セッション1に引き続き、セッション2では、国会会期中で多忙を極めているにもかかわらず、逢沢一郎・衆議院議員(元外務副大臣)、中谷元・衆議院議員(前防衛大臣)、松本剛明・衆議院議員(元外務大臣)と3名の現職国会議員が会場に駆けつけ、「日本は民主主義と自国の将来像をどう描くか」をテーマに議論を行いました。
政治家は日本の民主主義の現状をどうみているのか
まず、司会を務めた言論NPO代表の工藤泰志が、「日本の政党に課題解決を期待できるか」という設問で、有識者の半数以上が「期待できない」と回答したり、「日本の選挙制度は公平か」という設問でも半数近くの有識者が「公平ではない」と回答するなど、現状に対する厳しい評価が露わとなった有識者調査の結果を紹介。その上で、各氏に日本の政治や民主主義の現状評価を尋ねました。
これに対し中谷氏は、日本のメディアが自由かつ健全であるとした上で、それに立脚する民主主義も健全に発達していると評価。さらに、自らが所属する自由民主党についても、「所属議員がバラエティに富み、喧々諤々に議論を交わしながら政策をつくり上げている。さらに地方支部の声もしっかりと吸い上げている」と語り、政党政治についても適切に機能しているとの認識を示しました。
逢沢氏はまず、政党政治の「命」として「選挙」と「政策立案力」の2つを挙げた上で、有識者調査ではこれらに対する評価が低かったことを「真剣に向き合わなければならない」と語りました。そして選挙に関して、自民党の選挙制度調査会長を務める逢沢氏は、導入後7回の国政選挙を経た小選挙区制について、「成功」としつつも「まだ道半ば」とし、これに不満を持つ有権者が多いことにも理解を示しました。その一方で逢沢氏は、かつての中選挙区制が派閥の対立を激化させ、金権政治の温床となっていたことに触れつつ、「中選挙区制の弊害も思い起こしてほしい」と注意を促しました。その上で、小選挙区制下の議員には特定の政策分野ではなく、広い分野に精通した「オールラウンドプレイヤー」が求められるのであるから、政党も議員も徹底的に政策を鍛えることを最優先すべきであり、「現状を選挙制度のせいにしてはならない」と主張しました。
松本氏は、野党にも良い政策はあるものの、自民党は「総合的な観点からの信頼感」によって他党より優位にあると現在の日本政治の状況を分析。そのように政策に焦点が当たらず、なかなかその意義が有権者に伝わらないことの背景としてメディア報道の問題点を提起。その例として、民主党政権時代に自身も関わった「子ども手当」を引き合いに、「高齢者への配分が多い社会保障費を若年層にもきちんと配分しようという問題意識でやってきたが、メディアでは丁寧に説明することは時間的制約などから難しく、単なる『ポピュリズム的なバラマキ』としか報道されなかった」と振り返り、正しく伝えることのできるような報道の必要性を訴えました。
「民主主義の危機」にどう対処すべきか
次に、工藤は、アメリカ大統領選やイギリスのEU離脱を問う国民投票など、政治家が国民の不安に迎合するポピュリズム的傾向が強まり、これを「民主主義の危機」と感じている有識者が6割近いという調査結果を紹介し、この状況をどう思うか尋ねました。
これに対し中谷氏は、これまで世界秩序の主要な担い手であったアメリカやイギリスでも内向き志向が拡大していることに対して、「これから誰が世界秩序を支えるのか」と「力の空白」がもたらす今後の世界秩序の先行きについての懸念を示しました。その上で中谷氏は、そうした秩序の不安定な時代においては、日本も「自覚と自立」が不可欠であるとし、例えば、「憲法と安全保障」におけるドラスティックな改革も求められるとの見方を示しました。
逢沢氏は、これまでグローバリゼーションと自由貿易体制が世界中に大きな果実をもたらしてきたが、これに対する反発が大きい状況の中では「大きな調整局面」に入らざるを得ないと語りました。そこで重要なこととして逢沢氏は、「G7、G20、さらには新しい国連事務総長などがリーダーシップを発揮し、調整にあたること」を挙げ、それができなければ、ロシア、中国、北朝鮮など権威主義的体制国家が自らの統治のやり方に自信を深め、ますます台頭することになると警鐘を鳴らしました。
松本氏は、グローバル化と格差の拡大は人々の不安を煽り、そこにつけ込むトランプ氏のような政治家を生み出しやすいと語った上で、OECDのレポートを引用しつつ、「自由競争と格差是正のバランスが重要だ。そこの調整ができないとますます不安につけ込む動きが拡大してしまう」と注意を促しました。
これに関連して、工藤が「自民党は大きな政府なのか、小さな政府なのか」と問いかけると、逢沢氏は、「小さな負担で大きな福祉」をやってきたのがこれまでの自民党であったと解説。しかし、それは日本社会の安定に大きく寄与してきたものの、巨額の財政赤字の拡大に直結したため、「いかに持続可能なやり方に変えていくかが今後の大きな課題となる」と答えました。
マニフェストを中心とした政治サイクルを再構築するためには
続いて、工藤は、有権者がマニフェストをもとに政党を選んで投票し、さらに次の選挙ではその履行状況を判断して政権の継続か交代かを決めるという「公約を中心とした民主主義のサイクル」がうまく回っていないのではないかと問いかけました。
これに対し松本氏は、財源と期限を明示した民主党マニフェストに対し、各メディアがその進捗を評価する際に、「ある時点で実現していなければすぐにすべて0点としたことに対し、党内にトラウマができてしまった」と振り返り、選挙、政策、実現というサイクルだけでなく、中長期的に進捗を評価するPDCAサイクルも重要だと語り、この2つのサイクルを専門家が適切に点検・評価し、それを有権者に伝える仕組みが必要だと語りました。
逢沢氏は、マニフェストの登場によって、候補者本位から政党本位の選挙になったとしつつも、「現状は本家イギリスのようにうまくいっていない」と語りました。特に、自党自民党については、「政権公約」と同時に「J-ファイル」という公約集を同時に出すなど、何が本当の国民に対する約束なのか分かりにくくなっていると問題点を指摘しました。
その上で、逢沢氏は、公約を中心とする民主主義サイクルを回していくための方策として、住民にとって関心が持ちやすく、理解もしやすい地方政治のレベルからマニフェストプロセスをつくり直していくべきと提案しました。
中谷氏は、マニフェストや大臣答弁など、政党や政治家の「言葉」の問題点として、「書いてしまうとやらなければならなくなるので、本当にできることしか書けなくなる」という点を指摘。しかし、財政や社会保障など将来世代に対して「つけ」を残さないために、非常に困難であるけれど、今どうしても取り組まなければならない問題は確実にあるとした上で、「選挙に負けることを恐れて各政党がそういった課題についての政策から逃げれば、やがては民主主義によって国が亡ぶことになる」と警鐘を鳴らしました。
「トランプ現象」を日本で起こさないために
これを受けて工藤は、「有識者は日本の政党が将来課題に対する不安を解消する力がないと判断しているが、そうするとそういう不安につけ込むトランプ氏のようなリーダーが日本にも出現するのではないか」と問いかけると、中谷氏は、格差の拡大が続き、政策でその不満を吸収できないとなると、やがては人々の怒りが爆発し、そういったリーダーを招来しかねないとし、「特に、振り子のように揺れやすい小選挙区制ではそのリスクが顕在化しやすい」と指摘しました。
逢沢氏は、大統領制とは異なり、議院内閣制では極端なリーダーは生まれにくいという強みがあるため、「議院内閣制を深化させていくことが大事だ」と述べました。
松本氏は、「政治のマナーとルール」を提唱。トランプ氏が批判ばかりで、何も実のある提案をしていないことを指摘した上で、「政党や政治家は互いに単なる批判をするのではなく、建設的な提案をし合うようなルールとマナーを徹底すべきだ」と語り、それがポピュリストリーダーの出現を防ぐ最善の道だと語りました。
議論を受けて最後に工藤は、有権者と政治の緊張感のある関係が構築されないと、そこにつけ込む政治家ばかりになるとした上で、そうならないためには「政策本位の政治サイクルと競争が不可欠であり、市民側からもそれを促す動きを起こしていくので、政治側もそれに応えて欲しい」と各氏に呼びかけ、白熱した議論を締めくくりました。