「第3回アジア言論人会議」が行われた9月4日、同会議を主催する言論NPOは都内で記者会見を開き、日本、インドネシア、インド、マレーシア、韓国の5カ国で実施した民主主義に関する世論調査結果について、記者会見を行い発表しました。
まず、日本側の調査結果を言論NPO国際部長の西村友穂が説明しました。特に強調したのは、「民主主義は他の政治形態より好ましい」という声が各国4割を超え、民主主義への信頼は根強いものの、「民主主義は機能していない」、「どんな政治形態でも構わない」などの見方も広がっていることでした。
主なポイントは以下の通り。
・世界の民主主義の動向を「世界の民主主義は盤石」「民主主義自体を否定する大きな問題ではない」など楽観視する見方は日本で約4割、インドネシアで半数あるが、「民主主義は危機的な状況」や「この状況を改善するのは困難」とする見方も日本で2割越え、インドネシアで4割越えも存在しており、世界の民主主義の状況について、アジア各国の民主主義への認識にも影響を与え始めている。
・「民主主義はどんな他の政治形態よりは好ましい」との回答が各国で4割超となるなど、依然、民主主義に対する信頼は根強いが、「一部、非民主主義的な形態でも構わない」、「どんな政治形態でも構わない」という回答も増えている。特に顕著な例としてインドの調査結果を挙げた。
・自国の民主主義について、「機能していない」という声もそれぞれ無視できない程度、存在する(日本は約4割、インドは約3割、マレーシアでは半数以上)。政治のリーダーシップに関する設問でも「多少非民主的でも強いリーダーシップが重要」とする回答が増加し、特にインドでは4割近くになっている。
・自国の民主主義が機能していない最も多い理由として、「政治は選挙に勝つことだけが自己目的となり課題解決に取り組んでいない」や「政治、行政の汚職」を指摘する国民が多いことは各国で似通っている。
・民主主義のシステムを支える様々な組織や機関への信頼についても、選挙で選出される政治家で運営される「国会・議会」や「政党」、また政治を監視すべき「メディア」への信頼が低く、「軍」や「警察」への信頼が高い。
・「政党に課題解決を期待できるか」との問いでも、日本の約6割、韓国の約5割、インド国民の約4割が「期待できない」と回答している。特に、日本については、自国の将来を悲観的に見る声が半数近くになっているが、こうした課題解決を政党に期待できる、という回答は2割にすぎない。
政治家が課題解決に向かい合わないために、国民の信頼が低下している
続いて、言論NPO代表の工藤泰志が補足説明を行いました。工藤は、「トランプ現象など欧米が受けている民主主義への挑戦はアジアでも見られる。民主主義の運営が未だ十分でなく、それへの懐疑論が一定数出ている」と指摘。また各国で、「選挙で選ばれる政治家やメディアへの信頼が低い一方、軍(自衛隊)、警察の信頼が高い。その理由として、政治家が課題に向き合わないから、別のリーダーを選んでしまう。日本ではこの現象がさらに進行している」と分析しました。
【インドから見た世論調査結果】
ほとんどのインド人は民主主義の現状に楽観的
自国の政治指導者のリーダーシップにについて尋ねた設問では、「多少、非民主的でも強いリーダーシップが重要」と答えた人が増え、特にインドでは4割近い数字になりました。会見に同席したインドのジャーナリスト、パラビ・エイヤー氏は、「インドの意見は混在していて、6割もの人が民主主義は機能していると考えている一方で、民主主義がベストではない、という意見もある」ことを紹介し、インドでは雇用など経済面から強いリーダーを望んでいると分析しました。
また、軍への評価については「いつも評価されている」とした上で、その理由として「軍ではクーデターは起きていないし、汚職も政治介入もない一方で、政治は汚職まみれだと評価されがちだ」と語りました、しかし、ほとんどのインド人は世界的に民主主義が後退しているとは見ておらず、楽観的だと世界一の民主主義大国について語りました。
【マレーシアから見た世論調査結果】
民主主義が機能していな背景として、経済発展が進んでいない現状を指摘
「自国の民主主義は機能している」との設問で、「機能していない」との回答が半数以上(56.1%)となったマレーシアの調査結果について、イブラヒム・スフィアン氏(ムルデカセンタープログラム・ディレクター)は「マレーシアの調査結果は、世界の民主主義が直面している課題をよく表している。民主主義の歴史が新しいからでもあり、リベラルなポピュリズムが多く実践されている」と指摘。その背景として、アイデンティティ政治や、移民労働者が多く存在していることで、富の偏在が起き、多くの人は不満を持っており、特に実質賃金の上昇がないなど、経済発展の問題を挙げました。
【インドネシアから見た今回の世論調査結果】
インドネシアの民主主義は脆弱であり、
信頼向上のためには地方のリーダーが公平なサービスを提供することが必要
一方、5カ国で最も「民主主義は機能している」との回答が多かったインドネシアの結果について、アティ・ヌルバイティ・ハディマジャ氏(ジャカルタポスト副編集長)は、「インドネシアが非常に脆弱な民主主義国家であることを裏付けている」と指摘しました。その理由として、アディ氏は「7割近くの人が民主主義を支持しているが条件付きであり、多くの人は強いリーダーシップを求めている。また、民主主義に重要な要素として多くの国民は経済成長と繁栄を掲げているが、民主主義の基本でもある正義、公平を挙げる人は極めて少ない」と語りました。さらに、組織として一番信頼されているのは宗教組織で、政党やメディアではないことを指摘。その上で、「地方のリーダーは汚職にまみれているが、彼らが公平なサービスを提供すれば、民主主義の信頼を高めることが出来る」と、民主主義の信頼向上に向けた未来への希望を語りました。
最後に工藤は、「民主主義は課題解決のメカニズムが回らないと不信感につながる。アジアの民主主義にも問題が出てきており、民主主義を強く鍛え直すためにも、午後の公開フォーラムで話し合っていきたい」と、会見後に行われる「アジア言論人会議」への期待を込め会見を締めくくりました。