドネシア・インド3か国共同世論調査結果


030A0161.jpg 8月20日(土)午前、東京都内の国際文化会館において、前日に開催された日本・インドネシア・インド3カ国による非公開会議と公開フォーラム「世界のデモクラシーは後退したのか?~アジアの民主主義国はこの試練にどう立ち向かうのか~」を受けて、2回目の非公開会議が行われました。

 会議には19日に引き続き3カ国のパネリストが参加し、今後、日本、インドネシア、インドが協力して、アジアに民主主義を議論する枠組みを作っていくことで合意しました。


YKAA0344.jpg 冒頭で、司会を務めた言論NPO代表の工藤泰志は、この3カ国を軸にした民主主義をめぐる議論を今後どう発展させるか、意見交換を行いたいと会議趣旨を説明しました。
その上で、前日の議論を踏まえ、民主主義の発展段階は異なっても合意することのできる民主主義の姿として、次の4点を挙げました。

①国民が自由に意見を言い、選挙制度を始めとする諸制度の中で政治参加する仕組みがあるか
②制度を通じて、諸課題の解決に向けたサイクルが機能しているか
③こうした仕組みが国民から信頼されているか(汚職や選挙制度の問題)
④実際に市民が、主権者、主体者として政治に関わっていけるか
 
 工藤は、①〜③は横軸、④は全てに関わる縦軸であり、国によって個別の状況には差があっても、この4点は民主主義に関して考えるべき最も基本的な共通課題であるとして各パネリストからの意見を求めました。

 これを受けて、日本側パネリストから、前日の議論を通じて、民主主義の枠組みについて、①アイデア・考え方、②実践、③制度の3つの階層に分けて3カ国を整理すると、基本的な考え方については共有されているが、実施状況や、制度についてはかなり差があるとの指摘がなされました。続けて、「例えば、民主主義の基本として、税と信頼というテーマがあり、国民の政治に対する信頼度が高いほど、増税しやすく、高福祉社会になる傾向がある。日本の場合は政治的信頼度が低くて、なかなか増税できない。税金と、国民の政治に対する信頼の関係は、一つの論点になるのではないか」との意見が出されました。

YKAA0335.jpg さらに、他のパネリストから、新しい市民社会のアクターとして、若年層の積極的な動きが見られ、2014年に香港で起きた雨傘革命や、台湾のひまわり運動はその典型事例が紹介され、「先進国、途上国問わず世代間の断絶も見受けられており、新しい世代をどう可視化するのか、そこにアジアの民主主義のヒントがあるかもしれない」との意見が述べられました。

 
YKAA0207.jpg 海外パネリストからは、工藤が提示した4つの論点について、基本的に合意が示されました。その上で、インドネシアやインドの状況として、日本と比べ、まだまだ弱い市民の法的・政治的権利を保障していかなければならないことや、宗教グループ間の対立にうまく対処していく必要があることなどが指摘されました。また、税と信頼の問題については、「租税は市民の義務であるという認識がまだ薄く、それを高めていくことが市民の政治に対する交渉力にもつながる」という意見や、「市民から政治的信頼を得るためには、課題を解決する能力を持った理性的な官僚制度が必要」という意見が出されました。


YKAA0177.jpg 次に、海外パネリストから、インドネシアの民主化は、正しく進んでおり、絶対に後退しないと確信するとしつつも、「マスメディアが9つのコングロマリットで構成されていること、スハルト時代に政治を牛耳ったビジネスマンが、メディアや政党を作っており、立法、行政、司法、そしてメディアの4つの権力が全て企業の元にあり、民主主義の衰退を招きかねない」と民主主義とメディアの問題が提起されました。これに対し、日本側からもメディアの倫理と商業主義について議論すべきと賛同が示されました。


 こうした論点を今後、どう議論するかの枠組みについて、海外パネリストからは「市民社会の観点から、民主化されていない国も含めた新しい市民社会のリーダーが参加するのは重要ではないか」、「若い民主主義国に対しては、支援しながら、問題を改善させることが重要なのではないか」といった意見や、政党内の民主化という問題として、政党の中に独裁者が存在したり、政党の内部が官僚主義化しており、若い世代が活躍できていないこと、ASEAN加盟国の中で、急進的なイスラム主義の裁判官も少数だが出始めており、他の加盟国とも急進イスラム主義について認識を共有すべき、との意見が表明されました。

 また、議論への他のアジア諸国の参加について海外パネリストから、民主主義を建前とする国でも、必ずしも人権や民主主義の促進に積極的ではない国があること、バリデモクラシーフォーラムの民主主義とガバナンスに関するセッションで、ASEAN内の比較的民主的と見られている国の代表団でも、ガバナンスについて熱心に発言しても、民主主義についてはほとんど言及しなかったことがあること、アジアやアフリカ、南米の一部の国には、選挙制度を利用して、独裁的な大統領の任期を延長させるような動きも見られること、などが指摘され、「アジアで民主主義について考える上では、まず、民主化の進んでいる日本や、インドネシア、インドが中心となるべき」との提案がなされました。一方で、バリデモクラシーフォーラムが軍事独裁政権下のミャンマーを招待し、結果として民主化を後押ししたという経験から、「現状は非民主主義的な国の中にも民主主義について学び、促進しようとする人々が存在している。そうした人々にも民主主義についての議論に参加してもらうことで、内部からの変化を促すべきだ」との指摘もなされました。


 こうした意見交換の結果、会議の参加者は、日本、インドネシア、インドの3カ国を軸としつつ、より多くの国に議論を広げていくべきだという意見で一致しました。

 最後に、工藤は、「今回の対話は、想像以上の大きな一歩だと思う。しかし、それが独りよがりではなく、多くの人に理解され、支持されるためには課題に挑み続ける努力が必要となる。この対話が、デモクラシーを考えるための材料を提供し、課題を乗り越えるための議論を国境を越えて行う機会となる。一歩一歩進めていきたいので、今後も皆さんのご協力をお願いしたい」と述べ、非公開会議を締めくくりました。

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