言論NPO×笹川平和財団米国
「民主主義の発展に日米は今後どのように協力すべきか」

2017年4月10日

言論NPO × 笹川平和財団米国
「民主主義の発展に日米はどのように協力すべきか


 今、世界でポピュリズム的な政治が台頭し、戦後世界を支えてきた自由や民主主義という規範が揺らいでいます。こうした規範をこれからも発展させていくために、民主主義のあり方を考え、どう促進していくかを真剣に考えるべき局面ではないか。そんな思いから、言論NPOは4月7日、笹川平和財団米国と共催で、日米が世界の民主化にどのように寄与していくかについて議論するフォーラムを開催しました。

 第1セッションでは、現在の世界の民主主義の変容に対する認識について議論が交わされ、第2セッションでは笹川平和財団米国著『民主主義の発展に向けた日米の取り組み(原題・U.S.-Japan Approaches to Democracy Promotion)』の著者から具体例に基づく報告が行われました。
             第1セッション:世界の民主主義 - どのような課題に直面しているのか
             第2セッション:日米は世界の民主主義の発展に対して何ができるのか


セッション1:世界の民主主義が直面する課題とは

 「日米同盟」の根拠となる日米安全保障条約は、両国の安全保障にかかわる軍事面協力を規定した条約と思ってはいませんか。しかし、それは軍事面以外の相互協力も謳っているのです。

IMG_1664.jpg その意味は後述するとして、4月7日、言論NPOは笹川平和財団米国との共催で『民主主義の発展に日米は今後どのように協力すべきか』と題してフォーラムを開催しました。会場は言論NPOが本部を置く東京中央区のビルにある会議場。今回のフォーラムに用意された約60席は、開始の午後4時30分前にはすっかり埋め尽くされました。

 議論は、近日出版される笹川平和財団米国著「民主主義の発展に向けた日米の取り組み(原題・U.S.-Japan Approaches to Democracy Promotion)」の内容をベースに、日米が過去そして将来どのような協力関係を作ることが望ましいのかについて、議論が行われました。フォーラムは前後半の2部構成。第1セッションでは、現在の世界の民主主義の変容に対する認識について議論が交わされ、第2セッションでは本の著者から具体例に基づく報告が行われました。


感情に理性が勝つという保証はどこにもない

IMG_1671.jpg 第1セッションは、笹川平和財団米国会長のデニス・ブレア氏と国際文化会館理事長の明石康氏の対談形式で、言論NPO代表の工藤泰志が司会をつとめました。ブレア氏は米海軍にて34年の勤務経験を持ち、2002年には太平洋軍司令官などを歴任。退役後はオバマ政権において情報機関を統括する国家情報官を務めた日本とアジア問題のエキスパートです。

IMG_1660.jpg 冒頭のあいさつで、代表の工藤が「民主主義の後退とポピュリズムの問題は分けて考えるべき」と指摘。その上で、私たち有権者自身がポピュリズムという問題を、民主主義を考える1つのきっかけとして、この状況を改善する努力をし、課題解決に取り組んでいくことこそ、民主主義を強くしていくことではないか、と語りました。そして、「民主主義が戦後世界の規範としてこれからも発展していくために、民主主義のあり方を考え、どう促進していくかを真剣に考えるべき局面だ」と語り、今回のフォーラムの口火を切りました。

 第1セッションの主要な論点は3つに集約されます。一つ目が現在の民主主義の状況に対する認識です。

IMG_1659.jpg ブレア氏は、第2次世界大戦後、民主主義をめぐっては3回の大波があったと指摘しました。第2次世界大戦後は枢軸国(敗戦国)側の中心であった日本、ドイツが軍国主義から民主主義に転換、これが第1波で、第2波は東西冷戦終了で旧ソ連圏だった東欧諸国が大挙して民主化した時期です。そして、現在が第3の波にあたるとして、「民主主義は世界中に広がったが、フリーダムハウスの調査では、過去11年間で民主主義は後退したと結論付けた。政治制度が民主主義でも、メディアや政府がコントロールしていたり、実態は独裁ということもある。アメリカでもポピュリズムが拡大し、トランプ氏が大統領に選出され、西欧では極右政党が勢力を拡大している」。
さらにブレア氏は「民主主義の発展の経緯を考えると、民主主義は内部からの力によって生まれる。外部から支援することはできるが、決定的な要素はその国の国内にある。平和的な民主主義的運動の方が持続性があり、暴力的手段で政権を交代が実現しても、最終的には権威主義に戻ってしまう」と続け、自国の民主主義を絶えず改善していくことの重要性を主張しました。

IMG_1672.jpg 明石氏は国連時代に経験した旧ユーゴスラビアのPKO(平和維持活動)がうまく機能しなかった経験を開陳し「民主主義を根付かせるのは難しい」と振り返りました。
その上で、「アメリカで今起きている問題は望ましいものではなく、新たな対策が必要だ。今見られる非民主主義的な傾向を解決しなければ、アメリカの憲法が逆にポピュリズムや非民主主義的傾向を保障してしまうことにもなる」として、アメリカの現状に強い懸念を表明しました。
さらに明石氏は、「アメリカでは(行政、立法、司法の3権分立が明確)最高裁判所、米国議会がある。議会はチェックアンドバランスによって、大統領が率いる行政府の権威主義的傾向に対抗できる、その点ではセーフガード(安全装置)を持っている。ただし、多数決の結果がマイノリティの権利を侵害しないためのセーフガードが必要だ。感情に理性が勝つ保証はアメリカにもイギリスにもない」として、今後の動向を注視していく必要性を指摘しました。


中国は果たして民主化するか

 論点の二つ目は中国をめぐる評価です。これについてはブレア氏、明石氏で意見が分かれました。

 まず、工藤が個人の自由と政治参加が保証されても、市民が力をつけないと、民主主義がファシズム=ヒトラーを生んでしまう可能性があること、もう一つはこれまで民主主義体制が経済成長と親和性が高いと思われていたのに、民主主義体制でない中国が高成長を果たした結果、人々が権威主義的な体制に依存してもおかしくないと考える状況が出てきていると、問題を指摘しました。

 これに対してブレア氏は中国についても、民主化促進へ関与していくべきという姿勢をほのめかしたのに対して、明石氏は否定的な意見を述べました。


ブレア 「中国も次第に民主主義的になってきている。漢民族の状況を考えると、台湾も50年前は独裁政権で国民に自由がなかった。それが今では世界で最も活性化した民主主義国の一つになった。つまり、中国人が強いリーダーに管理される性質を持っているわけではなく、権威主義な体制に向かうことを運命づけられているわけではない。これから中国は民主主義的にならなければ、経済を発展・維持していくことはできない。国民に自由を与え、イニシアティブを与えるべきだ」。

明石 「私は中国に民主主義の関する助言をするのはかなり躊躇する。政治の世界ではまだ(民主化)兆候は見えていないが、教育、その他の分野において中国は今までも、現在も多くの前進をしている。中国人は十分賢明で、政治でも前進させる力ある。大きな政治的変革が一気に起こると、かえって困難を招いてくおそれがある。日本と中国には歴上の問題もあり、助言するのはむずかしい」。


トランプ大統領はいま民主主義のOJT中

 三つ目がもう一つの大国であるアメリカのトランプ政権に対する評価です。工藤がこう問いかけました。

 「トランプ政権は自由貿易体制に代表される自由主義的な秩序を懐疑的に見ていることは間違いない。アメリカが自由主義・民主主義のリーダーの地位から降りてしまうのか、アメリカは世界をリードする理念、規範を促進しようという意志を持っているのか」と。

 この問いに対しても、ブレア氏と明石では異なる視点が提示されました。

ブレア 「トランプ大統領はいま民主主義の何たるかを学んでいる。彼は大統領令を出し、例えば主にイスラム諸国からの入国を禁止したが、裁判所はそれは間違っているという判断を下した。これがチェックアンドバランスで、(3権分立の)民主主義だからこそ、こういうことができる。トランプ氏は就任当時、いわゆるオバマケア(医療保険制度)を廃止しようと考えていたが、彼の法案は下院に提出されたものの、野党の民主党ばかりか与党の共和党の一部からも反対され、この重要法案を通す試みは失敗した。

 このように彼は日々OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)で民主主義を学んでいる。民主主義の本質は妥協。一つのグループの権利を他の犠牲によって通すことではないし、トランプ氏にこれを覆す力はない。それぞれに権限が与えられているからだ。民主主義は努力せず、当たり前に存在するものだと油断すると失われる。逆に危機や課題に直面した時にこそ、民主主義は発展するものだ」。

明石 「トランプ氏のOJTはアメリカ国民、その他の国の人々にとって、(いろいろなコスト)が高くついている。例えば、今日、トランプ氏は巡航ミサイルでアサド政権に攻撃した。いまアメリカがやるべきことは、アメリカ国内の全ての人に機会を与えることではないか。アメリカは所得の格差が拡大し過ぎている。

 教育に関していえば、能力があっても学費の問題で大学に進学できない子がたくさんいる。かつて製造業の中心だったラストベルト地域の州で、ブルーカラーの人たちはがトランプ氏に投票したが、それは彼らの"いらだち"の表明だった。もっと良い情報が均等に伝わっていたなら、もっと賢い選択をしたかもしれない。このようなに、社会における格差は無視しできない。所得格差の問題は、日本もアメリカに次いでおり、行き過ぎないようにしなくてならない」。

 こうした認識を踏まえた上で、民主主義の促進のための個別具体策を論じるセッション2へ議論は引き継がれました。

⇒ セッション2:日米の専門家が語る民主主義支援「奮戦記」~巨大化する中国の影~

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