言論NPO代表の工藤泰志は、4月25日~28日の日程でドイツを訪問しました。今回の訪問では、日本青年会議所が言論NPOとの協力で開催する「日独未来対話」へパネリストとして出席したほか、いまヨーロッパで大きく揺れ動いている民主主義や政党政治の在り方、ポピュリズムの台頭などの問題やEUそのものの未来、そして自由や民主主義を規範とした国際秩序の行方について、ドイツのシンクタンクや有識者と活発な意見交換を行いました。
EUエリート主義からの脱却が課題
まず工藤は、ベルリン日独センターが主催したドイツ有識者との昼食会に出席し、ドイツの民主主義制度の研究家でベルリン自由大学オスカー・ニーダマイヤー教授や、ジャーナリストのブリジッテ・フェーレ氏、「東京会議」にも登壇したドイツ国際政治安全保障研究所調査ディレクターのバーバラ・リパート氏ら4名のドイツ人有識者とヨーロッパの民主主義の現状や、今年9月に控えるドイツでの総選挙の動向について意見交換を行いました。その中でニーダマイヤー氏は、EU統合について、これまでの統合はエリート主導で行われてきており、一般の国民には「関係ないもの」という意識が広がっている。自分たちの国の将来を決定できないという感覚へ寄り添うようなポピュリズムが台頭すれば、EUの未来は難しいものになる。一般市民へのアクセスする方法を学んでいかないといけない、と警鐘を鳴らしました。
続いて工藤は、ドイツの有力各シンクタンクを精力的に回り、言論NPOの政策評価をはじめとする民主主義への取り組みや、ドイツやヨーロッパにおけるポピュリズムの台頭、トランプ政権の自由主義や多国間主義への反協調路線に対するドイツの対応などについて議論を行いました。
最初に訪れたフリードリッヒ・エーベルト財団では極右過激派・右派ポピュリズム問題担当のラルフ・メルツァー氏と面会し、右派ポピュリスト政党である「ドイツのための選択肢」の支持率上昇に代表される同国の民主主義の課題について意見交換を行いました。知識層のドイツ国内の民主主義における役割については、右派ポピュリズムもある知識層のグループが主導しており、各派が政治的影響力を競っている現状にあると、メルツァー氏は分析。こういったポピュリズム政党の支持層が、特定の知識層によって操作されている現状から脱し、民主主義や政党の市民の声を聴き、問題解決を行う力があるという信頼を勝ち取る必要があると述べました。
日独パートナーシップの重要性で合意
ジャーマンマーシャルファンドでは、中東欧民主化支援担当のジョーグ・フォーブリグ氏と面会。同氏は国内で民主主義が揺らぐ中、中東欧など他の国でどのように民主主義を支えるのか、アプローチが難しくなっている現状について言及し、国内での民主主義強化と他国での民主化支援は同時に進めていかなければならなくなっている、ロシアからのフェイクニュースなどによる民主主義への攻撃がある中、民主主義国同士が民主主義の強靭性を高めるための協力を行うことはより重要になっていると述べ、今後さまざまな形で協力に向けた議論を継続することで一致しました。
続いて工藤は、民間のヨーロッパ地域政策シンクタンクである欧州外交問題評議会共同創設者のマーク・レナード氏と面会しました。レナード氏は国境を越えた国際公共財、例えば人権や通商、環境などの問題における非政府アクターの重要性を強調しました。さらに同氏は2008年のリーマンショック以降、反自由主義の傾向が出て主権概念や国家による介入が復興しており、インターネットなどを通じたコネクティビティーや依存関係が武器・脅威になりうる時代に突入している、という懸念を示しました。これに対して、工藤は外交が機能しない中、国境を越えた「公共圏」の担い手として、ジャーナリズムや市民が平和構築へ挑むために言論NPOが構築してきた北東アジアにおける対話チャネルについて紹介し、ナショナリスティックな世論に対抗する、課題解決の世論という対立軸を作り出すために、国際的にも国境を越えて民間のアクターが強いネットワークを作る必要があるのではないかと呼びかけました。
続いて、ドイツ外交問題評議会所長のダニエラ・シュワルツァー氏、同評議会が発行する外交誌「国際政治」編集長のシルケ・テンペル氏と面会。シュワルツァー氏は、言論NPOの取り組みについて、まず足元の民主主義を固めた上で、外交問題である地域の平和構築につなげていることで、筋の通った活動になっていると高く評価。さらに、次のような認識を示しました。トランプ政権誕生により、環太平洋関係がこれまで同様に多国間主義を基にした協力関係を継続できるとは限らなくなっている。その認識はドイツの外交コミュニティーにも存在しているとしたうえで、自由や民主主義の規範をベースにした国際秩序へ日独のパートナーシップは非常に大事になってくるのではないか、という工藤の意見に賛同し、今後も様々な形で議論を継続したいと期待を寄せました。
G7に提言した「東京会議」に高い評価
最後に、米外交問題評議会が主催する世界25カ国のシンクタンク会議カウンシルオブカウンシルズのメンバーを言論NPOと共に務めるドイツ国際政治安全保障研究所のフォルカー・ペルテス所長と、アジア部長のハンス・ヒルパート氏と面会。北朝鮮問題、国際貿易の今後をはじめとする国際情勢に関する意見交換を行った後、自由主義や民主主義に関するお互いのシンクタンクでの取り組みについて意見交換を行いました。最後にペルテス所長は言論NPOの「東京会議」について、「ポーランドやハンガリーなどヨーロッパでも民主的に選出された政治家が、民主主義を崩している現状がある。トルコなどもそうだが、権威主義的な動きが強まっている中、自由や民主主義を高く掲げて議論を行いG7への提言をするという動きは非常に素晴らしい」と評価したうえで、来年はぜひ自分自身が参加したいと述べました。
また、工藤はドイツ社会民主党ロルフ・ミュゼニック議員を表敬し、言論NPOの活動を紹介するとともに北朝鮮の問題で緊張感を増すアジア情勢について意見交換を行いました。
2日目には、日本青年会議所主催「日独未来対話」へ工藤はパネリストとして出席し、日本とドイツの若手経済人や有識者とともに会議に参加。ドイツと日本が直面する民主主義の課題の現状について、活発な意見交換が行われました。(※)本会議の議論詳細については後日別途ご報告します。
最終日には2015年に言論NPOがエーベルト財団と共催した「日独シンポジウム」へパネリストとして登壇したマティアス・バルトケ議員と面会しました。2年ぶりにバルトケ議員と再会した工藤は、「東京会議」をはじめとした2015年以降の言論NPOの取り組みについて説明をし、自由や民主主義などの戦後の国際システムを支えてきた規範への挑戦が高まる中、ドイツと日本の一層の関係強化を呼びかけました。それについてバルトケ議員は、「東京会議をはじめとする言論NPOの取り組みは非常に重要であり、今後もぜひ言論NPOと様々な形で協力をしたい」と述べました。
ドイツ訪問を終えた工藤は「民主主義を考え、行動するうえで、両国の協力が重要だという点で認識が一致した。このことが最も大きな成果だった」と述べています。帰国後工藤は、5月上旬から中旬にかけて、まずはインドネシアで行われる東南アジアとの民主主義対話を行い、その後アメリカで行われる米外交問題評議会主催の世界シンクタンク会議・カウンシルオブカウンシルへ出席し、各国のシンクタンクや有識者と民主主義や世界が直面する課題に挑む議論を行います。インドネシア訪問やアメリカ訪問については、言論NPOのホームページで随時報告を行います。ぜひご注目下さい。